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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.11 八ヶ岳山麓スーパートレイルのセクションハイクへ行ってきた!
2018.10.17 Wed
北村 哲 アウトドアライター、プランナー
ロングトレイルを歩こうと決めたときに、最初に考えなければならいのが、何日間かかるか? という問題。歩くからには、もちろんスルーハイクをしたい! けれども、日程、予算、体力、すべて確保するのはムリ! という人にオススメなのがセクションハイク。
ロングトレイルは、その長いルートをいくつかのセクションにわけています。スルーハイクする場合は、その全行程を一度の挑戦ですべて踏破するのですが、セクションハイクは、全行程のなかで区切られている区間をひとつづつ踏破していくというもの。時間をかけてセクションを繋げ、最終的にはスルーハイクした人と同じロングトレイルを踏破するというわけです。
私が都内から日帰りセクションハイクできるロングトレイルを探して向かったのは、八ヶ岳山麓スーパートレイル(以下、YTS)。八ヶ岳連峰の山麓を長野、山梨両県にまたがる12市町村を経由し周回する、全長約200kmのロングトレイルです。2011年に開通しつつも、度々ルート設定を変更しながら運営を続けてきた、日本のロングトレイルのなかでも古くから活動してきたトレイルです。
歩くセクションは、電車の駅がスタートとゴールに比較的近いものを探しました。すると「三分一湧水」がJR小海線の甲斐小泉駅に近く、エスケープルートなどを考えても甲斐大泉駅、清里駅と隣接する駅にアクセスできることがわかってきました。そこで、YTSのホームページで紹介されている全ルートのうちの「エリア06,07,08」の3エリアを一気に踏破するプランを立てました。
今回設定したセクションは、まず舗装道路のアプローチを経て、南八ヶ岳の権現岳・編笠山登山口で有名な観音平に向かいます。そこから、八ヶ岳横断歩道(2002年に開通)で、天女山、八ヶ岳牧場を経て、美し森まで、赤岳を中心とした南八ヶ岳の山の中腹、標高1,450m~1,800mを一気に横断し、全長約16kmを歩くというもの。YTSのセクションでは、そのまま下山して清泉寮を経由し、清里駅でゴールというルート設定です。少し長めの距離ですが、一気に踏破できれば充実した1日になること間違いなし!と楽観的に考えて、早朝からトライしてみることにしました。ただし小海線の始発が、JR小淵沢駅 午前6:14発~甲斐小泉駅 午前6:22着だったので、この工程では時間が足りないと思い、前泊をしました。
早朝 午前5:55。空もだいぶ明るくなっていました。いよいよ三分一湧水からセクションハイク開始です。最初は、山に向かって舗装道路を歩きます。登山道の入り口、小荒間交差点までは、約1時間ほどです。
(左)三分一湧水とは、戦国時代に農業用水を三方の村に等しく分けるために設置されたとのこと。(右)舗装道路と山道のミックスされた工程を歩くには、やはり登山靴よりも、サロモン X ULTRA3のようなシューズのほうが歩きやすいと実感。
小荒間交差につき、そのまま道なりに少し登ったところで、観音平に向かうためのルートが3つ現れました。ゲートが閉まった林道、そのすぐ横の荒々しい林道、更に20mほど登ったところから始まる小泉口登山道。迷った挙句、私は権現岳の三ツ頭につながっている小泉口登山道から、観音平をめざしました。
(左)小荒間交差点を越えると、やっと観音平へのアプローチ(右)迷って選んだ小泉口登山道。まちがいではないが、権現岳の三ツ頭に向かう登山道で、途中で八ヶ岳横断歩道にぶつかります。
結果からいうと、このルートはYTSのマップで推奨しているルートではありませんでした! 正解は、いちばん最初にあったゲートの閉まった林道です。詳細は、こちらの特定非営利活動法人八ヶ岳スーパートレイルクラブから提供していただいた写真とルート解説をご覧ください。
正解は、青の矢印。車道を登り左折。黄色のゲートを越えて林道へ! (下左)林道を歩き、二本めの防火帯へ右折。(下右)観音平の道標どおり、岩の間の道を登る。途中、笹の道が見分けにくいので注意。(提供:特定非営利活動法人八ヶ岳スーパートレイルクラブ)
一応、私が登った小泉口登山道のルート解説も記載させていただきます。熊笹で判断しづらい登山道をしばらく登ると登山道の脇に、石でできた小さな御社(おやしろ)の八ヶ岳神社があります。この登山道に観音平と三味線滝を示す看板があります。が、この看板は無視してください! おそらく、八ヶ岳横断歩道ができる前のモノのようです。矢印の先は、どちらもリボンのマーキングもない笹の道。私は、ここで道を捜索して1時間も無駄にしてしまいました。
(左)小泉登山道の八ヶ岳神社の看板とともに現れる道標。(右)近づいてみるとこんな感じ。比較的、新しい看板のすぐ隣にあったので、ついこの看板を信じてしまった。左右どちらに行っても笹のなかのをさまようことになるのでご注意を!
