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地底は人類に残された神秘の世界!? ケイビングで狭い穴を通り、青い地底湖を見に行こう!
2021.07.01 Thu
河津慶祐 アウトドアライター、編集者
「静寂に包まれた洞窟の中、頭上で石が壁に当たる乾いた音が2回、響いた。(中略)瞬間的に壁に体をつけたが、時すでに遅し。(中略)握りこぶし大の石がヘルメットをかすめて左肩に直撃し、と同時に、石が当たった衝撃で体ごと数メートルほどふっ飛ばされて、洞窟の地面に叩きつけられた」
こんな書き出しからはじまる『洞窟ばか』という本がある。洞窟探検家「吉田勝次」の著書だ。TBSで放送している『クレイジージャーニー』で気になった人も多いだろう。
6月の某日、岐阜・関市にある「道の駅 ラステンほらど」に来ていた。「洞窟探検プロガイドチームCiaO!」にてケイビングツアーに参加するためだ。
この「CiaO!」は国内で唯一の洞窟スペシャリストが運営するケイビング専門のガイドチーム。前出の吉田勝次さんが主宰している。ほかにもケイビングツアーを開催しているところはあるが、ここがほかと異なるのは「JET(JAPAN EXPLORATION TEAM)」という国内外の未探検洞窟の探査・測量活動を行なっている団体をルーツとすること。商売というよりも、多くの人に洞窟の魅力を知ってもらい、かつ「仲間」を集めることをメインの目的としているという。
道の駅で合流した「CiaO!」のガイドと拠点となる山小屋へ移動する。ここが今回のツアーの出発地点となる。ガイドは「ゆかりん」こと山口夕佳里さん。フジテレビ『ハンターガール』で「洞窟ハンター」として紹介された女性だ。もともと看護師として働いていたが、この「CiaO!」のツアーに参加し、一気に洞窟の魅力に引き込まれ、1ヶ月後には仕事を辞めてガイドに転職してしまったツワモノ。洞窟看護師という肩書きで、ガイドとしても、探検家としても活躍している。
なんと、ゆかりんの身長は138㎝! ちいさくてコンプレックスだったが、ケイビングではその身長が活かされる場面も多く、いまは気に入っているという。
山小屋で注意事項と、ヘルメット・つなぎ・サポーター・長靴といった装備一式を借り、着用したら、いよいよツアーがはじまる。
めざす洞窟までは歩いて5分ほど。車も通れるアスファルトの道からほんの数十秒、山に入ると、突如として大人がギリギリ通れそうな大きさの穴が現れる。
「穴の中から冷たい空気が流れ出てきていますよね。これは外気のほうがあたたかいから。空気は冷たいところからあたたかいところに流れるんです。逆に寒い日だと空気が中に入り込んでいくんですよ」
そんな説明ののち、早速、入洞する。洞窟内の気温は年中一定で13度前後と教えてくれた。ひんやりとしていて気持ちがいい。
こんな所に入れるの!? という穴に入っていく。その土地の年間の平均気温が洞窟内の気温になるという。
いざ地底の世界へ!
ケイビングというアクティビティは一般的にはなじみが薄いかと思う。知っていても、テレビで見た、という程度だろう。アウトドアを仕事にしていると「やっている」「やったことがある」という知人が少なからず存在するのだが、ケイビング初体験をガイドに頼んだのには訳がある。それは、懇切丁寧に説明をしてくれるから。
「洞窟のほとんどは石灰岩でできているんです。岩に小さな亀裂ができ、そこに水が流れるようになる。アルカリ性の石灰岩は酸性の雨によって、内部がちょっとずつ侵食・溶食されて空洞ができる。そこへ、なにかの拍子で入り口ができると洞窟になります」
このように、ガイドツアーに参加すると洞窟の成り立ちから、世界のケイビング事情まで、書き切れないほどの話を教えてもらえる。
せまい箇所は四つん這いで進む。でもまだこれは序の口。のちにもっと大変な場所が……。
洞窟内にある地底湖の水を飲む。太陽が当たらないので微生物が繁殖せず飲用ができるそう。
洞窟の中をヘッドライトひとつで進んでいく。観光用の鍾乳洞とちがい、道を整備していないので、微妙な起伏や穴など、自然そのままの姿を感じられる。
菌類についた水滴が光って幻想的。
いちばんの見どころである地底湖。画像に補正はかけておらず、実際にこの絶景が眼前に広がる。前日の雨の影響でかなり水量が多いらしい。水に不純物がほぼなく、虫や落ち葉など障害となるものもないため、水滴によってできた波紋はキレイな円を描いて、どこまでも広がっていく。
ライトを当てる角度によって地底湖の見え方が変わる。湖底に岩があるように見えるのは「逆さ富士」と同じ鏡面反射によるもの。実際は天井の岩肌が水面に反射し見えている。
「侵食や溶食によって空洞ができるといいましたが、石灰岩が1㎝削られるのにどのくらいの歳月が必要だと思いますか?」
そんな質問に頭を悩ます。いま立っている場所では天井までの高さが2mほどだろうか。さらに、上へ向かっている穴がいくつも開いている。これだけ大きな洞窟がつくられたことを考えると、1㎝程度なら数年で削られてしまいそうなのだが……。
