- カルチャー
「野糞は命の返し方」。糞土師・伊沢正名の講演会「うんこはごちそう」が相模原市で開催!
2016.02.21 Sun
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
「食を通じて自然と交わろう」と提案する人は世に多い。しかし、「排泄物を通じて自然と交わる」ことを実践・提案しているのはおそらくこの人だけだろう。糞土師(ふんどし)・伊沢正名さんだ。
糞土師という肩書きとその名前にピンとこなくても、誰もがどこかで伊沢さんの仕事を目にしているはず。何を隠そう、伊沢さんはキノコやコケ、シダの撮影の第一人者。手がけた著書は数十冊に及ぶ。
そんな伊沢さんが撮影と並行してライフワークとしてきたのが野糞。青年期に集合的な屎尿処理の抱える問題に気づき、1974年から野糞を開始。以来、40年以上もの間 野糞を実践し続けている。
その徹底ぶりやすさまじい。1999年には一年間で一度もトイレを使わない野糞率100%の記録を樹立し、続く2003年には野糞の「千日行」も達成。今も突発的な下痢や入院などを除いて、全ての排便を野山で行なっている。
糞土師・伊沢正名さん。伊沢さんは葉っぱと水による手洗いを組み合わせた洗浄法を軸とする「伊沢流インド式野糞法」を1990年に確立。排泄後に肛門を拭く素材についても研究を深めている。写真で伊沢さんが手にとっているのは「極上の拭き心地」のノウタケ(キノコ)。伊沢流インド式野糞法については、ノグソフィアを参照のこと
その行為だけを書き連ねれば、エキセントリックなナチュラリストととられてしまいそうだが、伊沢さんの徹底した活動は、野糞への深い哲学によって支えられている。以下に伊沢さんが主宰するサイト「糞土研究会 ノグソフィア」の序文をひいてみよう。
ウンコ:糞、大便、クソ、うんこ・・・臭い、汚いと多くの人に嫌われるウンコ。 実際2004年の人名用漢字見直しでは、『糞』は削除要望の第一位に輝く。 そして今、良識の先頭に立つはずの新聞のいくつかで、『糞』の字は使用禁止。そんな『糞』を肩書きにかかげる糞土師:伊沢とは、とんでもないヒネクレ者? イヤイヤとんでもない(変人には違いないが)。じつはウンコは、大切な命の源=地球の宝であり、時にはとてつもない力を発揮する素晴らしいものなのです。
本物のエコロジー=地球にやさしいとはどういうことなのか、また、生き物 として人の生活はどうあるべきかなどについて、野糞歴35年、大地に還した ウンコが一万回を優に超える糞土師が、ウンコや野糞を通して発言していき ます。さらに、正しい野糞の仕方やその楽しみなども紹介します。しかしこれ は単なるスカトロジー=糞尿趣味ではありません。偏見を捨ててウンコを科 学し、野糞を哲学して、本物の豊かな生活をめざすのが目的です。
ウンコの大切さを、そして野糞の素晴らしさを皆さんに知ってもらうため、 わたくし糞土師が、この糞土教室で教ベンを執らせていただきます。
(糞土研究会 ノグソフィア 「はじめに」より)
「食べ方は、その人の生き方をあらわす」という言葉があるが、伊沢さんは「出し方」によって生き方をあらわした。
私たちは、自分の体に入るものにはうるさいのに、出してからはまるで無関心だ。自分の体を作ったものに感謝することなく流し去り、生命の循環の外に押しやってもそれに思いを馳せることはない。
伊沢さんは実践を通じて静かにそれを指摘する。
この「ノグソフィア」を読むだけでも伊沢さんの先見性に驚かされるが、野糞の世界に興味を持った人には、伊沢さんの著書「くう・ねる・のぐそ 自然に『愛』のお返しを」をぜひ手にとってほしい。
本書には自然保護の世界に身を投じた青年がめくるめく菌類の世界に魅せられて写真家となり、ついには糞土師となって分解者の世界を語るようになるまでがまとめられているのだが、巻末にはなんと、野糞が土にかえるまでを記録した「袋とじ」が付されている。もちろん、克明な写真付きで。
「ええー! 野糞の本!? そんな袋とじ、見たくない!」と眉をしかめて読み始めても、読み進むうちに排泄や野糞に対する嫌悪感は雲散霧消。袋とじに到達する頃には不思議な感動に包まれ、迷うことなく封を切るはずだ。
そして、小動物や菌類によって再び土へと還っていくうんこの姿に、祝福にも似た気持ちを抱くだろう。本を閉じるとき、きっとあなたは自分でも野糞がしてみたくなっている。
伊沢さんは著作やサイトを通じての発信のほか、精力的に講演活動も行なっており、来週末2月28日(日)には首都圏からも訪れやすい相模原市で講演会が開かれる。
タイトルはズバリ、「うんこはごちそう 命をつなぐ生態系のホントのはなし」。会場は相模原市立博物館で聴講は無料。先着200名となっている。
専門とする菌の知識を生かして、自然界の分解者に光をあてる
「当日は伊沢さんに加えて、スペシャルゲストも登場の予定です」とは相模原市立博物館学芸員の秋山さん。「まだ調整中なのですが……」と秋山さんがこそっと教えてくれたゲストは、なるほど、スペシャル!
伊沢さんのお話を東京近郊で聴けるのはまたとない好機。もちろん「くう・ねる・のぐそ」を読んでから訪れることをおすすめします!
■生物学講演会
うんこはごちそう 命をつなぐ生態系のホントのはなし
会場:相模原市立博物館
日時:2月28日(日) 14:00〜16:00
問い合わせ:相模原市立博物館 042-750-8030