- カルチャー
カスケードデザインを支える2人のアメリカ人がやって来た!!! その①
2016.11.02 Wed
宮川 哲 編集者
Chris Lowe(クリス・ロー)、Thomas Threlkeld(トーマス・スレルケルド)。ともに、カスケードデザイン社の要職を務めるふたりのアメリカ人が、先日来日した。サーマレストのマットレスにはじまり、プラティパスやシールライン、MSRと破竹の勢いでアウトドア業界の雄となったカスケード流の来し方、そして行く末について聞いてみた。
左がクリス・ロー。サーマレストブランドの営業部長を経て、現、カスケードデザインの営業統括部長に。今回が初来日。シアトルだけに、大の野球ファン。イチローも球場で見たことあるよー、と盛り上がっていました。右がトーマス・スレルケルド。環太平洋/南アメリカ担当のセールスマネージャー。日本、韓国、中国などのアジア諸国はもちろん、オーストラリアからニュージランドにチリまで、世界中を飛び回っている。バイク好きで、アメリカ大陸を縦横無尽に走り回っている。あのデイナ・グリーソンとも仲がよく、ともにロングツーリングに出ることもあるとか
Akimama(以下A)……突然ですが、これ、ぼくの3代目です。
Chris & Thomas(以下CおよびT)……Oh!! 懐かしい!!!
C……これ、当時ものすごく注目されたモデルだよ。
T……13年くらい前のやつだ。中のフォームをカットした初めてのモデルで、息を吹き込んで膨らませるタイプの。
サーマレストのパフォーマンスシリーズ。ウルトラライトのロングモデル。フォームをカットした当時の革新的なモデル。自動膨張式のマットながら、補助的に息を吹き込むことでより快適な弾力を得ることができた
A……もう13年も前のモデルなんですね。でも、まったく壊れません。未だに現役。
C……そうなんだよね。サーマレストは耐久性があってとても長持ちする。
T……まだ、72年当時の初代モデルも現役で使えるから。当時のものを3つ持っているけど、まだまだ大丈夫。
A……え、72年のがですか。
C……もう40年以上も前。サーマレストが生まれたときのだよね。
庭仕事から生まれたマットレスのアイデア
C……スタートは1972年のこと。このアイデアをつくったのは、カスケードデザインの3人の創始者だよ。ジム・リーとニール・アンダーソン、そしてこの前、社長に就任したデービッドの父親で初代社長のジョン・バローズ。
左は1960年代のジム・リー。右が初代社長のジョン・バローズ。ともに、バリバリのアウトドアマンで登山家だった
T……基本構造はまったく変わってないんだよ。このマットレス。最初はブラス(真鍮)のバルブだったけど。
A……ブラスバルブからはじまって、いまはプラスチック。それ以外の構造には変わりがないということ? でも、40年も経っていたら、いろんな声もあるんじゃないですか?
C……たしかに。カスタマーからは、長いことこのかたちで来ているけれど変えられる部分もあるんじゃないかと言われました。機能的には満足しているけど、デザインの変更とか。だから、その声を受けて、大きく変わった部分もある。最初のモデルから比べれば、もっとセクシーなスタイルになっていると思うよ。
※サーマレストの自動膨張式マットレスは、1972年の発売以来、基本的な構造はまったく変わっていない。とはいえ、軽量化や耐久性の確保、デザイン変更などは幾度も繰り返され、むかしの四角いハードなイメージから現在は丸みを帯びた柔らかいかたちが主流となっている。
T……さっきの話じゃないけど、ホント、耐久性にすぐれているから変わらずに使い続けられる。自動膨張というシステムはスゴいよね。
A……このアイデアはどんなきっかけで生まれたのでしょう?
T……この写真、見たことある?
