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【SOIL&”PIMP”SESSIONSインタビュー】バックボーンにあるジャズの再確認と新提案。
2016.06.17 Fri
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
日本のみならず、イギリスのグラストンベリーフェスをはじめ、世界各国の音楽ファンの虜にしているSOIL&”PIMP”SESSIONS。日本の夏フェスを前に、6月後半からは、カナダのフェスを中心にした北米ツアーに赴く。4月にリリースされた最新作『BLACK TRACK』に込められたものとは何だったのか。
写真=伊藤愛輔
●ブラック&メロウをコンセプトにして。
–––– アルバム『BLACK TRACK』を聞いていると、今まで以上に音楽の幅が広がった印象です。
タブゾンビ 今回のアルバムを制作するにあたってのミーティングで、「ブラック&メロウ」というコンセプトを設けたんです。ディレクターから出た言葉だったんですが、メンバー全員「いいね」と感じるテーマでした。そしてこのコンセプトに基づいたものを、それぞれが考え、持ち寄って生まれたのが『BLACK TRACK』です。
丈青 今回のアルバムのために書いた曲だけではなく、3~4年前に書いた曲もあります。
–––– 『BLACK TRACK』とはジャズの長い歴史を意味するワードかもしれないですね。
元晴 「今回ヤバイね」とか「この曲もヤバイね」って、録りながら言っていたんですよ。その意味では、最初からいいものが録れているという自覚がありました。特に丈青が盛り上がっているのが印象的でしたね。
丈青 ミックスもマスタリングも、ずっといたから。そこまですべての作業にいることは少ないんだけど、今回は特に細部にまでこだわっている。「自分が味わっておいしいものを」っていうことを基準にすごく考えて取り組みましたね。何度も確認作業をしながら、しかも新しいアイデアをスタジオでどんどん取り入れ、具現化しながら、すごく集中して完成したアルバムだと思います。
–––– 一回一回のライブでも、ソイルはそのライブにかけるモチベーションがすごいと感じています。それと同じようなものを、このアルバムにも感じています。
タブゾンビ 同じことをずっとやらずに、そこに留まらずに、進化しているという感覚があります。メンバーもすごくリスペクトしているし、みんなが新しい風をいろんなところから持ってきてくれる。そんなことも、音に向かうモチベーションに繋がっているんでしょうね。
–––– ひとつの音に神経を集中させて、音を吐き出している。だからこそ、その音に含まれるエネルギーもものすごく熱いものになっている。
元晴 ステージに立つ人間として最低限のマナーだと思いますね。「そうじゃない人はステージに立つ資格がない」。そのくらいの気持ちで毎回ライブには挑んでいます。実は一昨年に椎間板ヘルニアになっちゃって立てないくらいだったんだけど、ライブの最中は痛みがゼロになっちゃうんですよね。ライブの最中に自分たちから出ているパワーみたいなものは、計り知れないものだと思います。そこにオーディエンスからのパワーも加わって、また自分たちの音楽からも更なるパワーをもらって…その様にして僕らはライブを行っています。その中でも、2011年3月11日以降は、自分たちの音楽から自分たちもパワーをもらっているという感覚がより強くなっていますね。
丈青 やっぱりライブはおもしろいよね、オーディエンスにパワーを与えるし、パワーをもらえる。
●ジャズの壁を壊すための作業。
–––– 6月後半から北米ツアーが行われます。
元晴 アメリカでツアーしたい。そういう目標を1年半くらい前から、ひとりひとりの心のなかに持ちはじめて。それに対する準備を、今までにしてきたんだと思うんですね。去年リリースしたライブアルバムも、自分たちを鏡に映して見る作業だったと思うし。
–––– 過去にアメリカでライブをしたことはあったのですか。
元晴 一度だけ。ニューヨークでライブをしました。今回が2回目になります。
–––– ソイルはヨーロッパへのツアーも多い。ヨーロッパとアメリカは、やはり違うものなのですか。
丈青 うん、違う。アメリカとヨーロッパだけではなく、どこでも違うけど。
元晴 前にニューヨークで出たイベントは、アメリカにしては、わりとクラブジャズ方面にも明るいアメリカ人が来ていたと思うんです。けれどアメリカ人って、あまりクラブジャズを見ていなくて、ジャズはジャズという意識が強い。ビバッブの先にある、ハードバップの先にあるもの、みたいな感覚。
丈青 クラブジャズという意味では、やはりイギリスだね。
元晴 北米ツアーは、カナダとアメリカのジャズフェスを巡ります。北米、特にボストンやニューヨークといった東海岸は、とてもハイレベルな学校も揃っていて、耳の肥えた人たちも多い。暮らしの側に音楽がある。そんな人たちが集まるフェスでライブをする。そこで僕らが提案できることってあると思う。
–––– ソイルが、今までに北米でそれほどライブをやっていないということの方が不思議なくらいです。ジャズフェスに限らず、ロックフェスにだって、大歓迎されるはず。
