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GAKU-MC インタビューVol.2 野外は人間の経験値を上げてくれる。
2015.06.08 Mon
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
東日本大震災直後、ボランティアで被災地に向かったGAKUさん。その後、キャンドルの灯火でライブを行なう「アカリトライブ」を続けている。
車にメンバーと機材とキャンプ道具を積んでいくことも多い「アカリトライブ」。それはキャンプ道具をコンパクトにしての旅だった。
–––– 自然が教えてくれるもので、一番大きなものって何だと思いますか。
GAKU アウトドアに関して言えば、人間の経験値を上げてくれるもの。経験値がなくても生きていけますが、あることによって、その後の人生はより豊かなものになる。ライブで言えば、ときに舞台照明よりも素晴らしい効果を与えてくれる。例えば月の夜とかね。野外でのライブって、厳しいことも多いんです。10回やって9回がキツい状態だったとしても、残りの1回が何ごとにもかえがたい素晴らしい時間を演出してくれる。素晴らしい1回の記憶が、残り9回の苦労を払拭してくれるんですよ。それがフェスの魅力なんだろうし、僕はその1回に賭ける生き方が好きなんです。
–––– アウトドアの魅力を再確認したのは、東日本大震災以降にはじめた「アカリトライブ」も大きかったのでしょうか。
GAKU そうですね。キャンドルを灯してその灯りでライブを行う「アカリトライブ」。2011年秋には、キャンピングカーを借りて日本一周したんです。ライブに参加した人に、キャンドルホルダーにメッセージを書いてもらって、それを福島に届けました。2012年にはフェスとコラボしながら、各地を巡ったんです。そのときは、ほぼ全泊テント。
–––– 何カ所くらいフェスを巡ったのですか。
GAKU 7〜8カ所くらいですね。それだけ続けていると、けっこう上達するもんです(笑)。テントの設営も撤収も早くなって。気がついたら、使わないものもいっぱいあって、だんだん削ぎ落されていく。バンドメンバーも、最初はヒーヒー言っていたのに、回を重ねるにつれチャッチャチャッチャやれるようになって。
–––– 経験って、ものすごく大切ですよね。
GAKU 2012年に参加した最初のフェスが、ものすごく寒かったんですよね。僕はダウンを持っていってたんですけど、バンドメンバーはトレーナーくらいしか持っていなかった。都市でライブに行くような感覚で野外に行ってしまった。彼らは寒過ぎて、心が折れそうになっていたけど、その経験が彼らをすごく変えていった。
–––– 経験によって、持っていく荷物も減っていったんですね。実はこのインタビューのテーマが、気軽に、コンパクトにキャンプへ行こうという「スマートキャンプ」なんです。
GAKU キャンプをコンパクトに。その考えはよくわかります。持っていなくてもよかったものと、なきゃいけないものの線引きが、キャンプの回数を重ねることによってうまくなっていくんですよね。楽器も乗せなきゃいけないし、キャンプ道具も乗せなきゃいけない。メンバーももちろん乗る。一台の車でフェスに行ってましたから、限られたスペースのなかでやりくりする。キッチリ入れられたときって、妙な快感が得られるんですよ(笑)。
–––– これがあればよかったのに、と思うこともありますよね。
GAKU 当然ありますよ。例えば包丁を忘れた。じゃあどうすればいいのか。借りればいいんです。山のなかに自分たちだけで入っていくのとは違って、フェスでもキャンプ場でも、同じ目的を持った仲間が集っている。だったら、借りるということで、新しい出会いが待っているのかもしれない。フェスやキャンプなら、ある程度の失敗なら、逆に楽しめますからね。
–––– 6月に新作をリリースするとのことですが。
GAKU 「アカリトライブ」のテーマソングを、あらためてちゃんとレコーディングしたいと思ったんです。「希望のアカリ」というタイトルの曲です。2011年に書いていたとしたら、すごくしんみりとして鎮魂歌的な歌になっていたと思います。けれど4年が経過して、僕の役目はそうじゃないなって思ったんです。いろんなことを前向きに捉えて、ハッピーな気分にする。ライブに来てくれたり曲を聞いてくれた人たちに楽しんでもらいたい。これからも「アカリトライブ」を続けていくことを考えていたら、ハッピーな歌になってしまったんです。
–––– 最後に、「今年はこれを買いたい」というキャンプグッズがあれば教えてください。
GAKU 実は、今は荷物を排除する方向で生きているんです。本当に必要なもの以外は、安易に購入するのをやめようと。ただ、欲しいものはいっぱいあるんです。そのなかでも特に欲しいのは焚火台。直焚きできるキャンプ場って少ないじゃないですか。焚火は、キャンプになくてはならないものですから。
GAKU-MC
1970年、東京出身。1990年EASTENDを結成。
94年にEASTEND×YURI名義でリリースした「DA.YO.NE」が大ヒットを記録、翌95年NHK紅白歌合戦出場。99年からソロ活動を開始。アコースティックギターを弾きながらラップする独自のスタンスで活動を続け、2011年にレーベル「Rap+Entertainmet」を設立。2012年には音楽イベント「アカリトライブ」を立ち上げて日本の復興活動に尽力する他、音楽とフットボールで人と人を繋げる融合団体「MIFA(Music Interact Football for All)」を設立。2014年4月、ベストアルバム『THE BEST “GRADATION”』をリリース。
(写真/片岡一史)