正解は、ここから20mほど登るとぶつかる「八ヶ岳横断歩道」まで登ること! ただし、ここはYSTのマップでみると観音平と三味線滝の中間地点。観音平からは45分の地点になります。ショートカットしてしまったことになり、トレイルのルートを完歩したことにはなりません。すでに道迷いで1時間予定よりロスしていましたが、時間的なリスクは承知の上で、私は観音平に向かいました。
正解は、こちらの道標! 八ヶ岳神社から、たった20mほど登れば整備された八ヶ岳横断歩道と交差します。
観音平に着いたのは、午前9:15でした。三分一湧水からスタートして、すでに3時間30分も費やしてしまいましたが、山間部のスタート地点に着いてひと安心です。前日の天気予報では、昼過ぎから雨が降ることになっていたので、軽くひと休みして、すぐに出発しました。
(左上)観音平は、編笠岳、権現岳への登山道の入り口。車でアクセスでき、駐車場やトイレもあります。(右上)八ヶ岳横断歩道の入口。いざ、美し森へ!(左下)目標になるポイントとルートタイム(右下)わかりやすい看板に記載されているルートの省略図。
さて、やっとYSTの山間部のパートに突入です。八ヶ岳横断歩道は、非常に整備が行き届いて快適な歩道でした。観音平を出発して、先ほど歩いてきた道をまた戻り、三味線滝まで一気に向かいます。途中で長~い木製の階段があり、しばらく歩くと三味線滝に到着しました。緑豊かな森のなかの滝は、さわやかな水しぶきを上げて流れ落ちていました。ここで顔を洗って、気分を切り替えて先を急ぎます。
(左)木漏れ日の気持ちのいい歩道を歩きます。(右)三味線滝は、濃い緑のなかから爽やかな水しぶきを上げていました。
このあたりまでは、観音平から片道65分程度。木漏れ日も気持ちのいい歩道で、往復する人も多いようで、数名すれちがいました。この後は、この歩道のほぼ中間地点に位置する天女山をめざします。ルートマップには、つばめ岩、ツバクラ岩と続くのですが時間設定も長めです。実際に歩いてわかったのは、歩道と言うわりには、なかなかなアップダウンと熊笹の世界に挑みつつ、ひと気のないルートを黙々と歩くということでした。
見通しもよく、ルートも明瞭です。倒木もカットしてあるなど快適な歩道が続くのですが、蜘蛛の巣が多かったのが印象的でした。じつは、三味線滝以降、天の河原までひとりも会うことはありませんでした。中腹をひたすら歩くので、展望がある場所に出ることは皆無なのですが、途中で展望台と書かれた看板を2度ほどみかけました。先を急いだので、ルートを外れて展望台までは歩きませんでしたが、下山後に調べると景色がいい場所に出るようです。時間があるときには、ぜひ展望台までいってみたいものです。