タブゾンビ オファーはいただくんですけど、単発が多くて実現できていなかったですね。やっと行けるという感じです。言い方は悪いかもしれないけど、プロモーションの目的に海外に行っているバンドもある気がする。海外へ行き、ライブをしてきたという物語を作る。だけど僕たちは、あくまでも海外から招聘されて行く。ライブを届けに行っているんです。アメリカでもヨーロッパでもアジアでも、そのスタンスは変わりません。
丈青 今回の北米ツアーもそうだけど、ありがたいことにフェスもたくさん呼んでいただいているしね。
タブゾンビ ソイルのように、海外から呼ばれていくバンドも実はいっぱいあるんです。けれど日本のメディアでなかなか紹介されないのは残念ですね。
–––– 海外でライブをする際は、逆に日本を意識するのですか。
元晴 いろんなもの、いろんな状況を背負って、僕らはひとつひとつのステージに立っていると思うんですね。日本人ということだけじゃなくてね。だからどんなところへ行っても、どんな人たちとセッションしても、常にダメなヤツになっちゃいけないと思っていて。そうやって人間を磨くことが音楽にも繋がってていく思うし。
–––– 北米に行くというアイデアは、どんなきっかけで生まれてきたのでしょうか。
元晴 ずいぶん前から、いつかは必ず行くと思っていた。もしかしたら、結成したときからその思いは持っていたかもしれない。アメリカに行くためには、何を準備しなきゃいけないのかって、本気で考えはじめたっていうことですよね。ヨーロッパはセンスで通用するかもしれなけれど、アメリカは絶対にセンスだけでは通用しない。
タブゾンビ ジャズが発祥した土地ですから。
元晴 スキルを求められる。審査員的な見方もされるしね。ある意味、日本のジャズシーンと近くて、逆にアメリカも日本に近い部分も増えてきているんだけどね。どんどんアカデミックになってきているのが、今のアメリカのジャズ教育で、ある部分ではそれが弊害だと思う。研ぎ澄まれているスキルを求められる土壌もあるから、そこに挑まなければならない。それが、俺たちのアメリカに対する準備なんです。
–––– 確かに、ロバート・グラスパーやカマシ・ワシントンなど、アメリカのジャズシーンから、おもしろい人が現れています。
丈青 ロバート・グラスパーは、グラミー賞も獲りましたしね。
元晴 でもジャンルはR&B/ヒップホップ。アメリカはカテゴライズが好きだしね。そのカテゴリーの壁を壊すのも僕らがめざしてやってきたことだし。だからこそ自分たちが作ってきたデス・ジャズというカテゴリーを、今は壊している段階なのかもしれませんね。自分たちで作ってしまったかもしれない壁を壊すこと。
–––– その意味でいうと、『BLACK TRACK』というアルバム、ブラック&メロウというコンセプトは、新しいソイルの一歩なのかもしれませんね。
タブゾンビ カマシ・ワシントンのような音は、10年くらい前にやっているんですよ。けれどソイルの作る新しいイメージをデスジャズという言葉で定着させるために、その部分をフィーチャーしていたように思います。実はそれだけじゃない。今回のアルバムは、いろんな聞き方ができるし、間口の広いアルバムになったと思います。
●BLACK TRACKに込めたジャズ。
–––– 最後に自分たちで考える『BLACK TRACK』の聴きどころを教えてください。
丈青 全幅の信頼を寄せているピアノの調律師の方がいて、その方に今回の調律もやってもらったんです。ピアノを弾きやすかったのはもちろん、ピアノだけじゃなくて、管楽器とのハーモニーが、倍音を含めてすごく綺麗なんです。メロウというコンセプトにぴったりの響きになっています。エンジニア、マスタリングエンジニアの存在も大きくて、楽しみながらも、僕らの音作りに全力で協力してくれるスタッフが集合している。それがまたいいアルバムに繋がっていると思います。
元晴 今回のレコーディングではサックスを5本使っています。ソプラニーノからバリトンまで。ソプラニーノはソイルのアルバムではあまり使っていないし、バリトンもはじめて。音色も雰囲気も全然違う。単純に音程が高い低いじゃなくて、曲調によって使い分けています。音色から導かれるメロディやソロ。そのチョイスがばっちりはまったと思います。
タブゾンビ スピリチュアルブラックジャズの要素だったり、現在のジャズのスタイルだったり、モードだったり、フューチャージャズをイメージしたものだったり。いろんなバリエーションのブラック&メロウが楽しめると思います。
2001年に東京のクラブで知り合ったミュージシャンが集いバンド結成。2003年に音源を発表していないのにも関わらず「フジロック」に出演。元晴、タブゾンビ、丈青、秋田ゴールドマン、みどりん、社長という現在の6人編成となった。イギリスのグラストンベリーフェスをはじめ、ヨーロッパ各国、オーストラリア、南アフリカなど海外へのツアー、ビックフェスへの出演も多数。今年6月にはカナダのジャズフェスを中心にした北米ツアーを行う。最新作が4月にリリースされた『BLACK TRACK』。
フェス出演スケジュール
7月17日(日) 夏開きMUSIC FESTIVAL所沢
7月24日(日) FUJI ROCK FESTIVAL
7月31日(日) 夏開きMUSIC FESTIVAL大阪
9月4日(日) SUNSET LIVE 2016