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「発酵」から始める野菜作り! 落ち葉堆肥作りを学ぶWSが東京三鷹で開講
2017.02.24 Fri
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
「きちんと発酵させた落ち葉堆肥を作ること。これが良い野菜を作るいちばんの近道です」
そう話すのは、数学教師と農家の二足のわらじを履く鴨志田 純さん。東京西部・三鷹市の農園で多様な野菜を作っている。
「父から受け継いだのは3反の農園。この辺りの農家の常で、少量・多品目な野菜作りをしています。春のソラマメに始まり冬のダイコンまで、1年で約45種類程度を作っています」
鴨志田さんへの代替わりは、父から農業技術を受け継ぐ前に訪れた。指導する人のいないなか、鴨志田さんはさまざまな農業技術を学ぶべく全国各地を飛び回った。
「野菜作りも土作りも、いろんなアプローチがあります。どれもが間違いではないし、どれもが絶対の正解でもない。それぞれが自分にあった方法を選び取ればいい。しかし、たくさんある農法のなかで私にいちばん合ったのが、橋本力男先生の提唱する、完熟堆肥を使う農法でした」
橋本力男さんは完熟堆肥を使った育土の大家。鴨志田さんは休みのたびに橋本先生の畑のある三重県へと車で通い、堆肥作りの技術を身につけた。右が堆肥・育土研究所代表の橋本力男先生。落ち葉や生ごみを使った有機農業の技術を研究。後進の育成も行なう。
「橋本先生の堆肥作りの特徴は、畑の土壌を腐敗しないように管理すること。落ち葉を高温で発酵させることで堆肥中の病原菌や雑草の種子を死滅させ、分解が済んだ堆肥を畑に入れることで、施肥したあとの土中での腐敗も防ぎます。分解が進んでいない堆肥は、畑に入れると土中で腐敗することがあるんです。完熟した堆肥を入れるだけで、野菜から病気が出にくくなります」8割がた発酵の済んだ堆肥。さらに分解が進むとより土に近づいていく。
有機物が土に還る分解には「発酵」と「腐敗」がある。人間に好ましい分解が発酵、好ましくない分解が腐敗と呼ばれる。
「発酵と腐敗、どちらを経ても有機物は土に還りますが、それぞれの土で作った野菜の味には雲泥の差が出ます。発酵を経た土で作った野菜は甘くて腐りづらくなり、腐敗を経た土で作った野菜はかすかに腐敗臭が感じられます。野菜はそのほとんどが水分。土からどんな水を吸い上げるかで、味には大きな差が出るんです」
これまでの農業でも落ち葉は堆肥に使われてきた。鴨志田さんの実践する落ち葉堆肥は既存の堆肥作りと何が違うのだろうか。
「絶えず落ち葉に空気を送り込むことです。旧来の落ち葉堆肥は、林や畑の一角に囲いを作ってそこに落ち葉を積み上げました。しかし、これでは中心部の酸素がなくなり、落ち葉が腐敗してしまう。一方、橋本先生のすすめる方法では、落ち葉の山を切り返して酸素を送り込み、酸素を好む菌の力で落ち葉を発酵させるんです。真冬でもその温度は70度近くになり、この過程で野菜に悪い影響を及ぼす菌を死滅させることができます」
健全な土で育てれば、野菜は病害虫に強くなり、味も良くなる。害虫を駆除する手間も省くことができ、農薬を使わずに済む。
「ひと冬かけて、ちゃんとした発酵を経た落ち葉堆肥を作ること。これだけで驚くほど良い野菜ができる。その後の農作業の手間も減る。そして、多岐にわたる農業技術のすべてを身につけなくても済むんです」
農業技術には作物に問題を出さないためのテクニック、出てからのリカバーのテクニックも多い。そもそも問題が出ない土を作れば、それらの技術を学ばなくても済む、というわけだ。
そして、落ち葉堆肥を使った農業にはもうひとつの大きな魅力がある、と鴨志田さん。
「落ち葉は日本中どこにでもあります。北から南まで、どんな場所でも落ち葉堆肥を作ることができる。そして日本だけでなく、落葉広葉樹林のある場所なら、世界中のどこでも使える技術なんです」
鴨志田さんは身につけた技術を請われて、現在ネパールへ手弁当で農業指導に通っているという。
「出会いは全くの偶然でした。ネパールは農業従事者の割合が全人口の8割近い農業国なのですが、農業技術が発達していない。これに悩んだNGOの人が私に声をかけてきたんです。この方は日本に留学した経験があり、そのときにお世話になった先生に『鴨志田』という名前の人がいたそうです。日本の農業について調べているときに鴨志田を見つけたので、何かの縁と声をかけられたんです(笑)」
小さな小屋で始まったネパールでの堆肥づくりは、やがて国がすすめるプロジェクトに。ネパールの政府高官の肝いりで、生ゴミを堆肥化するプラントを作ることになり、これからの数年は日本とネパールを往復する生活が続くという。
「落ち葉堆肥の技術は土も人も汚しません。せっかく身につけた技術ですから、ネパールだけでなく日本のみなさんにもおすそ分けしたいと思ってきました。幸いなことに、うちの畑は東京からアクセスしやすい場所にある。来年からはネパールにかかりっきりになるので、その前に落ち葉堆肥を使った農業技術のワークショップを展開することにしたんです」
鴨志田農園で行なわれる野菜作りのワークショップは4月からスタートし、12月まで全21回を予定。完熟堆肥(5種類)の作り方から野菜作りまでを伝授する。定員は6名。
このコースのほかにも、落ち葉堆肥の作り方や完熟堆肥を使った野菜の育て方が1日で学べる、コンパクトなワークショップも並行して展開されるという。
ワークショップの詳細、鴨志田農園へのアクセスはこちらから!
https://www.facebook.com/kamoshida.farm/?pnref=lhc