- カルチャー
オタク(ほめ言葉)の知と汗が滲んだ、アウトドア系同人誌のススメ
2020.05.03 Sun
鈴木純平 ライター、編集者、同人作家
日本全国、いや世界全土で辛抱のときがはじまり、イベント中止、外出自粛でフラストレーションが溜まっているアウトドア派のみなさん。お気持ち痛いほどお察しします。せっかくいい季節なのにもったいないなぁと日々嘆いておられることでしょうが、じつはインドア派の多くも同様に落ち込んでいるんです。
なぜなら、東京オリンピック開催の影響により、イレギュラーでGWに開催が予定されていた「コミックマーケット」が中止になってしまったから。
コミックマーケット、通称コミケのことはオタクでなくてもニュースなどで耳にして知っている人も多いでしょう。あのイベントはコスプレで注目を浴びがちですが、同人誌の即売がメインなのです。つまり、素人(玄人もいますが)が描いた(もしくは書いた)自費出版物や、その他DVDや諸々を売買できる場ということですね。
そもそも同人誌って?
同人誌と聞いて多くの人は、既存のアニメやマンガのキャラクターを使って、ロ
マンティック(とてもいいオブラート)なことをさせたりするマンガ、いわゆる二次創作を想像するでしょう。それで大まかには正解なのですが、正しくは、ある特定のものを趣向する人の集まり(=同人)、サークル、個人でつくる雑誌のこと。ZINEやミニコミ誌のようなものですね。
たしかにアニメ・マンガ・ゲームなどの二次創作が同人誌の大半ですが、その幅
広い種類のなかには「評論・情報」と呼ばれる趣味の雑誌、ムックのジャンルがあるんです。たとえばミリタリーであったり、電車、旅行、料理、カメラ、自転車などなど、あらゆる趣味の本がたくさんあるんです。各界のオタクによるオタクのための本、コレがとにかくニッチでおもしろいんです!
アウトドア同人誌はじめの一歩 3選
ようやく本題ですが、そんな評論系同人誌のなかにはアウトドアを愛する同人サークルさんもおり、さまざまな同人誌が日々生み出されています。今回は、みなさんに評論系同人誌を知って頂き、そして奥深いこの世界に飛び込んでもらうのに最適な、3つのオススメ同人誌をセレクトしました。これらはコミケがなくても同人誌委託書店で購入できるので、自粛期間中にお家で同人誌を楽しみましょう!
(※基本的に同人誌は一刷で売り切りの場合が多いので絶版注意)
1、ヤマノススメ シリーズ
サークル名:whitepaper / 作家:しろ
アニメ化もされたので、Akimama読者には知られているであろう「ヤマノススメ」。著者のしろさんは商業マンガ家でもあり、コミック アース・スターでヤマノススメのマンガも描かれていますが、この作品の原点は同人誌にあります。
今回、ヤマノススメ “シリーズ” として紹介しているのは、しろさん自身が山登りが好きで、ヤマノススメ以外にも別名で山関連の同人誌をつくっているからです。
同シリーズは、しろさんの描くやわらかいタッチの女の子のイラストと、写真、マンガ、各山の特徴などの情報から構成されています。シリーズ一作目の『ヤマノススメ 雲の上の世界の歩き方』は、山登りの楽しさを優しい文章とイラストと共に伝え、名峰や装備の紹介をしている入門書的一冊です。
アース・スターで連載されているマンガはひと続きのストーリーですが、同人誌のマンガは毎回フォーカスした山ごとに読み切りの形で載っています。それぞれにちがった良さがありますが、同人誌版のマンガは詩的で情緒的、かわいいイラストと相まってじっくりと味わいながら読むことができますよ!
ちなみにヤマノススメ以前から出されているタビノススメもオススメ!
<COMIC ZINの通販ページ>
2、私的標本 捕まえて食べる話
サークル:私的標本 / 作家:玉置標本
評論同人誌界では “製麺機のサークル” として超有名な “私的標本” が、最初に出した同人誌。タイトル通り捕まえて食べる話を綴った文字ベースの本で、のちにこれを元にした商業誌も発行されました。とにかく変なものを捕まえては料理をして食べていく、その企画自体もおもしろいのですが、なにより著者のユーモラスな文章が秀逸なのです。
目次からいくつか企画を紹介すると「干潟にてアナジャコを筆で釣って食べたい」、「サメが釣れたからフカヒレの姿煮にして食べたい」、「ヤツメウナギを捕まえて食べたい」、「富山湾のホタルイカを掬って食べたい」、「世界で二番目に臭い料理、ホンオフェをつくって食べたい」など。いまはヤツメウナギは獲らないほうがいいけれど(同取材は2006年とのこと)、捕獲法や料理の仕方など、学べる知識が詰め込まれています。
“薄い本” とは同人誌を指す隠語であり、同人誌は20〜30ページほどであることが多いのですが、同書は112ページとボリューム満点。筆者の捕まえて食べる活動は続いており、2019年末には続編の『捕まえて食べたい』も発刊されています。
昭和の鋳物製麺機専門雑誌「趣味の製麺」シリーズも必見。
<購入先の案内リンクページ>
3、シェラカップの同人誌
サークル:moetion / 作家:若気ノイタリー、おだし
評論系同人誌はしばしば「大人の自由研究」と形容されることがあります。“moetion” は、ある一定のジャンルにとらわれず、その時ごとに興味のあることを掘り下げる同人サークル。過去にはTシャツ、ファスナーなどの服飾系や、栃尾のあぶらあげ、山形のだしなどの食べ物系、海外の衣料用洗剤の同人誌などを世に送り出してきました。
これは読んで字の如く、シェラカップの情報だけで構成された56ページのシェラカップの同人誌。歴史や形状、用途などの基礎知識からはじまり、さまざまなブランドのレビューや、シェラカップを使った料理、レアなカップの紹介など、初心者でも理解しやすいようにまとめられています。
評論系同人誌の魅力は、セールスを度外視して好きなことを突き詰めている所。そこが商業誌との大きなちがいです。シェラカップみたいな一見語りどころのないアイテムを、いったいどこのアウトドア雑誌がページを割いて徹底紹介するでしょうか? これこそキャンプオタクに読んで頂きたい一冊です。
YouTubeにはこの同人誌の紹介と貴重なシェラカップの解説動画も上がってました。
常に新しい畑を耕していく、同サークルの今後にも注目。
<COMIC ZINの通販ページ>
終わりに
あなたの知らない同人誌の世界、いかがでしたでしょうか? 今回はメジャーどころの氷山の一角的な紹介になってしまいましたが、もちろんほかにもおもしろい同人誌は星の数ほどありますし、同人誌の魅力はオタクの情熱を感じる所にあります。
なので次回は、マイナーなアウトドア系同人誌を紹介できればと思います!
あ、ここまで書いておいてなんですが、最後のサークルは筆者鈴木のサークルです(笑)。同人誌に魅せられて編集者になった男の、あつい思いが届きましたら幸いです。