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【新連載】スキーとカメラを抱えたふたり旅 ・地球を滑る旅 No.0プロローグ編「世界の雪山を滑る旅へ」
2018.07.19 Thu
登場人物
2014年、オカイムデンスキー場(モロッコ)にて。滑った後に撮った珍しいツーショット写真
- 児玉 毅(こだまたけし)
職業:プロスキーヤー
家族:妻とふたりの子ども
性格:好奇心旺盛、止まらない行動力 - サトウケイ
職業:カメラマン
前職:月給制の安定した仕事
性格:マイペース、在るものを楽しむ
一生世界の雪山を旅して、滑りまくってやる宣言
「こりゃ、まずいぞ……」
世界の雪山をざっと見渡したとき、俺は愕然としてしまった。美しいスキー場から謎めいたスキー場まで、行きたい山は世界各地に散らばっている。その数、少なく見積もっても500ヶ所以上。どう考えても全部を滑り尽くすなんて、スキーヤーとして何度か産まれ変わらなければ不可能だ。
「こうしちゃいられない!」
とすぐにスキーバッグを担ごうとしたけれど、あいにく世界の国々を好きにハシゴしていた独身時代とは生活環境が変わっていた。俺は共働きの奥さんが子育て奮闘中なのを横目に、今までどおり風を道しるべに舐めた指を高くあげて旅できるほど大胆な性格ではなかった。
そのときだ。この上なくすばらしいアイディアが脳ミソを突き抜けた。
「本を作ってみるか……」
自分の活動を後世に伝えたい、子どもたちにメッセージを残したい、などの耳障りのいい目的を語れば『滑りた〜い!旅した〜い!』というノーテンキな欲求をカモフラージュできるし、もしもシリーズ化することができれば、旅を企画するたびに奥さんにお伺いを立てるというプロセスから解放されるという夢プランだった。
こうして俺は自分の足腰が立つ限り、重たいスキーバッグを担いで地球の輪郭をなぞるようにスキーをしまくる第二のスキー人生を決意し、スタートさせたのだった。
いっぽう、俺の『一生世界の雪山を旅して、滑りまくってやる宣言』と時を同じくして会社員という安定のポジションを捨て、一生世界の雪山を旅して写真を撮りまくってやる宣言をしたひとりの男に出会った。それが、旅の相棒であるkeyphotoことサトウケイである。
(文・児玉 毅)
旅を続けてきたプロスキーヤー・タケさん(=児玉 毅・こだまたけし)と、自然の山に踏み込んでスキーやスノーボードの躍動的なショットを狙うカメラマンのケイ君(=keyphoto・サトウケイ)。ふたりが2012年から続けているのが、「地球を滑る旅」と題したプロジェクトです。
実はこの旅、スタート以来スキー・スノーボード業界では大人気。本気で滑りながらも、思い切り自由に旅をする。そんな姿勢が多くの人たちの気持ちを掴み、過去に発売されている5冊のフォトブックはいずれも大反響を呼びました。
そのプロジェクト6カ国目のフォトブック発売を控えて、Akimamaではこの秋、先行旅行記としてプレビュー版を掲載することとなりました。それに伴って、過去5冊のフォトブックのダイジェスト版を連載形式でお届けします。
が、このユニークな旅を楽しんでいただくには、登場人物するふたりのキャラクターをご理解いただくのがいちばんの近道。というわけで今回は「地球を滑る旅 No.0」としてタケさん&ケイ君に、この旅のバックグラウンドをたずねてみました。
■まずは「地球を滑る旅 Ride the Earth」ってどんな旅ですか?
