• カルチャー

糸を紡ぎ、未来へつなぐ。絶滅寸前の和綿を守るカフェバー「Tokyo Cotton Village」

2013.12.25 Wed

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

「もはや、反政府活動だと思っています」と笑うのはオーナーの冨澤拓也さん。

 用賀駅から徒歩10分の住宅街にあるカフェバー「Tokyo Cotton Village」。大きなガラス窓から明るい店内を覗くかぎり、そんなに剣呑なお店には見えないが、ここには明日の世界の改革を担う人々が集い、日夜工作活動に励んでいるという。主な工作の内容は、お茶を飲みながらの糸紡ぎ。Tokyo Cotton Villageは名前の通り、コットンを紡ぐことをテーマにしたお店だ。

「日本のコットンの自給率はほぼ0%。衣食住のひとつである『衣』は完全に外国産のコットンに頼っている状況です。そして、低い国内自給率と併せてもうひとつ問題になっているのが『種』の保存。需要のなくなった日本古来の和綿が、絶滅の危機に瀕しているんです」
 と冨澤さん。

 現在、世界中で育てられているコットンの多くは、繊維が細くて長い、長繊維綿。長繊維綿のほうが紡ぎやすく、布地にするうえで効率が良いからだ。ところがこの長繊維綿は栽培と収穫に大量の農薬が必要となる。農薬による土壌の汚染と、そこで働く労働者の健康被害は大きな問題になっている。また、寒冷で湿潤な日本の気候は、長繊維綿の栽培に適していない。

「それに対して、1000年以上ものあいだ日本で栽培されてきた和綿は、雨の多い気候でも育つことができて虫に強い。繊維が太短く、脂分に富むという特徴もあります。日本の気候に合っているのは和綿なんです」と冨澤さん。

 しかし、安価な外国産の登場で、日本古来の和綿は活躍の場を失ってしまった。今では和綿を絶やすことを心苦しく思う各地の農家が、種を残すために細々と作るだけになっているという。そんな和綿の状況を知った冨澤さんは、2008年から和綿を守り継ぐ活動を開始。そして2012年の秋、「Tokyo Cotton Village」をオープンした。

 冨澤さんは志を同じくする栃木県の「渡良瀬エコビレッジ」の町田武士さんとともに、種まきから収穫、糸紡ぎから機織りまでを体験できるワークショップを展開。お店でも、訪れたお客さんがお茶を飲みながら糸を紡げるサービスを提供している。

「外国産の安いコットンが悪だとは言いません。しかし、コストパフォーマンスという尺度でしか物を見なくなった私たちは『物の本当の価値』を見失しなっているように思います。和綿を育てて収穫し、糸を紡ぐまでの作業には、日本人が無くしつつある『愛すべき手間ひま』があると思います。自分の手を動かし、物を作るという時間を通じて、物の本当の価値、本当の豊かさとは何かを考えてもらえれば嬉しいですね」

 ところで、Tokyo Cotton Villageのどんな部分が「反政府」なのだろう?

「日本は『消費活動の活性化=国の生きる道』として邁進してきました。そして、衣食はみなさんもご存知の通りの状況にあります。自国民の食料や衣類の工面もできない、またする気もない国家がこれから繁栄・存続できるでしょうか? 私にとって、和綿を栽培して糸を紡ぐ行為は今の日本のあり方を世に問うひとつの方法なんです」

■データ
Tokyo Cotton Village
東京都世田谷区用賀4—31—17
営業:14:00〜23:00
定休日曜
☎03-6805-6265

(文=藤原祥弘)

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