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不思議、巨大、異形……世界に一つだけの花を探し、辺境を歩いた『世界植物記』が刊行!
2016.11.23 Wed
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
昨年冬に刊行され、アキママでも紹介した『世界植物記/アフリカ・南アメリカ編』から、およそ1年半、待望のアジア・オセアニア編が刊行された。
本書は日本を代表する植物写真家、木原浩さんの20年以上にもおよぶライフワークの集大成であり、このアジア・オセアニア編が刊行され、2巻そろったことにより、はじめてひとつの作品としてコンプリートしたとも言えよう。そもそも木原さんが、世界のトンデモナイ植物を求め、撮影をする旅のきっかけともなったのは、子どものころ、本で見た世界一大きな花「ラフレシア」だったという。そんな原点とも言える「ラフレシア」は、インドネシア・スマトラ島のトラが徘徊するジャングルで、2年ごしに撮影されたもの。写真を見ているだけでも、そのおどろおどろしさにドン引きしてしまう。
「世界一大きな花」と言われるラフレシア。1818年、イギリス人のジョセフ・アーノルドによってスマトラ島で発見された。(c)木原浩(ラフレシア・アルノルディイ/ラフレシア科/インドネシア・スマトラ島)
本書に掲載されている写真は、単なる図鑑的な植物の姿かたちだけを写したものではない。花の美しさ、不気味さ、そして、それらの花が咲く生息環境、気温、湿度、匂い、ときには音までも聞こえてきそうなほど、生態の臨場感に満ちている。花と向き合い、その花に出会ったときの木原氏の興奮、息遣いが写真からビンビンと伝わってくるのである。これは相当にヤバい。
標高4500mの氷河湖畔に咲くレウム・ノビレ(セイタカダイオウ)。花は半透明の苞葉の中にある。(c)木原浩(学名:レウム・ノビレ/タデ科/ブータン・ダガラ高地)
地図の空白部がなくなり、あらゆる場所に人間の足跡が記されたと言っても、それはジオグラフィカル(地理学的)な話である。世界の辺境には、いまだひっそりと人目に触れられることなく、今も息づき、花を咲かせている植物はいくらでもあるのである。そんな植物を探して世界の辺境を歩き、撮影した写真の数々は、上質な探検記、冒険記を読んでいるかのように、読者はページをめくるたび、発見の喜びと興奮を覚えるに違いない。
ハレアカラ火山の広大なクレーターの中の砂礫地に咲くハワイの固有種ギンケンソウ(銀剣草)。(c)木原浩(ギンケンソウ/キク科/アメリカ・ハワイ マウイ島ハレアカラ山)
加えて、東京・中野の飲み屋のエピソードから始まるブータン紀行、ページいっぱいに広がるあどけないネパールの子どもの顔、ミサイルの飛び交うゴラン高原に咲く真っ赤なアネモネを前に、小学生のときにはじめて買った鉢植えだと思いを馳せるキャプションなど、植物記と題されてはいるが、木原氏のまなざしは、植物のディテールはもとより、ミクロとマクロ、時間と空間を自由自在に行き交い、旅の本物(リアリティ)に満ちている。
西表島に咲くサガリバナは、夜に開花して夜明けとともにほとんどが落ちてしまう。水面には花が浮き流れてくる。(c)木原浩(サガリバナ/サガリバナ科/日本西表島)
本書の編集を通し、行ってみたい、見てみたい場所、植物が逆に増えてしまったという木原さん。「無性にどこかへ行きたくなる」と始まる本書は「さて、これからどこへ行こうか」と結ばれている。行きたい、見てみたい、そんな旅の根源的欲求と知的好奇心を満たし、著者と共有できる1冊……、いや2冊だ。
標高5200m、生育可能な環境のギリギリの限界点で咲く野生本来の青いケシ。まさにそこは桃源郷と呼ぶべき秘境であった。(c)木原浩(メコノプシス・ホリドゥラ/ケシ科/ネパール・ゴーキョ)
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『世界植物記/アジア・オセアニア編』(平凡社刊)
菊倍版・変型(226㎜×303㎜)オールカラー288P
本体価格:6800円+税
【収録国】
イスラエル
ネパール
ブータン
中国
マレーシア
インドネシア
オーストラリア
ニュージーランド
日本