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ステイホームで楽しむアウトドア系同人誌のススメ【電子版】
2020.05.28 Thu
鈴木純平 ライター、編集者、同人作家
前回書いた「オタク(ほめ言葉)の知と汗が滲んだ、アウトドア系同人誌のススメ」という記事にて、アウトドア系同人誌とはなんたるかをご紹介させていただきましたライターの鈴木です。
編集部に少し反響を伺ったところ、これを機に評論・情報ジャンルの同人誌を知られた人もいらっしゃったとのことなので、記事を書いた甲斐があったと安心しました。
その際は、アウトドア系同人誌の守備範囲の広さを知っていただきたく、登山、ハンティング(釣り)、キャンプという3つの切り口で僕のお気に入りを紹介させていただきました。それらは評論・情報ジャンルの同人誌を10年ほど追ってきた僕のコレクションから選んだもので、紹介したなかには絶版になっていたものもあったのですが、そのためAkimama読者さまから「いま買えるものを紹介してほしい」というご意見も頂戴しておりました。
ですので今回はそんなご希望にお答えして、絶版になっていない、そして今後も絶版になりにくいであろうダウンロード版の同人誌をご紹介させていただきます!
紙じゃない同人誌のメリット
同人誌の世界も少しずつIT化が進んでいます。同人誌即売会でのキャッシュレス決済を導入するサークルがあったり、コミックマーケットのWebカタログなんかもそうですね。そもそもボーカロイドやVR、ゲームなどを見てもオタクカルチャーはITとの親和性がいいものでもあるので、必然といえば必然なのですが、いまでは同人誌もデータで買えるようになりました。
DL販売におけるメリットは
① 買ってすぐ読める。
② PC、タブレット、スマホなどの端末さえあればいつでも読める。
③ 収納場所をとらない。
④ 価格が冊子版に比べて安い。
⑤ サークルによっては絶版になったものをDL販売している。
などがあげられるでしょう。
これらは販売するサークル側からしても気軽に登録できて、在庫管理をする必要がないので、これからますますDL販売は増えていくことが予想されます。
同人誌を探したいという人のためにいくつか大手のサービスをご紹介しておきます。
・BOOTH
イラストコミュニティサービス「pixiv」が運営する通販サービス。同人誌やグッズなどオタクカルチャー全般の創作物の販売サイトで、サークルによってはDL販売を行なっているところも。ちなみにDL形式はPDFやJPEG。購入後にダウンロードするか、webブラウザで閲覧することができるのでデバイスを問わないのが特徴。
・DLsite
国内最大手の同人アイテムのダウンロードサービス。同人ゲームや成人向けの同人誌がメインストリームではありますが、評論・情報ジャンルの登録も多少あります。アウトドア系に限ると少なめです。DL形式はPDF。webブラウザやDLsiteのビューワーでの閲覧も可能。
・AmazonKindleストア
まだまだ同人誌の登録は少なめですが、商業誌のみならずミニコミやマンガ系ではポピュラーになりつつあるKindleストア。メリットはなんと言ってもKindleやKindleアプリで閲覧できるので、ブックマークやマーキングなどができる点です。
その他、「とらのあな」「メロンブックス」でも評論・情報ジャンルの電子書籍の販売をしていますが、アウトドア系はいまのところ少ないようです。それでは実際にDL販売されているアウトドア系同人誌をご紹介しましょう!
