• カルチャー

『放射線と登山道』
ナウシカの降臨を待つ日本の森

2013.01.07 Mon

 宮崎駿による映画「風の谷のナウシカ」ではないが、日本の森がまさに腐海の森と化している。このような世紀末的な状況はアニメの世界だけだと思っていたのだが、これが現実なのだ。この状況を打開するには、本当にナウシカのような神憑った力に頼らざるを得ないのかもしれない。

 『放射線と登山道』(桐書房刊)という、原発事故の影響をうけた山岳地域の汚染状況を考察した本が昨年、日本勤労者山岳連盟の調べで一冊にまとめられている。実際に福島県をはじめとした東北の山は、どこまで汚染されているのか、登山をするのに問題はないのかなど、実際に測定器を携行しながら各地の山々を歩き、登山道の汚染状況を調べたものだ。

 観光地などでは、風評被害を避けるため、周辺の放射線量の測定結果を克明につまびらかにしているところも多々あるが、登山道や山の汚染状況の情報は、特定の山小屋の周辺のみに限られていた。

 つい先頃も、手抜き除染が露見したばかりだが、このたびの原発事故による放射能汚染の影響は計り知れないものがある。あまりにも被害と汚染が甚大すぎて、どこからどう手をつけてよいのか、実際に除染作業に携わる人たちの、気の遠くなる作業を思うと、ついつい手抜きになるのもわからなくもない。目に見える汚れを落とすのと違い、目に見えない物を除染していくというのだから、具体的な成果目標も達成感もない遠大な労働に感覚も麻痺してくるのではないだろうか。しかし、ちまたで話題となるのは、今でも多くの方が避難を余儀なくされている居住区域の汚染だけである。ところが、汚染されているのは人が住んでいるところだけではない。とくに深刻なのは、じつは山の汚染である。大気中に巻き上げられた放射性物質は、風によって運ばれ、山にあたり、木々の葉に付着、落ち葉や雨などで流されて土壌へとしみ込む。さらに、それが、川へと流れ出し、河床の堆積物となって川をも汚染するという、負の循環である。

 本書では岩手、宮城、福島、栃木、茨城、東京、神奈川、静岡とおよそ130を超える山の登山道を測定。なかでも福島を中心とした近県のサンプリングデータが多いのはいうまでもなく、他県との比較において、原発にほど近い山々の安全性に言及している。結果、登山道に沿って登山をするだけなら、一番、放射線量が高かった山でも健康に問題はないという。Q&A方式でわかりやすく登山者の疑問に答える解説に加え、今回の事故の概略と放射能の基礎知識がわかりやすく書かれている。登山者の方だけでなく、アウトドアやキャンプを楽しむ方にも、ぜひ、おすすめしたい。
 
 

●放射線と登山道(桐書房刊)
監修:野口 邦和 編:日本勤労者山岳連盟
A5判 79ページ 
本体600円+税

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