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伝説的なカラー図鑑シリーズ『カラーブックス』と『原色日本図鑑』は、今見てもかなりすごいんです
2017.07.14 Fri
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
登山の楽しみは、なにも頂上をめざすものだけでないと思っています。例えば、それがバードウォッチングだったり、植物の採集、写真や写生、地域に関する民俗研究など、その目的とジャンルは多種にわたりさまざまです。
今回、紹介するのは、大阪の老舗出版社の保育社より刊行された『カラーブックス』と『原色日本図鑑』です。
写真文庫「カラーブックス」シリーズは、「色々なジャンルの情報を提供するビジュアルな小百科」として、昭和37年(1962)に創刊。1999年までの37年間に刊行された全909巻のうち、なぜか、第1巻は「ヒマラヤ 秘境に生きる人びと」でした。
いきなり、日本飛び越えて、ヒマラヤの高山で暮らす民族や生活道具、岩壁がむき出しの草花などほとんどない森林限界の山々などの写真で構成された、なかなかマニアックな一冊です。
今でこそ、「ヒマラヤ」は皆が知るところになりましたが、創刊当時は情報も少なく、日本マナスル登山隊が昭和31年(1956)に初登頂し、ようやく「ヒマラヤ」という地域を知った程度ではないでしょうか。どうして第1巻が「ヒマラヤ」だったのかは謎のままです。
著者は、1958年に西北ネパール学術探検隊を隊長として率いた川喜田二郎氏と隊員でもあった高山龍三氏、そのほか当時のエクスペディションに参加した隊員たちも名前を連ねる。川喜田氏はマナスル登山隊の学術隊員としても参加、日本のヒマラヤ研究の第一人者でもあった。川喜田氏は、フィールド調査に基づいたデータベースの分類や、新しい発想やアイデアを新たに体系化していく情報整理法であるKJ法を確立したことでも知られる。全909巻にもおよぶカラー小百科の第1巻として川喜田氏が関わっていることは、単なる偶然ではないだろう。既存の体系化された百科ではなく、あらゆるタイトルがランダムに並んでいるのをみると、関連性やキーワードを分類、体系化していくというまさにKJ法そのもの。いまだかつて誰も試みたことのない意欲的な取り組みを感じる。1巻目がヒマラヤだったのは、実際に50年代の数々のヒマラヤ探検で、日本は世界でも一目をおかれる成果をあげていたことが関係しているのかもしれない。
その他に、アウトドアに関連するタイトルは、「北アルプス」、「高山植物」、「スイスの山」、「続 山菜入門」、「熊野路」、「富士の自然」、「森林浴入門」「地図のみかた」などがあり、変わったところでは、「すすきののママ101人」や「おもしろ駅図鑑」など、ツッコミどころ満載なタイトルもあります。
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サンフランシスコ講和条約によって日本の主権回復がなされたのが1951年。戦後、日本がもう一度自らのアイデンティティを取り戻すべく、1954年に日本図鑑を創刊したといえなくもない。高山植物の巻は日本山岳会の創設メンバーでもある武田久吉があたるなど、こちらも豪華な執筆陣が名を連ねている。
そして、もう一冊、野外活動に欠かせない本といえば「図鑑」ですよね。同じ保育社から出ている『原色日本図鑑』の魅力は、ものすごく専門的でもなく、読者を触発する部分と言いますか、「あー、実際に見てみたいな」と思わせるところでしょうか。原色図鑑シリーズは、世界最初の図鑑全集とも言われ、1954年に刊行された1冊目の『原色日本蝶類図鑑』から1987年の『原色温室植物図鑑1』まで77タイトルあります。図譜の構成はもちろんですが、その図版の美しさに魅了されます。当時から「原色」をウリにしていることもあり、モノクロ写真の原版から、正確な色を着色する作業などは、相当な時間と労力があったと推測されます。今見てみると、なかには情報の誤りなどもあるかもしれませんが、それでもこの熱意ある編集には頭が下がります。
「永久の未完成 これ完成である」~宮澤賢治「農民芸術概論」より
常に問いを繰り返し、探求の心が人を動かす。書物にはそれがあると思います。皆さんも自然の中に身を置いて、何を見つけるのでしょうか?
次回は、山のリトルプレスたちをご紹介いたします。
最後に、ここで、ブックイベントのお知らせです。7月28日、29日、30日に長野県大町市の〝木崎湖〟で開催される「ALPS BOOK CAMP 2017」に今年も当店が出店いたします。アウトドアあふれる湖のほとりで新刊本や古本、古道具、雑貨などの販売があり、飲食や音楽、映画などを楽しむイベントです。詳しくは公式ホームページをご覧ください。
(文・写真=荘田賢介「books moblo」)