1、お一人様グランピング データサイエンティストによるケーススタディ
テントの選択および暖房の理論と危険の予測
サークル名:お台場計算尺 / 作家:富永大介
かわいらしいイラストとワンポールテントの写真が描かれたこちらの一冊。「お一人様グランピング」というタイトルが楽しそうな内容を想像させますが、「テントの選択および暖房の理論と危険の予測」という副題にこの本の核が隠されています。
なんだか難しそうかも? そう思いつつページをめくっていくと、わかりやすい挿絵とともにグランピングに適したテント選びについてであったり、著者が購入したノルディスクのアスガルド7.1の紹介が続きます。ちなみにアスガルドはドイツから個人輸入したもので、その経緯や費用、関税の計算方法のことも書かれていて、購入を考えている人の参考にもなりそう。
ふむふむと読み進めて本の半ばに差し掛かると、突如理解に苦しむ数式が並びはじめます。そう、これこそがこの同人誌のメインパート。テント内でストーブを使ったときの酸素濃度の変化や一酸化炭素・二酸化炭素中毒に至るまでの時間などを、著者が試算して示してくれているのです。そしてこのデータをもとに、どのように換気をするのがいいか、どこにストーブを設置するのがいいかなどを、論理立てて解説してくれます。
一般に売られているアウトドア雑誌がやらなさそうなマニアックな内容で、魅力的ですね。奥付によると、著者は産業技術総合研究所の研究者であるらしいです。通りで……。
<BOOTHの販売ページ>
2、山呑み燕岳
サークル名:山呑み / 作家:おねるん
こちらは、一次創作(アニメやマンガなどの元ネタをもつ二次創作ではないもの。つまりオリジナル作品)のみの同人誌即売会コミティアにて頒布され、BOOTHにてDL販売されている一冊。
評論・情報ジャンルの同人誌は雑誌や書籍のようなスタイルの本だけでなく、画力を生かしたマンガスタイルの本もあります。こちらの「山呑み」は、登山好きな女性が北アルプスの燕岳(つばくろだけ)に登って、そして酒を呑むというタイトル通りのマンガです。
主人公が登山をするなかで食べる山小屋名物や、コッヘルでつくるおつまみ。それをおいしそうに食べる主人公。23ページという多くないページ数のなかでも大胆なコマ割りがされていて、読み手を引きつけます。
巻末には登山ないない、もとい登山あるあるをコミカルに描いた四コママンガも。読んでいたら夏の燕岳に登りたくなってきました!
<BOOTHの販売ページ>
3、キャンプがしたい
サークル名:かまぼこ定食 / 作家:ぱらぺ
ホンワカかわいいイラストと文章で構成された全12ページの同人誌。表紙にある「ホームセンターからはじめるキャンプ」のキャッチコピー通り、初心者に向けた敷居の低いキャンプ入門書となっています。
アウトドア雑誌には高価で最新のギアが並ぶことが多いですが、この本に書かれている通り、ホームセンターにあるような安価なものではじめて、まずはキャンプの楽しさを知ってもらうことも重要。『ゆるキャン△』をきっかけにキャンプをはじめたアニメ好きが多いというのは、聖地巡礼をしたがるオタクの特性とマッチしたことも大きいですが、キャンプのハードルを下げてくれたことにあるのでしょう。
道具のカテゴリーごとに、ホームセンターでの道具選びや著者の体験をもとにしたおすすめなどが書かれています。また、バイクで行くキャンプツーリングを推していて、僕もキャンプをはじめたころを思い出してノスタルジーに浸りました(誰も聞いてない)。奥付を読むと、どうやら『アイカツ!』のオンリーイベント合わせで頒布されたそうです。そういうチャレンジ精神にも拍手を送りたいです。
電子同人誌の可能性
さて、今回はいかがだったでしょうか? ダウンロード版でも興味深い同人誌を手軽に読めることがわかっていただけましたか? とは言っても、じつはどちらの作品も紙版がある(あった)ものです。電子版の現状は、いわば同人誌の副産物としてあるにすぎません。
同人誌のような内容のものは正直ブログでも発表できたりしますが、なぜか同人作家のみなさんは同人誌という媒体を好みます。手に取れる形として残したい。デザインをこだわりたい。イラストを載せたい。リアルを感じたい。即売会で手売りしたい。コレクションしてもらいたい……。人によってさまざまな理由はありますが、なぜかこの界隈の人たちは紙が好きだったりします。
コレクター心をくすぐる紙の同人誌と、手軽に、比較的安価に楽しめる電子書籍版。今後どちらが読者に好まれるかはわかりませんが、ITにより同人誌ファンの選択肢は増え、おなじ同人誌でもさまざまな楽しみ方ができるようになってくるのは確かです。
個人的に紙の同人誌が大好きですが、同人サークルのみなさんには絶版になってしまった本を中心に、どんどんDLサイトに作品をアップして欲しいですね。DLをすれば、通販で何日も待ったり、お店に行ったり、即売会に行くという手間も省けます。そして環境にも優しいですしね!