タケ「前文にも書いたんですけど、滑ったことない場所、滑ったことないスキー場ってものすごくたくさんあるわけですよ。そこをなるべくたくさん滑りたい。僕は大学卒業してからすぐにアメリカにスキー武者修行の旅に行ったんですよ。漠然とスキーの楽園を探して、理想の場所はどこにあるんだ? って思いながらスキーを抱えてうろうろしてた。目的はあるけど目的地は決まってない旅。そもそも、そういう直感だけで向かっていく旅からすべてが始まってるんですよね」
ケイ「僕からしたらこれは、スキーヤー・児玉 毅を被写体にして、タケちゃんの想いを撮りたいっていう気持ちが強いかな。そのなかで、やっぱり新鮮な感動を写真にしていきたい。児玉 毅といっしょに旅をして、その旅を自分の感性で形にしたいって部分は大きいんですよ」
タケ「まぁそう言っていっしょに旅に出てくれて、もう6カ国行きましたからね。ホント、奇特な人ですよ、ケイ君は(笑)」
■行き先はスキー場をピックアップしてますよね。そこにはなにか理由が?
タケ「スキー場があるってことは、そこにスキーを楽しんでる人が一定数いるわけじゃないですか。そのスキー文化を見てみたい。で、スキーを通じてその文化を感じ取りたい。スキーヤーである僕にとって、スキー場はその土地の文化をいちばん明確にハッキリと感じ取ることができる場所なんですよね」
ケイ「それはでかいよね。あと、スキー場って必ず万人に開かれてるから、行こうと思えば誰でも行けるはずなんですよね。アラスカのすごい山とかヒマラヤとかだと、限られた人じゃないと行けない。だけどスキー場は旅心の先にある。自分で引き寄せることができる場所だっていうのは、すごく大事だと思ってます」
- レイキャビック(アイスランド)のランドマークにもなっている、ハットグリムス教会の前で。モロッコのあとだっただけに、何もかも洗練されていると感じた
- エッサウィラ(モロッコ)は、サーフィンと海産物の街だった。言うまでもなく、食事は旅の大切な要素だ
■でも行ってるのは、ホントにスキーができるの? って国ばかり。行くに値する雪がないかもしれないですよね?
ケイ「そこはいいんです。ふたりとも北海道に住んでるし、パウダー滑りたいんだったら北海道で相当いいのイケますから。だけど、この旅で求めてるのはパウダーだけじゃないし」
タケ「ですね。あったらラッキーだけど、スキーの旅なんて滑りの部分は1割か2割くらい。あとはホントに移動と出会いの旅ですよ。全体で考えたら、雪質が左右する部分ってものすごく小さい。それよりも、はるかに比重の大きい『旅』の部分をどう捉えるかの方が大事だと思いますね」
- ガンジス川で沐浴する目的で訪れたバラナシ(インド)にて。現地人と結婚した日本人女性に出会った
- 近くて遠いサハリン(ロシア)の空港に降り立った直後。旅の準備不足でどうしていいのかわからず、立ち尽くしているところ
■過去の本には、あまり下調べをしないとあります。それも、旅の部分を楽しむため?
タケ「ですね。この旅は、僕というひとりのスキーヤーがこういうところを滑りたい! って思って旅をする、って部分が大事だと思ってて。動機づけとしては滑りたい気持ち、っていうのが非常に重要な部分なんですよ。その気持を純粋に盛り上げてくれるのが、新鮮な驚きですね。同じものを見ても『あぁやっぱりね』じゃなくて『なんじゃこりゃ!』って思いたいじゃないですか」
ケイ「まさにそれ。ガイドブックを買ったりもするけど、結局見ないんですよ。地球の歩き方とかも持っていくけど、いちばん最初に開くのは行きの飛行機の中」
タケ「毎回そうだよね。いろんな人に会ったりトラブったり、そういう偶然の部分に旅のおもしろみがあるんだと思ってます。できればそれを追求していきたいし、フォトブックの中でもアドリブで旅してる感じを表現していきたいんですよね」
ケイ「ま、大前提として、基本的にふたりとも面倒くさがり屋なんで。調べ物が苦手っていうのもありますけどね」
タケ「あんまり細かくスケジューリングしてギチギチになるのは嫌ですよね。なんかおもしろい人に出会ってホームパーティーに誘われてるのに、次の予定があるからって言うのは残念なんで。おもしろいことがあったら、そっちのほうにすぐふらふらっと流れていける余白は極力とっておきたいですね」
■それでも下調べしといたほうがよかった、と思った国は?
