- カルチャー
つくる、気づく。果てしないものづくりのドキュメント 映画『僕らのカヌーができるまで』
2013.03.26 Tue
宮川 哲 編集者
「50年後も生きる若者たちといっしょに、自分の足で歩いて、目で見て、耳で聞いて、さまざまな『気づき』を共有したい」
そんな思いを若者たちに寄せたのは、日本を代表する探検家、関野吉晴さんだ。人類拡散の足跡を逆にたどる旅「グレートジャーニー」を実践したあの関野さんである。1993年から2002年までの10年間、関野さんは南米から北米、ユーラシア大陸、アフリカへと続く果てしない道を旅して来た。全行程でおよそ5万3,000kmにもおよぶ長大な旅路だ。それもカヌーや自転車、徒歩など、自身の脚力と腕力だけを頼った旅だった。
タンザニアのラエトリ遺跡にたどり着いた関野さんの頭には、すでに新たなる旅の構想があったという。そうして、2004年からは新グレートジャーニーを実施する。今度のテーマは、日本人はどこからやって来たのかだった。シベリアからサハリン、稚内をめざす北方ルート、ヒマラヤからインドシナをめざす南方ルート、そしてインドネシアから台湾へと海をわたる海上ルート。
映画『僕らのカヌーができるまで』は、新グレートジャーニーの最終章「海上ルート」を実施するときに、関野さんが参加を呼びかけた武蔵野美術大学の卒業生たちが奮闘した、その記録映像である。
なにに奮闘したのかといえば、この旅で設定されたルールにだった。それは「自然から直接採取した材料だけで、手づくりのカヌーをつくろう」というものだ。さらには、木を切るための斧やカヌーを削るための鑿までも、なんと手づくりにしてしまう。彼らは、九十九里浜で砂鉄を集め、たたら製鉄でフイゴを踏み続けた。刀鍛冶、野鍛冶の手を借りてできあがった数々の鉄器。そして、航海に使うための縄をつくる班もいた。シナノキやクズ、シュロなど、さまざまな素材を試しては挫折を繰り返し、やがて彼らは一本の縄を結い上げていく。
第二部では、インドネシアでの実際のカヌーづくりが記録されている。スラウェシュ島の「森の船大工」と「海の船大工」が、彼らとともに大きな丸木船をつくり上げて行く。もちろん、その場には関野さんもいる。現地の人たちが持つ自然に対する所作、そしていざ巨木を切り倒すことになったときの祈り……。日本人もインドネシア人も関係なく、そこには共通の思いが交錯していく。
古代から伝わる素材や、伝統技術をめぐる果てしないものづくりの旅。便利さに埋もれた現代社会に生まれ育った彼らは、ものづくりを通じてなにを感じ、なにに気づいたのだろう。見ている側もついつい、つくることの意味、使うことの意味を考えさせられてしまう。この映画を見て、どんな気づきが得られるのか、それは人それぞれかもしれないが……。
上映は、東京の東中野にある「ポレポレ東中野」にて。残すはあと3日の3月29日まで。また、上映後には、関野吉晴さん、監督陣のトークショーも予定されている。
■上映情報:『僕らのカヌーができるまで』2009年/日本/109分/カラー
出演:関野吉晴、武蔵野美術大学学生、卒業生ほか
監督:江藤孝治、水本博之、木下美月、鈴木純一
製作:『僕らのカヌーができるまで』製作委員会
上映期間:3月16日(土)〜29日(金)20:30〜レイトショー
上映場所:ポレポレ東中野
『僕らのカヌーができるまで』予告編
http://youtu.be/zR6UpFPBfrU