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アウトドアで働く人々インタビュー 小口大介さん 『札幌から原宿、そしてNEXT STAGEへ』

2016.04.30 Sat

 人生の半分くらいは、アウトドアでメシを食ってきた。
 アウトドアで働く人たちは、なんだか一本筋が通っていて、気持ちいい。ときにはクセモノも…? そんな、アウトドアズマンたちの仕事を聞いてみるのが本企画。

いい人材がたくさんアウトドア業界にきますように…ナム—。そんな願いも込めてスタートします。


小口大介さん。釣りとスキーは北海道にいたころから。道内にある多くの川に足繁く通っていたという。

 第一回目は、小口大介さん。先日まで、株式会社ゴールドウインにて、プロモーションマネージャー、リテールグループマネージャーとして勤務していた。あのTHE NORTH FACE STANDARDの仕掛け人でもある。一般ユーザーとは、あまり顔を合わせる機会はないかもしれないが、昨今盛り上がっているアウトドア人気の火付け役のひとりだ。

 次々に新業態をプロデュースしてきた小口さんが、いま、新たな道を歩もうとしている。原宿に同ブランドの店が何軒も並ぶ理由とは?長年抱いている夢とは?故郷・北海道への思いとは?



かたっぱしから履歴書を送るも、全敗…

———会社をお辞めになると聞いて、びっくりしました。THE NORTH FACEといえば、小口さんっていう感じでしたから。

そんなつもりはないけどね、まわりのみんなもびっくりしていた。でも、もともと描いていたストーリーでさ、どうなるかわからないけどね。いつか北海道に戻って、人が気持ち良く過ごせる場所みたいなものを作りたいと思っていて。いよいよ43歳になるし、そろそろ踏みださないと、その夢の実現は絶対無理だから。機運もあるじゃない?世の中的な。あとは直感的な部分もあるかな。

———もともとは、札幌でお店のスタッフをされていたと伺っています。THE NORTH FACEに入ったキッカケはなんだったんですか?

高校卒業して、洋服にたずさわる仕事がしたくて札幌のセレクトショップの面接を受けたんだけど、ぜんぶ落ちちゃったんだよね。それで、仕事がないからパスタ屋さんで働くことになって。そこでは1年間働いたけれど、やっぱり洋服にかかわる仕事、洋服を人に売るってことがしたくてね。ちょうどオープニング間近だったサッポロファクトリー(ショッピングセンター)が、スタッフ募集していて。洋服扱っている店に、かたっぱしから履歴書を送ったんだ。それで、唯一受かったのがTHE NORTH FACEの直営店だったわけ。たまたまなんだ。

———そこで採用されたんですね。ブランド自体はもともとご存じだったのですか?

ブランドの名前は知っていたけど、1993年当時は、一部の山好きが着る年配者のブランドというイメージだった。ただ、ニセコのヒラフで黄色と黒のマウンテンジャケットを着たカップルを見かけたことがあって、「かっこいいな」って思ってた。その頃のスキーウェアは、デモウェアみたいなのが全盛だったから、それがすごく印象に残ってた。

———あくまで洋服で、接客がしたいわけではなかった?

いや、接客がしたかったんだよね。とにかく洋服を媒介して、人とコミュニケーションをとりたいって思ってた。パスタ屋で働いたのも、レストランのホールなら接客できるなと。でも、厨房の人手が足りないから厨房に入ることになってしまって…。それが辞める要因でもあったんだけど。

息子さんを背負ってスキーも楽しむ。スキーは子どものころから長く親しんできたアウトドアスポーツ。


てめえ!俺はそんなの許さない

———THE NORTH FACEのお店で働きはじめて、どうでしたか?

入ったのが19歳のとき。ひらすら商品知識を勉強して、ひたすらお客さんに満足がいく接客がしたいって思ってた。ひたすら、考えていたな。日々をこなしていくうちに、社員になりたい、店長になりたいって気持ちが膨らんでいった。

———すんなり社員にはなれたんですか?

いや、社員にはなれないって、言われていたんだ。おれは当時髪が長くてさ、まぁ…人間もチャランポランだったから…。「そういうヤツはダメだ」って、直属の上司から言われて。結婚なんかも考えていた時期だったから、「社員になれないなら、辞めます!」なんて言ってね。

———若かりし時代ですね。でも、結局辞めなかった。なにかあったのですか?

