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有効期限あり!「青春親指きっぷ」の正しい使い方。ヒッチハイクで帰省を試みる若人たちへのアドバイス

2013.12.27 Fri

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 LCCや低価格な高速バスの登場により、以前よりもずっと安価かつ楽になった国内の長距離移動。しかし、どんなに交通機関の運賃が安くなっても、この移動手段以上に安上がりな方法は現れないでしょう。なにせ、コストは0円なのですから。

 コストのかからない夢の移動手段といえば、そう、ヒッチハイク。若者だけに許される期間限定の移動手段ですが、安さの影には払わなくてはいけないさまざまな代償も……。
 
 青年期の長距離移動のほとんどをヒッチハイクで行なったOBハイカーが、帰省の手段にヒッチハイクを検討している全国のウン万人の若人のために、その魅力と危険性をご紹介します。

■魅力その1
若いときしかできない!

若者がヒッチハイクで乗せてもらったとき、ドライバーの第一声の9割は「学生さん?」。これを裏返せば、若くてお金がない学生以外にはヒッチハイクは社会的に認められていないということの現れでもあります。私が現役のヒッチハイカーだったのは18歳〜25歳。23歳くらいで停まる車が減り、25歳の頃にはドライバーの視線が「おっ、頑張ってるな!」から「身銭切れよ!」にかわって引退を決意しました。ヒッチハイクが世から受け入れられるのは、だいたい10代後半から23歳くらいまでのようです。

■魅力その2
もう二度と会わない若者には、みんなが気安い

ヒッチハイクの旅をひと言で表すなら「一期一会」。ほんの数十分・数時間を赤の他人と共有するという経験は、乗る側・乗せる側双方にとってなかなかない機会です。そして乗せる側、乗せてもらう側という上下関係。こんな状況では、人間の地が出ます。「ちゃんと食えてるのか?」とご飯をたべさせてくれる人もいれば、「遊んでないで働け!」と叱り続ける人もいました。また、身近な人には決していえないだろう内緒話を聞かされたり、中高年のおばさんに口説かれたことも。これらは極端なエピソードですが、多くの場合「若い」という理由だけで乗せてくれた人はみな、親切にしてくれました。いろんな人と出会い、観察できることはヒッチハイクの一番の魅力です。

■危険その1
乗せてくれる人はだいたい楽天家

免許をとって数年運転すれば、誰もが自身も事故とは無縁ではないことを知ります。運転歴がのびるほど、他人を乗せるこことに慎重になるのではないでしょうか。その反対に、ヒッチハイクで乗せてくれる人は楽天的な運転をする場合が多く、スリル満点なドライブになることもしばしばあります。

■危険その2
「あなたの知らない世界」に触れることがある

乗る車を選べないのがヒッチハイクの面白いところでもあり、つらいところでもあります。オールスモークガラスのベンツが目の前に停まり、「乗ってけや」と言われたとき、多くの青年は断れないでしょう。そして車内で繰り広げられる会話は想像もつかない世界。私は人身売買と「営業」という隠語で語られる陣地争いについて大変興味深いレクチャーを受けたことがあります。助手席に座っているときに、辞書のような厚みの札束がやりとりされたこともありました。

■危険その3
結構、事故が起きる

先にも書いた通り、ヒッチハイクは乗る車を選べません。飲酒運転中の車に乗ってしまうことは多々(10年前のことですが)。乗っている車が整備不良で走行中にバーストしたことや、エンジンオイルが漏れてエンジンが焼き付いたこともありました。幸い怪我には至りませんでしたが、どのような管理状態にあるかわからない車に乗ることは、それなりの危険が伴います。

●それでもやってみたい人へ

 ヒッチハイカーを見つけたドライバーは 1認知  2判断  3行動 の順番で乗せるか否かを決定します。あれはなんだ? ヒッチハイカーだ!➡行き先は? 危ないヤツか? 汚くないか? 荷物の大きさは?➡乗せよう!or止めとこう。

 車が走り過ぎるほんの1、2秒でこれらの思考を済ませてもらうためには、身なりと立ち位置が大切です。服装は清潔感のある明るいカラーのアウトドアウェアが一番。一瞬で「危なくなさそうなヒッチハイカー」であることを認めてもらうことが重要です。体の前にバックパックを立ててヒッチハイカーであることと荷物の大きさを示し、大きなスケッチブックを掲げて行き先を提示しましょう。

 立つ場所は見通しのよいストレートの脇がベスト。ヒッチハイカーを認めて判断するまでの時間を取れる場所でないと、ドライバーが「乗せたい」と思っても車を止められず、走り過ぎてしまいます。ストレートであっても、幹線道路のように車が高速で走る場所では停まってもらえません。幹線道路では信号の先など、車が減速する場所がおすすめです

 見通しの悪いカーブや、道路標識の多いところは、周囲の安全や方向の確認に気をとられるので、ドライバーがヒッチハイカーに気づかないか、気づくのが遅れて通り過ぎてしまいます。事故の誘発の危険性もあるので、こんな場所でのヒッチハイクは慎みましょう。

 スケッチブックに記す行き先は小刻みに提示します。例えば、東京から鹿児島を目ざす場合、スケッチブックにいきなり「鹿児島」と書いても乗せてもらえません。感覚としては「隣の隣の都市」を書いておくと、「隣の隣の先の都市まで行く車」と「隣の都市までは行く車」の両方が停まってくれます。

 旅の味わいを求めるなら一般道、長距離を稼ぐなら高速道路に軍配が上がります。一般道を走るドライバーは、走っても数10km程度。旅が細切れになるぶん、路上での待ち時間が伸びて移動の効率は悪くなりますが、乗せてくれた地元の方に名産、見所、食事処などを教えてもらえる楽しみがあります。

 
 以上がOBハイカーからのヒッチハイク解説となります。正直なところ、他の交通機関が低価格になった今、ヒッチハイクを「移動手段」としてとらえると、それほど大きな価値はありません。「ヒッチハイクで移動した場合に、必要になる時間分」働いてLCCに乗ったほうが、安全かつ時間通りに目的地に着くことができます。

 それでもヒッチハイクには、乗せてくれる人との出会いという大きな魅力があります。1秒前まで知らなかった人と空間と時間を共有し、しばし語らい、また赤の他人に戻る。淡い関係が約束されているからこそ語られる話は、一篇の短編を読むような体験です。

 今、自分が乗せる側の年齢になって思うのは、ヒッチハイクは「乗せる」より「乗る」ほうが断然面白いということ。ヒッチハイクを通じて、普段の生活では決して出会えない人々の人生に便乗できたことは、今でも大きな財産になっています。

 しかし、再三繰り返したとおり、その体験を得るための掛け金が大きいのもまた事実。前途ある青年たちには、おすすめしたいようなしたくないような……。ヒッチハイクに挑戦しようという皆さんの親指きっぷが、いい旅を引き寄せるようお祈り申し上げます。Good Luck!

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