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【INTERVIEW ローカルな人】脇 光範 ── ホールフードで日本の食事をおもしろくしたい
2020.07.01 Wed
壽榮松孝介 インタープリター
日本各地のローカルを舞台に、「アウトドア×α」の新たな領域にチャレンジする人々を紹介するシリーズ【INTERVIEW ローカルな人】。今回紹介するのは、日常とは切り離すことのできない「食」に対し、エナジーバーを通して、世の中への新しい提案を発信する脇 光範(わき みつのり)さん。日常的にトレイルランニングをたしなみ、生業としてナチュラルフードブランドを経営される脇さんの活動と想いに触れてみました。
「食事って、もっとワクワクしていいものなんじゃないかって思うんです」
そう語るのは、ナチュラルフードブランド「NATURE THING(ネイチャーシング)」を立ち上げ、ハンドメイドエナジーバーの生産、販売を中心に、さまざまな活動に取り組む脇 光範さん。「Whole Food for Whole People!(ホールフードをすべての人に!)」をスローガンに掲げ、「Classic Organics」代表として、静岡県浜松市に拠点をおいて活動している。
海・山・川を楽しめる拠点で活動する脇さん。
100%自然素材だけを使用し、砂糖・保存料・着色料・香料等は一切使用しない、完全無添加のエナジーバーは、脇さん自身の実体験に基づいてつくられたものだそう。
NATURE THINGで定番のエナジーバー4種。アスリートに必要な栄養素を含んだ「ADVENTURE」、日本人に不足しがちな栄養素が補給でき日々の食生活を整える助けになる「EVERYDAY LIFE」、味噌という伝統の素材を現代のライフスタイルに昇華させた「CLASSIC」、レモンの爽やかさとカルダモンの華やかな香りで癒やされる「RETREAT」。
「30歳を過ぎたくらいに妻が海外で暮らしてみたいって言い出して。じゃあいっしょに行くか、っていうことで、何も考えずに仕事を辞めて、一年間オーストラリアへ行くことにしたんです」
ひょんなことから暮らしの拠点を海外に移すことに。オーストラリアで、日本とは異なる食の在り方に触れたという。
「オーストラリアは食の選択肢がすごく多く、スーパーに行けば、無添加、オーガニックの商品が充実していました。日本ってそういう食品は何倍もお金を出さないと買えないじゃないですか。でも、オーストラリアでは手軽に買えるものが多かったですね」
1年間過ごしたというオーストラリア・メルボルンの風景。
「もともとコーヒーが好きだったので、現地では家から離れたローカルのコーヒーショップでバリスタとして働いていました。いつも朝はやく家を出ないといけなかったから、朝ごはんは通勤中の電車やトラムで済ませることが多かったです」
朝食は時間がないなか移動中に、という環境でも持ち続けた「食については妥協したくない」という気持ちが、エナジーバーとの出会いを生んだ。
「サクッと、でもしっかり食べられるエナジーバーをよく食べていました。当時、日本では山の行動食として売られているものしかなかったんだけど、オーストラリアでは、甘いもの、食べ飽きないもの、安いもの、無添加のもの、棚一面エナジーバーが並んでるんです。スーパーに行くたびに買い込んで、妻とふたり、忙しい日々でも、充実した食生活を楽しんでいました」
夫婦でよく利用していたスーパーのエナジーバーコーナー。日本のアウトドア用品店では同程度の品揃えを見かけるが、スーパーではなかなかお目にかかれない。「CLIF」は日本でもおなじみ。
充実した食生活=時間をかけてイチからつくる手料理。そんなイメージを覆すように、脇さんはニコニコと、楽しそうに当時を振り返る。そんな楽しいオーストラリアでの日々が、その後の脇さんの仕事の在り方まで変えるキッカケになったという。
「帰国が迫り、日本に帰ったらどうしようかっていう話を妻としていて。そのころには夫婦とも、すっかりエナジーバーが日常的な食べ物として根付いてたんですけど、日本に帰ったら食べたいものが売ってなくて困るなぁと。じゃあ自分たちでつくるか、ってことになったんです」
ヘンププロテインパウダーをベースに、スーパーフードなどをブレンドした、バランスプロテインパウダー。
日本には当時、エナジーバーの種類が少なく、食品メーカーで働いた経験もあった脇さんは、帰国後、ビジネスとしてエナジーバーの製造に踏み切った。その裏側には単に「食べ物をつくる」だけではない、想いとこだわりがある。
「エナジーバーをつくるときに、そのモノを通してぼくは何を伝えたいのかって考えたんです。エナジーバーはぼくにとってのメディアみたいなものだと思っていたので」
2020年春、メディアとしての伝えたいメッセージを見直し、リブランディングされた”NATURE THING”。
エナジーバーを通して脇さんが伝えたいこととは、なんなのだろうか。
「ぼくは、食生活をいまいちど見直そうよ、考えようよ、っていうことを伝えたいんです。“グルメ” っていう言葉があるじゃないですか。あれは、一般的にはおいしい食べものを知っている人とか、味覚の鋭さを持った人を指すと思うんですけど、ぼくは、大事なのはそこじゃないと思うんですよね」
食に対する熱い想いを、脇さんはあふれるように話す。
「おいしいとか、おいしくないっていうことだけじゃなくて、その食べ物が、どこで、どんな想いを持った人につくられて、どういう経路を通って、どうやって売られているか。それを食べることで、自分の体に、社会にとってどんな影響があるのか。それを知っている、もしくは知ろうとしている人こそが、食通だと思うんです」
砂糖・保存料・着色料・香料等は一切使用せず、完全無添加、自然素材だけでつくられたエナジーバー。
味だけでなく、食べ物のバックグラウンドを知ること、知ろうとすることが重要だという。脇さんは、本の出版でも、講演会での発表でもなく、なぜエナジーバーというメディアを選んだのか。
「ぼくは、食のことを誰かに “教えたい” っていう感覚はあんまりなくて。正しいことを知っていればそれでいいというわけでもないと思っています。自分が知っていることとか、正しいと信じてることを、楽しさとか、おもしろさとか、おいしさに変換して伝えたいなと考えています」
「啓蒙家として活動したいわけではなく、もっと日本の食事をおもしろくて、ワクワクするものに変えたいなと思っているんです」
NATURE THINGの商品の一部は、地域の社会福祉法人へ製造委託されている。ホームページには大々的に掲載されていないが、「食を通じて社会の役に立ちたくて、一つずつ取り組めることに取り組んでいきたいと思っています」と、脇さんは話す。
社会福祉法人での “NATURE THING” 製造シーン。ひとつひとつていねいに手づくりしている。
「NATURE THINGをメディアとして、啓蒙的ではないかたちで、正しいと信じていることを楽しさ、おもしろさ、おいしさに変換して伝えたい」
建前としての言葉ではなく、行動をともなった想いを持って活動していることがよく実感できる。
舌で味わうだけでなく、一本のバーに込められた脇さんの熱量とメッセージを、ぜひ丸ごと楽しんでいただきたい。
NATURE THINGのホームページ
http://classicorganics.net/
NATURE THINGのオンラインストア
https://naturething.stores.jp/