ケイ「インド(即答)」
タケ「ひどかった(笑)」
ケイ「レンタカーが使えない国は、電車に乗るのもバスにのるのも、まったく分からないんです。100%のノーガードで行くと時間もお金もかかって、旅が前に進まないんですよ」
タケ「けっこうやられました(笑)」
■旅のパートナーとして、お互いはお互いをどう思っていますか?
タケ「ケイ君は、自分のペースをしっかり持ってる。僕が雪を見てすごく興奮して、早く行こうよ! って言ってるときでも、ちょっとまって一服させてって冷静を保ってたり。僕もそれで落ち着けるんです。ふたりは同じノリで感動できるんだけど、ケイ君は常になごませてくれる。お互いプロとしての仕事をしてるけど、ベースの部分は友だちとしてしっかり補いあえる。いっしょにいてすごく心地よいですね」
ケイ「タケちゃんはスーパーポジティブ。旅慣れてるっていうか何があっても、絶対どうにかなるでしょ、ってどーんと構えてる。アイスランドのとき、長距離移動の日に猛吹雪で5メートルくらいしか視界が効かなくて、町も民家もないところを延々走らないといけなかったんですよ。北海道生まれの僕でもビビるくらいの状況で、これは一回止まって様子見たほうがいいんじゃない? って言ったりもするんだけど『いやまぁ、ゆっくり行けば大丈夫でしょ』って。もう、かなりポジティブ。そのへんがほんとに安心感あって尊敬しますね」
タケ「まぁ、それが仇となることになんなきゃいいんだけどね」
■最後に、この企画を通じておふたりが表現したいことって何でしょう?
タケ「スキーの魅力を伝えたい、ですかね。僕はある意味、スキーしかしてこなかった。けど、スキーをしていたから旅のおもしろさにも触れてきたと思うんです。雪とかスキーとか、そういう何か核になるものがあれば、楽しみは広がると思うから。好きなものを出発点に、好きなものをいろんな側面から見る楽しさと、好きなものがどんどん広がっていく喜びを伝えられたらいいですね」
ケイ「この企画を思いついたとき、これ以上温暖化していったら滑れなくなるスキー場も出てくるかもしれない、いま滑っておかないと、この先天然の雪でスキーやスノーボードができなくなる国もあるかもしれないって思ったんですよ。スキーって、ナチュラルにそういう環境意識に向き合ってしまう行為だから。
で、実際にやりはじめたらそれも大事だけど、いいスキーの意味が変わってきた。いい雪を滑りたいのか、いい場所で滑りたいのか。いい雪がなくても、いい場所はいっぱいあるよっていうのを、旅を通じて知ることになって。それは環境を意識しつつも、自分たちの好きなものを追いかけることは諦めなくていいんだっていう勇気になったんです」
タケ「まぁいろいろ言ってるけど、旅に出よう! ですね」
ケイ「だね」
- この旅では、レンタカーを借りられる国ならば、必ず利用するようにしている。このときは、北欧だけあって半端じゃなく高かった。(アイスランド)
- 言わずと知れたタージマハール(インド)で、正しい観光客を演じているひとコマ。毎日40度を越える酷暑には参った
- カサブランカ(モロッコ)へ向かう飛行機からの景色。延々と続くサハラ砂漠に、ワクワクが止まらなかった
- カシミールのホテルにて。スタッフに何か頼むと、チップ欲しさにスタッフ全員が来るのはやめてほしい。まぁ、仲よくなったけど(笑)
というわけで遡ること5年前の2012年、スキーを抱えたふたりの旅が始まりました。次回からは、過去の旅の様子を国ごとに、Akimama特別編としてお送りします。第一回レバノン編は近日公開予定。え! 中近東のあの国でスキーなんてできるの? という驚きを抱えつつ、お楽しみにお待ちくださいませ!
地球を滑る旅 Akimama特別編/そのほかの旅