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小さな山の古書店「books moblo」店主によるアウトドアな古本紹介の連載が始まりました。
2017.06.28 Wed
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
神奈川県の鎌倉にある小さな古書店「books moblo」店主の荘田賢介さんによるbooks紹介が始まります。「books moblo」は、山登りをはじめ、旅行、写真、映画などの古書やZINE、リトルプレスなどなど、鎌倉の自然文化がギュっとつまった人気の古書店です。また、荘田さんは、先週鎌倉市内で開催された「ブックカーニバル in カマクラ」というイベントの代表もつとめています。
「山登りほどあらゆるスポーツの中で、書物による愉しさを味わえるものはあるまい」
~『山と書物』(小林義正著・築地書館刊)文中より~
お店で扱うアウトドアな本と、ひとくちに言っても、紀行や随想、冒険記……そして、文芸的なものから科学的なもの、気象や風土など民俗資料的なものまで多岐にわたりますが、ここでは、私の独断と気分で、そんなアウトドアな古本やリトルプレスを紹介していきます。今回、まず最初にご紹介したいのは、『アルプ』(創文社刊)です。 出会いは古本屋が集う古書市場でした。まず、表紙の『アルプ』の書体の美しさに惹かれました。HG明朝Eフォントのような凜として気高く、誰も寄せつけない山のような、その書体と自然を描いた版画だけの表紙に心奪われました。
本書は1958年に創刊され、1983年まで四半世紀の間に300号を刊行し、今なお、時代を超え、語り継がれる山の文芸誌です。編集者には、作家 串田孫一、詩人 尾崎喜八、版画家 畦地梅太郎、画家 辻まこと、写真家 三宅修などが顔をそろえ、600人以上の多彩な方々が執筆に加わっていました。
しかし、山の文芸誌なので、登山コースの紹介、技術や道具紹介といった実用的な記事はいっさいありません。もちろん、広告も自社広告以外はありません。全体的な構成は、エッセイ、詩文、版画、写真などで、特集には、「頂」、「山小屋」、「雨」、「森」、「牧場」など、人間以外の自然の事柄(モチーフ)が選ばれています。
私が個人的に『アルプ』でオススメするページは、裏表紙に毎号ある「詩」と「版画」だけのページ。自然に対する情緒的な詩と版画が、心を落ち着かせてくれて、今にでも、扉を開けて森にでも出掛けたくなります。
「樹木は どうしてこんなに 樹木らしく きりりと いつも立っているのだろう」
~Alp 149号より~
登山技術や装備は進化しても「自分の足で山に登る」という肉体的、精神的な行為は100年前となんら変わらないからこそ、『アルプ』に描かれた自然の情景やその詩的な表現が今でも心に響くのだと思います。ぜひ、山に行ったら麓の古本屋をそっとのぞいてみるのもいいでしょう。そして、『アルプ』をザックに忍ばせておけば、きっとこれからの登山が楽しくなるはずです。「アルプ」の品ぞろえはなかなかのもの。創刊号から300号まで、人気のある号はなかなかのお値段だが、今見ても色褪せない。お店は、鎌倉駅から徒歩5分、横須賀線の線路をはさんだ大町にある。
次回は、古本の定番「保育社のカラーブックスと原色図鑑」をご紹介する予定です。
(文・写真=荘田賢介「books moblo」)