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DILL流 21日間で340kmを歩いたロングトレイルでの食事情

2016.06.20 Mon

DILL eat,life.山戸浩介・ユカ夫妻 DILL eat,life. オーナー

『DILL eat,life.』はアウトドア好きの
山戸夫妻が切り盛りする八ヶ岳南麓の食堂。
連載第5回目となる今回はオーナーシェフであり、
料理研究家の山戸ユカさんによる米国ロングトレイルでの食について。

 みなさんこんにちは。「DILL eat,life.」の山戸ユカです。

 今年は猛暑になるとの予想が出ているようですが、今年はどんな山に登ろうと考えていますか?

 今まで手作り行動食のレシピをいくつかご紹介してきました。なるべく添加物の入ったものを食べたくない私たちにとって(しかもオーガニックスーパーなどない田舎暮らしということもあり)食べたいものは自分で作るというのは当たり前のことになっています。

 行動食同様に山での食事も私たちはインスタントラーメンなどはあまり食べられないので(お腹が壊れちゃうから山では死活問題)、重いのを覚悟で野菜やら豆やらを担いで登る羽目になるのですが、着替えのTシャツを削ってでも野菜を持っていきたいと思ってしまう根っからの食いしん坊なこともあり、さほど苦にも思わず山での料理を楽しんでいます。

 普段は日帰りや1〜2泊程度山行が多いので、食事計画はさほどシビアに考えずとも食べたいものを食べたいだけ(持てるだけ)持っていけばよいのですが、1週間の縦走ともなれば話は別で、持てる食材のなかで栄養価やエネルギーのことも考えながらやりくりしなければなりません。

 そしてそれが3週間になったら……。

 2012年秋に私たちはアメリカのジョンミーアトレイル(以下JMT) 340キロを21日間かけて踏破しました。

 21日間で食料が調達できるのは3日目と5日目の小さな売店と、10日目に事前に自分宛に送っておいた荷物をピックアップするのみ。前半の売店はどの程度の食料が調達できるのかわからなかったため、実際には10日分の食料をすべてザックに詰め込んで歩くことにしました。

 JMTではクマがハイカーの食料を狙うという被害が相次いでいたため、ベアキャニスター(通称クマ缶)という強化プラスチック製の巨大な容器の携行が義務付けられており、食料はもちろん匂いの出る日焼け止めやリップクリームなんかもこの中に入れ、さらに寝るときにはテントから少し離れた場所に置かなければなりません。

 しかしこのクマ缶が意外に曲者……。

 とにかくザックの中での収まりが悪い!! 縦に入れても横にしてみてもなんだかしっくりこない。21日間毎日出してしまってを繰り返しても結局いい収納方法は見つからず、とりあえず先にクマ缶を入れて、隙間にダウンやら着替えをギュウギュウ詰め込む方式に落ち着きました(途中パッキングするのが面倒なのか、クマ缶を抱えて歩いているツワモノも見かけました 笑)

 さて私たちがJMTで何を食べていたかという話に移ります。

 先にお話したように、添加物入りのインスタント食品が食べられない(食べたくない)上に食いしん坊の私たちは、念願のJMTに行くのだから1食たりとも妥協しないぞ!と心に決め、日本でしか買えないであろうフリーズドライの野菜各種(キャベツ、白菜、ゴーヤなど)、漬物(京都の老舗漬物屋の商品)、白米(味付きのフリーズドライの米はアメリカでも買えますが白米や小豆ご飯は日本でしか買えません)、粉末醤油と粉末味噌(こちらもネットで購入)、早ゆでパスタ、車麩、無添加インスタントラーメン以外は現地で揃える作戦に出ました。

 幸いにもサンフランシスコ郊外に友人が住んでいたため、そこを拠点としながら歩き出す前の5日ほど、日系スーパーやオーガニックスーパーを回って残りの食材を集めることができました。

 現地で購入した食材は、白米、クスクス、小麦粉、粉末マッシュポテト、グルテンミート、豆、切り干し大根、フリーズドライのミックスベジタブル、オートミール、フリーズドライの卵、アメリカのトレイルフード数種、ズッキーニ、ナス、芽キャベツなどなど。

 とは言え、最長で1週間の縦走しかしたことのない私たちにとって、21日間にどれくらいの食料が必要なのかは未知の世界。そこで今回はざっくりとした献立を決め、あとは残りの食材を見ながらやりくりしていくという、その名も「雨の日の主婦作戦」(今日買い物に行くのめんどくさいわ〜冷蔵庫にある食材でなんか作りましょ、というやりくり上手な主婦のように何日も買い物に行かずになんとか乗り切ること)にすることにしました。

 料理をするにあたり、燃料の計算も重要なポイント。JMTでは既存のファイヤーピットでのみ焚き火ができることは知っていましたが、どの程度の焚き火ができるのか、また毎日そんないい場所が見つかるのか? など焚き火調理に頼るのは危険と判断し、ガソリンストーブのほかにサブとしてカートリッジ式の小型バーナーも持っていくことにしました。が、結局21日中15日は焚き火で調理をすることができたため、燃料はかなりあまりました。

 焚き火調理は私のもっとも得意とする分野。焚き火で炊いた白米と切り干し大根の煮物に味噌汁と漬物という、「ここは八ヶ岳の編笠山のテント場か?」と思いたくなるようなメニューから、仲良くなったアメリカ人ハイカーとトレードしたピーナッツバターとチョコレートをたっぷり塗った焚き火パンケーキ、スープで戻したクスクスとフリーズドライの卵を混ぜて焼いたスパニッシュオムレツ、トレイルの前半ではズッキーニや芽キャベツなどの野菜をたっぷり使ったペンネ……などなど。

 今思えばよくそこまでやったな〜と自分自身感心してしまうほどですが、毎日重たい荷物を担いで20キロ前後の距離を歩き続けていると、頭に浮かぶのは食べもののこと。素晴らしい景色に感動しながらも慢性的な空腹感がつねに頭を支配し、早くテントを張ってご飯を食べたい!!!!! という気持ちが日に日に強くなっていったのでした。

 次回はアメリカのトレイルフード事情と、JMTで知り合ったハイカーから教えてもらったトレイルフードの作り方をご紹介します。
(文=DILL山戸ユカ)

加筆:JMTでの焚火について

 既存のファイアーピットがある場所でしか焚き火はできず、新しいファイヤーピットを作ることは禁止されています。また私たちがトレイルを歩いた時(2012年)は基本的に1万フィート以上の場所での焚き火は禁止でした。もちろん私たちも新たに炉を作ることはなかったし、水場が少なく危険と感じる場所では焚き火を一切しませんでした。

 またその年によって状況はつねに変化し、事前にパーミッションを取るパーミットオフィスでもその説明をきちんと受け、承諾した人のみが歩くことを許可されます。そして途中途中レンジャーステーションに立ち寄ったり、道すがら出会うレンジャーからも常に情報を得て歩いていました。私たちの歩いた2012年は1万フィート以下というレギュレーションでしたが、現在は6,000フィートに変更されたようですね。

 自然への敬意を忘れずに、人間の小ささを感じることのできる素晴らしいトレイルだったと思います。
 

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