辞める決心をして、それで世話になった人には自分の口からきちんと言おうと思って、本社に電話したんだよね。当時ブランドのマーチャンダイザーだった渡辺さん(現ゴールドウイン取締役 渡辺貴生氏)には、ちゃんと挨拶しよう!って。渡辺さんは俺を気にかけてくれていたから。そしたら、電話口で渡辺さんが「てめえ、俺はそんなの許さない。いますぐ話してやる!」って言い出した。

またすぐ連絡があって、「もう、お前を社員にするって決めたから、辞めるのナシ!会社が、長髪だとか、そういうのを好んでいないこと、知っているだろう?わかるよな?」と。すぐ坊主にして、あらためて社員にしてくださいと言いに行って、「よし、わかった」みたいなやり取りがあった。21歳だったな。


札幌のようにはいかない原宿

———そんな紆余曲折ありつつも10年間、札幌のお店で働いていたんですよね。異動の話しとかはなかったんですか?

札幌のお店に入店して、そこに10年いた。バイトから社員になって、店長になった。北海道の自然が好きだったし、「俺は絶対転勤なんかしません」と。東京で働くという誘いもあったけれど、断っていたんだよね。だって、北海道みたいな自然は、ほかにはないじゃない?

29歳のとき。営業部長だった浅見さん(現ゴールドウイン取締役 浅見保夫氏)と、シーズン最後の渓流釣りに行ったんだ。10月で寒かったなぁ。浅見さんとは本当によく釣りに行っていて、ふたりで北海道中を釣り歩いていた。そのときに、「ぼくも来年30になるし、どこでも飛ばしてください!転勤受けます」なんていう話しになったんだよね。そしたら、一週間くらいして、「お前、来期から原宿店の店長にするって決めたから!」って。「ええッ!原宿ですか」と。

原宿。平日休日問わず多くの人が訪れる。絶えず変化し、数々の流行もここから生まれた。

———即決派の上司の方が多かったのですね…。THE NORTH FACE原宿店といえば、ブランドの顔、本店のような印象です。

札幌にいたときは、お客さんは、若い高校性から60代くらいの幅広い層。基本的にはアウトドアが大好きな人たちだった。そういう人たちとコミュニケーションをとっていて、売上もすごくよかった。だから同じやり方で、原宿でも通用するって自信満々だったわけ。でも、いざ原宿の店に立つと、そんなアウトドア好きの人なんてほとんど来ない…。俺がやってきたやり方では、通用しないなぁって。

———2000年代初頭ですもんね…。いまほど世間のアウトドア熱はない…。

お店の端っこに立って、お客さんとか明治通りとかを2ヶ月ほど観察していた。そうすると、やっぱり場所柄、ファッションとか音楽カルチャーを好む人たちがたくさんいて。それで、俺は元々音楽も好きだったから、そうした原宿のカルチャーと音楽とかを、THE NORTH FACEというブランドとつなぎ合わせて考えてみた。当時ブラックミュージック、ヒップホップ、ストリートカルチャーが東京でも全盛だったから、この要素とブランドをつなげたら、色んな展開が考えられるよなぁって。

いまでこそ野外フェスの人気は広まったが、当時はまだアウトドアと音楽の親和性が低かった。


とんがった店、それがSTANDARDだった

———それまでは、あくまで山のブランドという打ち出し方だったんですよね。

ブランド自体が、山以外のアプローチをしていなかった。でも、例えばニューヨークとかでは、全然違う着方をされているっていう。それこそストリートカルチャーの側面もあったし、そんな要素を日本に取り入れてもいいなって思った。ちょうどブランドの方向性もファッションに仕掛けていこうというときで、本社での渡辺さんたちの物づくりと、お店でコミュニケーションとる俺と、うまくリンクしていったんじゃないかな。

———ファッションに仕掛けること、それが「街中でもアウトドアスタイルを楽しむ人たち」に向けたコンセプトショップ。いまのSTANDARDやMarch、キッズショップといった形になっていったんですね。

そうなったよね、いつのまにか。原宿店だけでは、多様化していくブランドの価値をだんだん表現しづらくなっていって。ファッションとかライフスタイルとか、そうした新たなマーケットにブランドの価値を置くこと、さらに高い位置に引き上げるには、そのままでは難しい気がした。ショッピングセンターにもたくさんお店が出ていたし、逆に尖った店、コンセプトショップが必要だなと。そのための施策と思って、STANDARDを提案した。

