- カルチャー
謹賀新年 アウトドアから世界が動く
2020.01.01 Wed
滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負
世界を100万分の1インチほどは動かすことができたかもしれない、と言ったのはアメリカを代表する詩人、ゲーリー・スナイダーだ。スナイダーは1950年代、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグらと親交を結び、ビートジェネレーションの一翼を担い、閉塞感に満ちた当時のアメリカ社会に風穴を開けた。
そのいっぽうで、バイオリージョナリズム(生態地域主義)を提唱し、環境保護活動にも積極的に関わるアクティビストでもある。若いころからシエラネバダの山々を歩き、世界を旅したゲーリーは、まさにアウトドアカルチャーの精神的支柱といってもいい。
アウトドアに追い風なんて吹いてない
新年早々、水を差すようで恐縮ですが、昨年12月、東京国際フォーラムで行なわれたアウトドア・イノベーション・サミット2019(以下OIS)に登壇したシーカヤックガイドの新谷暁生さんが、ふと漏らした言葉が忘れられません。
新谷さんは、毎年、知床半島をシーカヤックで回ることで気づいた知床の自然の変化や、ニセコの積雪や雪崩に影響する気圧配置など気象の変化について、リアルな危機感を感じていました。
日本のアウトドア市場は、昨年4400億円を超え、空前のアウトドアブームともいわれているようです。キャンプを中心とした新たなアウトドアの楽しみ方が多様化し、異業種の参入をはじめ、自治体や行政などもアウトドアコンテンツに注目しています。
しかし、新谷さんのように、実際にフィールドに出ている人から見ると、日本のアウトドアを取り巻く環境はかなりシリアスな状況です。追い風よりもむしろ逆風が吹き始めているのかもしれません。
昨年、日本は未曾有の台風被害に幾度となく見舞われました。温暖化をはじめとする気候変動は、日常生活はもとより、アウトドア業界が基盤とするフィールドやアクティビティ、イベント、ツアーの催行中止など、さまざまな影響を及ぼしています。
とくに日本は昨年、気候変動による経済的損失が世界的に最も高い国だったにもかかわらず、リーダーシップを期待されたCOP25(第25回国連気候変動枠組条約国会議)では、なんの役割も果たすことができなかったのは報道の通りです。
奇しくもCOP25と同日に行なわれていたOISでは、『今地球で起きている気候変動をアウトドアの視点から考える』と題したパネルディスカッションを開催。トレイルランナーの石川弘樹さん、Protect Our Winters Japan (POW)の代表理事を務める小松吾郎さん、そして、気象予報士であり、防災士でもある正木明さんを迎え、気候変動による日本のアウトドアフィールドの変化や今後の影響、そして、アウトドアを持続的に楽しむためのアクションなどについて、活発な意見交換が行なわれました。
死んだ地球でビジネスはできない
その翌日、コンサベーション・アライアンス・ジャパン(CAJ)の招きで来日した、ヨーロピアン・アウトドア・グループ(EOG)の代表を務めるマーク・ヘルド氏との勉強会に出席すると、
「環境問題こそアウトドア産業界が社会へ強く働きかけていかなければならないことであり、単に製品を売るだけの企業やブランドであってはならない。これからは、企業の自然環境に対する考えやポリシーの正統性をカスタマーから求められる時代が来る。日本のアウトドア産業界がひとつになり、共通の価値観を共有し、自然に恩恵を返していかなければならない」
との貴重な提言をいただき、アキママでも、これを年頭の決意とすることにします。
みなさま本年もよろしくお願いします。