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服部文祥「ツンドラ・サバイバル」が第5回「梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞
2016.02.19 Fri
日本の民族学・文化人類学の巨人のひとり、梅棹忠夫。登山と探検を愛し、世界中でフィールドワークを展開。その活動を基に数々の著作を残した。
そんな梅棹忠夫の仕事にちなんで創設されたのが「梅棹忠夫・山と探検文学賞」。国立民族学博物館、信濃毎日新聞社、地平線会議、山と渓谷社などでつくる選考委員会が、これまでに4冊を選びだしている。
ここに5冊目の受賞作として加わったのが、「サバイバル登山」を実践する服部文祥さんの最新作「ツンドラ・サバイバル」(Akimamaでの紹介記事はこちら)。
「現代社会における探検(冒険)の質的変換を促している」(選考委員会講評より)点を評価され、選考委員会一致で第5回梅棹忠夫・山と探検文学賞に選出されたという。
「文学賞を受賞するのは初めて」という服部さんに、受賞への思いを語ってもらった。
服部文祥(はっとり ぶんしょう)1969年神奈川県生まれ。大学時代から登山に親しみ、96年にカラコルムK2登頂。99 年から食料を現地調達する「サバイバル登山」を開始。夏はテンカラでの渓流釣り、冬は猟銃による狩猟を行ないながら山に登る
ーーー著作が賞をとったのは初めてとのこと。また、探検界の巨人の名を冠した賞ですがどんな気分ですか?
「賞には縁のない執筆活動だったので、ちょっと戸惑うというか、素直に嬉しいというか。一人ひとりの読者が、自分のお金で書店で買ってくれるという以上の賞はないと思います。私の原稿や本が面白いと思って買ってくれた人といっしょにみんなでいただいた賞だと思っています。
未開の地がなくなり、地理的探検が終わって、個人の体験としての探検や登山の意義みたいなものを考えて、行動してきたつもりです。その結果が梅棹賞というのは、感慨深いです」
ーーー梅棹さんへの個人的な思い入れ、好きなエピソード、好きな著作があれば聞かせてください
「『知的生産の技術』はとりあえず手元にあります。あと、『狩猟と遊牧の世界』『日本探検』。ただ、それほど影響は受けてないと思います」
ーーー服部さんの著作には、その本を書いた当時の服部さんの狩猟論、食肉論、登山論が表現されてきました。そしてそれは、他者の制約を受けずにサバイバル登山を実践することの難しさや、遅く生まれすぎたという思いの記録でもあったように感じます。しかし、ツンドラ・サバイバルは「世界は生きるに値する」という希望を得て結ばれました。ツンドラというフィールドとの出会い、猟師のミーシャという友人を得たことによる、その後の狩猟観、食肉観の変化はありますか?
「難しい質問だなあ。これまでずっと抱き続けてきて、本にも書いてきた『ズルしたくない』という思いは、連綿とつづいてきた命の歴史を、我々の数世代で壊してよいわけがない、少なくとも自分はその破壊行為には参加したくない、という思いです。ただその思いは、過去の生き物や人々、未来の生き物や人々に対して漠然と抱いていたものでした。
日本から3000キロほど北に行っただけのチュコトの地に、地球にほとんど負担をかけないで生活している友達ができたこと、そしてその友達が現代文明の中にいる私たちよりインテリジェンスを備えていたことは、驚きとともに、大きな喜びでした。
その体験は、世界は信用できるという思いを強くし、また、狩猟者はインテリだ! という思いも強くしました。そのミーシャと狩りを通してわかり合えたことは、大きな喜びで、これからも自分の狩猟道を突き進んでいこうと思いを新たにしました。
これで、生きるのが面白いと思わなかったら、鈍感すぎるでしょ?」
ーーー最近のサバイバル登山活動について教えて下さい。道具、スタイルの面で変化はありますか?
「ライフル申請中です(笑)。夏のサバイバルはおおよそ予想が立つようになり、退屈するので、友人を連れて行くことが多くなりました。堕落です」
ーーー今後の活動、今取り組んでいるテーマがあれば教えて下さい
「秋の北海道を2ヶ月くらいかけて縦断するというのをやってみたいですが、月刊誌の仕事もあって、難しいところですね。獲物系、特に大物獣は旅の途中で獲っても、すべてを食べることができない。狩猟は生活に近い行為だと思っています。今年は猟、釣りに加えて魚突きも学びたいと思っています」