「なんと100年もの歳月を要するんです! この洞窟は推定50万年もの月日によってこの形になったといわれています。石灰岩はサンゴ礁などの死骸が堆積したものなんですが、3億年前にハワイのサンゴ礁でできた石灰岩がここまで移動してきて、そしてこの洞窟ができました」
「太古の歴史を感じる神秘的な空間を探検できること、それがケイビングの魅力のひとつ」と、ゆかりんはうれしそうに語ってくれた。数十万年という人類の歴史がちっぽけに感じてしまう。
ほふく前進で、高さ30㎝にも充たなそうな穴を進む。コースの前半は洞窟の話や絶景、後半はスリリングな難所を楽しませてくれる。
膝下まで水に浸かる場面も。「え!? こんなに濡れるの」と思うかもだが、このあともっと濡れることに。
途中、全員のヘッドライトを消し暗闇にしてみる、という体験があった。夜の森のなかなど、暗いなと思うシーンはよくある。だが、どんな暗闇でも目を凝らせば慣れてきてある程度は見えるものだ。しかし、洞窟は一切光が入らないため、どんなに目を凝らそうと慣れることがなかった。目を開けていても閉じていても “暗闇” しかない。
さらに、洞窟には生物がほとんど生息することができない(*1)ため、匂いがしない。するとしても自分たち人間が発する匂いだけなのだ。
(*1) 石灰岩のカスを食べて生きるエビや、地上と洞窟を行き来するコウモリなどがいたりもするが、日の光がないため、基本的には無生物。
視覚と嗅覚が遮断されると、代わりに聴覚が鋭敏になってくる。すると、かなり遠くの水滴の音が聞こえてくるようになってくる。
「ぴちょん。ぴちょん」
狭い空間で音が反響し、心地よい音色が響き渡る。
人がぎりぎり通れるほどの穴を抜けてきたところ。狭くて、さらに下り坂だった。先の様子を見なければいけないため、ケイビングでは、基本的にどんな穴でも頭から入っていくのだという。
手足を壁に突っ張る「チムニング」と呼ばれる技術で移動する。すこしわかりにくいが、下には身長くらいの深さになる水が溜まっている。内緒で教えてくれたが、ガイドもたまに落ちてしまうらしい!?
最後の難関。ここがいちばん辛かった! 半身を10度台の水に浸けながらほふく前進しなければいけない。しかも一瞬だが、顔を真横に向けて息をしながら進むほど狭くなっている。水に入っている間は「ヒ〜! 寒い〜!!」と自然に声が出てしまうが、洞窟内は風が吹いていないため、出るとそれほど寒くなくなる。
ツアー中は同じ道は通らずに進んでいく。行き止まりかと思いきや足元のちいさな穴に入っていったり、細い亀裂を滑るように降りていったり、「これって入り口に帰れるの?」と不安になりながらも進むと、なんといつのまにかスタート地点に戻ってきていた!
一本道ではなく、複雑に入り組んだ洞窟内の道を、ガイドはすべて覚えているというからおどろきだ。案内するお客の力量や、そのときの洞窟の様子でコースを変えるという。
洞窟から出ると、いままで感じることのなかった、風や自然の匂いが一気に押し寄せてきた。洞窟は、地上とは完全に隔離されている世界だというのを感じさせられる。
山小屋に戻り、シャワーを浴びて着替えると、ゆかりんが洞窟の水でいれたアイスコーヒーを出してくれた。それを飲みながらケイビングの話を聞く時間。これもまた至福のひと時であった。
今回、体験したのは「アドベンチャーコース」。2時間という短い時間ながらも、ケイビングの基礎をこれでもかと教えてもらえるスタンダードなコースだ。これを受けると、さらにむずかしい「ハイパーアドベンチャーコース」や、沖永良部島や南大東島で行なう「スペシャルツアー」にも参加できるようになる。
『イッテQ』でも放映された沖永良部島の「銀水洞」。これを発見(*2)したのは吉田勝次さん。もともとは水のない涸れた状態だったのだが、ある日、講習会の事前調査で訪れてみたら、この状態になっていたそう。棚田に水が溜まり幻想的な風景をつくり出している。
(*2) 正確にいうと「再発見」。詳しくは『洞窟ばか』にて。
最後に、冒頭で書いた「落石で洞窟の地面に叩きつけられた」の続きが気になっていたりしないだろうか? 落石が当たった左肩は骨折。そして残った片手で300mの縦穴を “30時間” かけて登り返したのだという。信じられない……。
山でさまざまな辛い体験をしている筆者であっても、さすがにここまでの体験は勘弁……なのだが、ケイビングには体験してみなければ分からない魅力がいっぱい! この記事を読んで、すこしでも地下の世界に興味を持った人は、まずは地下への一歩目として、「CiaO!」のサイトにアクセスしてみよう!!
洞窟探検プロガイドチームCiaO!
住所:愛知県一宮市三ツ井7-12-14
電話番号:0586-85-9016
ガイド直通電話:090-2617-5122
メール:ciao.caving@gmail.com
HP:https://genkijin.jp
開催場所:【常時開催】岐阜・山梨・石垣島、ほかに日本各地で随時開催のコースもあり
※今回入った洞窟は管理されており、一般人が入洞することはできません。
(画像提供:洞窟探検プロガイドチームCiaO!)