———なるほど。STANDARDは、2010年オープンでした。

もう6年目になる。最初は、俺が行きたい店を作りたいっていうテーマがあった。それが原宿のSTANDARD。STANDARDの構想時点から、数年を経て、俺も結婚もして、子どももできた…。そうすると、原宿のSTANDARDには買い物に行かないライフスタイルになっているんだよね。まわりの俺ら世代は、みんなファミリーになっている。それで、今度はファミリーを軸にしたSTANDARDが、どうあるべきだろうって。

———それが、2014年にオープンした二子玉川のSTANDARDですね。

あそこはやっぱりキャンプ、家族でいく素敵なキャンプっていうテーマ。飲食があったり、音楽があったり、アートがあったり。

———店が次々にオープンしている、そんな印象でした。

本社の渡辺さんを中心に、やるって決めたら、やる!みたいなね。強い突破力みたいなものがあった。現場の俺たちが、それをなんとか形にするぞって。いいチームっていうか、組織っていうよりは、そんなチーム力がアウトドア事業部にはあった。
原宿のTHE NORTH FACE STANDARD。現在は地方にもオープンしているが、ここが第一号店。


ミヤタの自転車にバンド、どちらかというとミーハー

———そういうアイデアの泉みたいなものって、どこから出てくるんですか?

普段から世の中を観察するのが好きで。経済新聞からカルチャー誌、ファッション誌、テレビとか、あらゆるメディアを見ている。出張に行ったときも1時間くらいでミーティングを終えて、その街を歩いてみる。会社以外の地元の人たちと会って話たり。そういう会話のなかからアイデアのタネみたいなものが生まれるのかも。

———仕事するぞっていうよりは、単純に楽しいことを掘っていくような?

簡単に言い表すと、それっていうのはミーハーだよね。ミーハーってわりとネガティブにとらえられがちだけど。ミーハーは、世の中の動きに対して敏感で、そのミーハー力があれば、時代を自分で感じられることができるって思っている。

———子どものころから、ミーハーだったんですか?

そうだね、ミーハー。どちらかというと、こだわり派だったかも。最初にそれが芽生えてきたのは、小3くらいのときのジャージー。アシックスじゃなきゃ、とか、アディダスがいい、とか。ジャージーの次は自転車。絶対ドロップハンドル。ミヤタのカリフォルニアロードじゃないと嫌だ!と言って。なかでもいちばん夢中になっていたのは、ラジコンかな。田宮模型の組み立てるやつ。ラジコン雑誌を定期購読していたくらい。

———ハマると、とことんやるタイプなのですね。

すっごいのめりこんじゃう。でも、ブームが去ると飽きちゃって…。だから職人肌ではないんだよね。スキーは遊びの一環で子どもの頃から続けてきたし、中学のときは野球部。高校時代はロックバンドブームで、バンドを組んでいた。ローリング・ストーンズが好きで、キース・リチャーズのリズムというかスタイルにのめり込んだな。

———いろいろな体験が、おとなになっていまの仕事に活かされている感じなんですかね。

人に会って、ミュニケーションとるうえで大切なのは、その人と共有できるなにかがあるか、ということじゃない?共通言語。それが、ある程度いろいろやってきたから、音楽やっている人、スキーやっている人、洋服好きな人とでも話せたのかも。


イメージを持つことと、女子力!

———小口さんは、人とのコミュニケーションというか、人が好きなんですね。店での接客も、プレスっていうお仕事も、相手は人です。

店長のときは、ほとんど接客しなかった。ずっと店のスタッフの動きを見ていた。しばらく見ては、個人ミーティングをして。「あのときのあれはよかった、あれはダメだったと思うよ」って。そうやって店のチームを作っていったかな。

店が忙しかったときは、20人くらいスタッフがいた。その全員が接客していて、全員が笑顔だった瞬間があって。その光景に、「やっべー」って、泣きそうになっちゃって…。やっぱり、人が好きなんだね。
小口さんが店長を務めていたTHE NORTH FACE原宿店。STANDARDとは、同じ並びにある。

———いずれは、故郷の北海道に…ということですが、今後はどんな活動をされていくのですか?