実際、道標がいたるところにあり、それを見かけるたびに歩いている道があっていることの不安は解消されたのですが、万が一のエスケープルートが、どうなのか下山してから調べてみました。こちらで掲載されている「南八ヶ岳お中道 (八ヶ岳横断歩道 詳細地図 観音平~天女山)」に、ご本人が歩いて調べたと言うこのエリアの詳細マップが掲載されていますので参考にしていただければと思います。非常にわかりやすく、私は行くことができなかった展望台のことや、登山道近くのクルマの駐車スペースについても記載があります。(出典:ロッジ山旅)
(左)三味線滝とつばめ岩の間にあった丸太を細工したベンチ(右)ルート上の道標で、下山方面に向かった矢印「八ヶ岳高原ライン」をよく見かけた。これがエスケープルートで、地図上の破線にあたるルート。「八ヶ岳高原ライン」は、山間部に入る際に横断した山沿いに走る道路のこと。
ツバクラ岩から天の河原までのアップダウンも多く、少しさみしい4kmほどの道のりをひとりで歩いているとクマの恐怖もありました。気持ち的にも、体力的にも、このあたりは少々キツかったのですが、天の河原についた瞬間に一気に解放されました! とてもながめのいい場所で、この景色を楽しんでいる人が、たくさんいるではありませんか。それもそのはず、天女山もクルマで山頂までアクセスができる山なのです。駐車場から、15分ほど登った場所が、天の河原なのでした。
天の河原から少し下ると、駐車場にでます。歩く先には天女山山頂の看板があり、美し森への道標も方向を示しています。私が天女山の山頂付近にあるベンチに着いたのは、午後2:20になっていました。本来ならば、このまま甲斐大泉駅に下りてしまってもよかったのですが、雨も降っていなかったし、テントと食料も少し持っていたので、予定は変更せずに美し森に向かって突き進みました。
(左上)天の河原からみた、すばらしい景色。鬱蒼とした山間部を4時間行動した後の開放感はサイコー(右上)天女山への道標。雨予報のはずが、まったくもって快晴が嬉しい(左下)天女山の駐車場。このまま道路を降りると、甲斐大泉駅にアクセスできる(右下)天女山の道標。山頂の看板、ベンチ、トイレなどは、この先にある
山道から一旦道路を横切って歩き続けると、今度は牧場のフェンスに突き当たりました。ここからは、八ヶ岳牧場内のルートを歩きます。金網のフェンス沿いに歩くと、そのまま牧場の真ん中に突入して行きます。歩行者用につくられた1.5人ぶんくらいの幅で、両サイドが有刺鉄線の道が牧場の真ん中にあるだはないですか!とても見晴らしがよく、先ほどまでの森の中から一気に青空の下、草原を歩きます。まわりに牛は見当たりませんでしたが、山間部の方に放牧されている牛が見えます。しばらく歩くとその牛たちに自分がどんどん近づき、ついにはその側を通っていくことになりました。
牧場のなかを歩くルートは、初めての体験でした。気持ちいい!