A……あ、サーマレストのカタログによく出てるやつだ。いちばん最初のアイロン(?)ですよね。
カスケードデザインの本社に大切に残されている手づくりの圧着機。これがなければ、セルフインフレータブル式のマットレスは生まれて来なかったはず。まさしく、貴重な産業遺産ともいえる
C……そうそう、ジムたちが手づくりした圧着機。これをつくるもとの話になるけれど、最初はジムが庭仕事をしていたときにマットレスのアイデアを思いついたのがきっかけ。
T……庭で草いじりをしていたときのこと、そのまま膝を地面につけるのが痛かったので、自分でフォームを折り曲げて使っていたようなんだ。で、立ち上がったときに、そのフォームのヘコミが元に戻ろうとするのを見て、頭の中にピカッと電球が灯ったらしく。エジソンだね。
C……当時はまだクローズドセルしかなかったので、ならば、フォームが元に戻るタイプをつくってしまおうと思ったらしく、仲間のニールとジョンの3人で、ワッフルやサンドイッチをつくるための器具を改良して、圧着機をつくってしまった。木枠をつけて。それが、あの写真。
T……まだ、シアトルの本社に残っているよ。本物が。
ここでいうクローズドセルとは、Zライトやリッジレストのように、一枚型で完結しているマットのこと。空気を入れて膨らませるセルフインフレータブル(自動膨張)と区別して使われる
A……庭仕事からですか、サーマレストは。
T……あ、でも、もともと彼らはアウトドアに親しんで来た連中だったから、アイデアが即結びついたんだと思う。山登りなんかも大好きなメンバーだったから。
T……あとは、元のエンジニア魂もあったと思う。
A……3人はともにボーイング社のエンジニアだったって聞きました。
C……そう、ジムもニールもジョンもボーイングだった。シアトルだしね。
T……ボーイングで開発のチームにあったので、ものを作るという意味では入りやすかった。そのバックグラウンドがあったので、ものづくりの考え方は得意だったはず。でも……。
C……70年代のボーイングでは、大規模な解雇劇があったんだよね。そのときに、ジョン以外は解雇された。だから、リーには庭仕事をする時間があったんだよ(笑)。
T……ジョンのみは解雇されなかったんだけど、その後、自分からボーイングを辞めて、彼らとの共同開発チームをつくった。
A……じゃ、ともすると、ボーイングの解雇がなかったらサーマレストは生まれていなかったかも!?
C……HAHAHA、どうだろうね。
カスケードデザインの第二幕は、仲間探しの時代
A……72年に3人が会社を立ち上げてからは、マットレスだけを扱っていたんですか?
C……たぶん、85年くらいまではマットだけだったはず。
T……86年にシールライン、93年にパックタオル、96年にプラティパスを買収している。
シールライン、パックタオル、プラティパス。86年以降、順次、カスケードデザインの傘下に入り、いまやアウトドア界にはなくてはならないギアたちを次々と生み出している
A……企業としてどんどん大きくなっていく。どんな転換点があったのですか?
T……じつは、サーマレストのパテントが切れるという事実もあって、その焦りから幅の広い展開が必要だった。マットの発表から20年くらいはパテントがあって市場を独占していたのだけど、以降はいろんなメーカーが参入してくるはずだからと。
A……なるほど。では、カスケードはなぜシールラインやパックタオルなどの企業に目をつけた? ポイントがあったのでしょうか。たとえば、カスケードと共有するものがあったとか?
C……当時もいまもですが、アウトドアがベースにあるのは当たり前として、同じようにものづくりをしていたからだと思う。いいものをつくるというスタンス。
T……3つのブランドは、買収した最初はとても小さいブランドだったけれど、結果としてカスケードが大事に大きく育てていくことができた。とくに、プラティパスは大きく成長した。
A……プラティパスは日本国内では、いまや誰でもが持っているブランドとなっているけれど、アメリカでもそう?
C……よく使われているね。MSRだったりサーマレストはアメリカでも既にかなりの市場をとっていたので大きく広がることはないけれど、プラティパスは別。アメリカでもかなり急成長したよ。
T……プラティパス=カモノハシのネーミングがよかったのかね。カモノハシは日本にはいる? って、いないか。オーストラリアだよね。
A……プラティパスで思い出しました。ちょっと脱線してもいいですか?
Akimamaのやってみた企画「プラティパス乾かすぞ選手権」は“KAIZEN”!?
A……じつはAkimamaの企画でこんなこと、やってみたんです。
http://www.a-kimama.com/dougu/2016/05/46609/
【戦ってみた】プラティパスをもっとも速く乾かす選手権……は、Akimamaの人気記事に。みなさん、ご注目、ありがとうございましたー!!
そうしたら、とてつもない反響を呼びまして。いまだにAkimama内でいちばん読まれている記事なんです。
C……ワォ! おもしろい。
A……記事の結論としては、手ぬぐいを細く丸めてインして水気を吸わせるのがいい、と出たのですが。これは、本当?
T……ドライングボトル。本当におもしろいこと考えるね、日本人は。ぼくの場合は、ボトルを振って水を出したら、完全に放置。
C……日本人はきれい好きですぐに乾かしたくなったりするんだろうけど、アメリカ人はね。ま、あまり気にしない。でも、日本の人たちはクリエイティブな考え方をするなー。この記事、カスケードのHPで紹介してもいい?
A……う、うれしいです。ぜひ、英訳して紹介して!!
T……これ、“KAIZEN”だね。日本人らしい、日本人のいいところ。常にベストを求める。
A……KAIZENって、トヨタの改善のこと?
T……Yes!! KAIZEN!!!
※“KAIZEN”とは言わずと知れた「改善」であり、おもに工場などの作業者たちが中心となって行なう戦略などをさす。KAIZENはもはや国際語に。それにしても、AkimamaにKAIZENが当てはまるとは!
(その②につづく)