二子玉川にSTANDARDができたときに、思い描いたものができて、すごく満足感があった。じゃあ、次に俺が作りたいものは、なんだろうって。それは、物を売るっていうよりも、サービスを売るっていうほうに興味がいきはじめたんだよね。たとえば、レストランとか宿とか。まったく経験はないけれど、いままで培ったものを活かせば、いままでなかったものができるんじゃないかっていう直感。

———やりたいことが明確にあるっていうのは、いいですよね。

三浦雄一郎さんが、俺に話してくれたことがあるんだけど、「自分のやりたいことは、出来るか出来ないかは分からないけど、つねに頭のなかでイメージしてれば、人っていうのは知らないうちに、その夢を実現する人たちと話しをするようになるし、具体化していくんだよ」って。そういうふうに自然に動いていくんだって。それが夢の実現につながる。とにかくイメージが大切だって。

———想像すること、イメージを持つことって、人生においても大切なんですね。

イメージと、あとはやっぱり、自分で動く力。最近よく思うんだけど、女子力って大事だと思う。男の人もね。女性って、壁がないじゃない?なんていうか、自分が思ったら、本能的に感覚的に、ポッと飛び込む。それが男だと、「かっこ悪いからできない」とか、そういう気持ちが邪魔をする。本能的にどれだけ動けるかだから、実際に。そういうのは、女子力なんじゃないかと。自分にも必要だし、世の中の男性も女子力アップしたら、いいと思う。



北海道に描く将来の夢

———小口さんの故郷である北海道。アウトドア好きには、憧れの地です。

札幌っていう町に、俺はすごく可能性を感じている。札幌って音楽の層が厚い町。ミュージシャンもたくさん出ているし。音楽と自然と食べ物と。札幌の町全体をどうのっていうのはないんだけど、どこかに札幌のカルチャーが、集まっているエリアがあるような。そこには、宿泊施設やおいしいレストランがあって。

自分がプロデュースしたものに、結果的に、いろんなものが集まって来て、面白いエリアになっていくみたいなのがいいね。

いまや、原宿にはアウトドアブランドの路面店が多い。明治通り、キャットストリートに集中している。

———まさにいま、原宿界隈がそういう風になってきていますね。多くのアウトドアブランドのショップが次々にオープンして。

いまや、あのエリアにアウトドアブランドが集まってきた。そのキッカケは、THE NORTH FACEだった。俺の目標はあそこなんだよね。いまみたいなものを、イメージしていた。なにかがキッカケで、そこに新たななにかが生まれるっていう。最近見ていても、ポートランドとか、ひとつのコーヒー屋がきっかけで、いろいろ集まってくるっていう。それを札幌でやりたいと思っている。世界中から人が集まって…、みたいな。

例えば、そのエリアが中心になって、ブロックを封鎖して、無料で音楽パーティなんかを開いたり。札幌の人とか、旅行者の人とかがそこへ集まってくる。『Block Party』という映画があるんだけど。デイブ・シャペルという有名なコメディアンが、ニューヨークのブルックリンのとある一画で、無料の音楽パーティを開くという話し。出身のオハイオ州の人たちに、自らパーティチケットを配って招待するんだ。札幌の仲間たちと、「あんなのをやりたいなぁ!」って話したりしている。

———楽しそうです!

あとは、子どもをちゃんと養うだけの稼ぎをしながらね。働き方ってかわってくるでしょ。子どもが大人になるころには、もっと変わっているだろうな。自分で作りだしていくということを、教えられたらいいなって。そうすれば、どんな世の中でもやっていけるんじゃないかって思うよ。
北海道の川で息子さんと釣り。スキーにトレッキング、自然のなかで家族とともに時間を過ごす。



雑感後記
 小口さんとは、知り合って、かれこれ11年ほどになる。なにを隠そう、わたくしの前職の先輩だ。見るからに、ブラックミュージックが好きそうで、クラブに通っていそうなお兄さんだった。スタイリストやモデル、芸能人なんかにも、知り合いが多く、まさに”ギョーカイ人”!でも、原宿店店長時代は、「原宿店というのは、ブランドの顔だから」と、スタッフにとても厳しかった、という印象。

 でも、話すと、とても優しいお兄さん。店長職を離れてプレス業務に専念するようになってから、「接客してぇなぁ〜。俺、接客が好きなんだぁ〜」と、いつだか言っていたのを、覚えている。ああ、人が好きなんだなぁと。さて、次はなにを生み出していくのか…、小口さんの今後が勝手に楽しみでたまらない。

(文=須藤ナオミ)


小口大介(おぐち・だいすけ)
1973年北海道生まれ。19歳のときに、札幌でTHE NORTH FACEのスタッフとなり、店長を経て、原宿店店長を歴任。2006年に同ブランドのプレスルームが開設、初のプレス担当に。新業態であるSTANDARDやGRAVITYを数々手がけ、新たなブランドの方向を打ちだした。2016年4月、24年間務めた株式会社ゴールドウイン(THE NORTH FACE)を退社、新天地に向かう。

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