牧場内を歩いているときも、何度か「八ヶ岳高原ライン」に出ることができるエスケープルートがありました。心地よく牧場内を歩いていましたが、じつはひとつ不安がありました。それは、ズバリ「水」です。このルートでは、山間部や牧場を抜けた後の道でも沢を横切ったりするのですが、飲料水を確保できる場所がありませんでした。持参した水筒と買ってきた500mlのペットボトルの水も、残りわずか。
そんな日も落ち始めた頃に、林道と羽衣池に向かう山道の分岐に到着しました。このまま羽衣池を経由して美し森に辿り着いたとしても、日がすっかり落ちた時間になってしまいそうだったので、残念ながら、ここでタイムオーバー。林道から美し森の駐車場に向かって林道を下山することにしました。
しばらく歩いていくと、林道の脇に美し森展望台へ向かう階段を見つけました。ここまでくれば、暗くなってからの行動でも問題なさそうだなという判断と、「せっかくここまできたんだから展望台に行こう」という思いが湧いてきて、足はだいぶ重かったのですが階段を一気に登ってみることにしました。階段の中腹で、今回のルートでは天の河原で少しみることができた開放感のある景色が見えてきました。階段を最後まで登り切ると美し森の展望台、つまり頂上に到着しました。
YSTのルートから少しショートカットしてしまいましたが、結果的には目標だった場所に到着することができました。展望台には売店もあったので、閉店間際に駆け込んでコーラを買いました。美しい景色を眺めながら、カラカラに乾いた喉に流し込んだコーラは格別な味わいだったのは言うまでもありません。
美し森の展望台に到着!
夕方の少しヒンヤリとした空気に、沈みかけた太陽の秋らしい優しい光と周りの山々や眼下に広がる濃い緑の森。そして、ここからは歩いてきた観音平の方まで、よく見渡せました。野辺山のパラボラアンテナも見えます。
夕日が沈む、ほんの少し前。今回のセクションハイクの最後にすばらしい景色をみることができました。
YSTのルート設定では、美し森の駐車場から森のなかの道を抜けて舗装道路に出ます。そのまま道路を歩き、清泉寮を経由して清里駅に向かうことになっています。ただ、今回は日も落ちてしまい、だいぶあたりも暗くなっていたのと、電車で都内の自宅に帰宅する予定だったので、このルートは諦めて、まっすぐ舗装道路を下って清里駅に向かうことにしました。
ルート変更して、帰りの電車に間に合うように、とにかく急いで駅に向かいました。
清里駅についたのは、日も落ちた午後6:00ちょうどでした。午後6:34発の小淵沢行きの小海線に乗り、小淵沢で特急に乗り換えて都内に向かった帰宅したのでした。
今回のセクションハイクでは、いろいろなことを学びました。まず、セクションハイクは手軽で楽しいと言うこと。登山のように一気にトライするしかないということがないので、スケジュールを立ててロングトレイルに挑戦することができます。
逆に学んだことも多かった。ルートの下調べは、すべてにおいて重要だと言うことを再認識しました。道迷いや水分補給、エスケープルートなど、セクションハイクだからといって気軽に考えていた自分が甘かったです。登山と同じく念入りな下調べが必要だなと、今後の教訓になりました。
南八ヶ岳らしい苔むす景色には出会えたが、給水できるような場所は、このルートの山間部ではなかったのでした。
また今後の対策としては、舗装道路を歩くことを考慮した装備や計画も必要かと思いました。アプローチはまだよいのですが、山間部を歩いた足に舗装道路は、足への衝撃もかなり応えました。しばらく歩くと徐々に慣れていきましたが、これを何度か繰り返すには、荷物の軽量化やシューズのチョイスなど、いろいろ対策すべきことが必要だなと思いました。
舗装道路と山道、どちらも歩く場合は、やはり登山靴よりもトレランシューズのようなタイプのシューズが快適でした。
このYSTや、その他の国内のロングトレイルでも山間部と舗装道路のミックスされたルートを歩くことは、必須となってきます。スルーハイクをするにしろ、セクションハイクをするにしろ、このへんのことも考慮した歩き方や荷物対策が今後のセクションハイクを楽しむポイントになるなと実感したのでした。
ロングトレイルは、いろんな挑戦の仕方があります。興味がある人は、ぜひとも国内のどのロングトレイルに行くか目星をつけ、まずはセクションハイクからトライしてみるのはいかがでしょう? 関東近県のみなさん、アクセスしやすい八ヶ岳山麓スーパートレイル、オススメですよ〜。
南八ヶ岳エリアには、天女山や羽衣池など、日本の神話に由来する地名が多かったのも印象的でした。