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【INTERVIEW ローカルな人】沖中大志 ── やりたいことを小さく続けていけるキャンプ場に

2020.08.19 Wed

壽榮松孝介 インタープリター

 日本各地のローカルを舞台に、「アウトドア×α」の新たな領域にチャレンジする人々を紹介するシリーズ【INTERVIEW ローカルな人】。今回は岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷でキャンプ場を営む「合同会社ヒトハリ」代表の沖中大志(おきなか たいし)さんを紹介します。「好きなこと」の延長でありながら、暮らしを支える生業としてキャンプ場を運営する沖中さんに話を伺いました。


 自然の一部と化していく施設の維持管理、広大な敷地の草刈り、壊れやすい備品の管理、天候によって予定が変わりうる利用者の予約管理。

 アウトドア好きならいちどは憧れるであろうキャンプ場の運営には、憧れとは裏腹に、多大な労力を要することが想像できるが、沖中さんは「小さくはじめて小さく続ける」というスタイルで、一日一組限定のキャンプ場 “ヒトハリ” を運営している。

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨日常的な遊びの延長として、ときどき山や川へ足を運ぶという沖中さん。

 家族が経営する旅館の裏庭を利用したミニマムなキャンプ場であり、キャンプの合間に旅館の温泉を利用できること、キレイなトイレが使えることから、アウトドアに不慣れな人でも気軽に自然を楽しむことのできる空間だ。

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨完全なプライベートで、周りを気にせずに楽しむことができるキャンプサイト。

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨奥飛騨温泉郷の温泉を楽しみながらキャンプができるという、なんとも嬉しいサービス。

 沖中さんが奥飛騨で活動をスタートしたのは3年前。それまでは東京都内の会社に勤めていたが、働き方と暮らしを見直したいと考え、地元へ帰り、家業である旅館を手伝うことに。「ゆっくり考える時間が欲しかった」という理由で、食べていけるだけの収入を得られる働き方を選んだ。

「収入は一気に下がったけど、ごはんはおいしくて、四季を感じられて、夜は星がキレイで。飛騨での暮らしは充実していましたね」

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨キャンプサイトから車で10分の星空。沖中さんみずから撮影したという。

 豊かな暮らしに反して、自宅のそばには日常的に遊ぶことのできる場所が少なく、どこへ行くにも時間とお金がかかってしまうことが悩みだったという。そんなとき「せっかくならここでしかできない遊びがしたい」と考えた沖中さんは、仕事終わりに旅館の裏庭へ足を運び、お酒を飲みながら焚き火を囲む、という遊びと出会った。この裏庭は、もともと砂利敷きの駐車場で、お父さんが趣味で木や山野草を植えて緑あふれる場所になったのだとか。仲間や県外から奥飛騨に働きに来ている人たちにも声をかけ、仕事終わりにキャンプを楽しんだという。

 ある日、いつものように後輩と火を囲みながらお酒を飲んでいるとき、「これ仕事にしちゃえばいいんじゃない?」と、盛り上がったことがキッカケとなり、キャンプ場 “ヒトハリ” がはじまった。

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨新緑が輝く裏庭。紅葉や雪景色も楽しむことができ、四季の移ろいを感じられるという。

「日常の延長で仕事ができたらおもしろいなと思ったんです。自分たちのこだわりとか、好きだなっていう感覚を無理に曲げずに、自分たちが心地いい場所であることを大切したいと考えています」

 自分たちが楽しめる環境を大切にすることで、自分たちと近い感覚をもった人が訪れてくれて、仕事でありながらも嬉しい出会いが増える。そしてより楽しい場所になっていく。そんな循環を回したかったと、沖中さんは話す。

「お客さんに声をかけてもらって、いっしょに焚き火を囲んだり、お酒を飲むこともたまにあります。ぼくのほうが楽しんじゃってるんじゃないか、みたいなときもあったりして、随分ふざけたキャンプ場ですよね。でも、単なる場所貸しにはしたくないなと思っているんです」

 場所とお金の交換だけでなく、人との繋がりを感じたり、旅先での出会いを楽しめる空間にしたかったという。「自分も楽しめて、お客さんも楽しめる場所にしたい」という考えは一貫している。

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨キャンプサイトのとある夜の様子。毎年利用してくれる常連のキャンパーもいるのだとか。

 ゆるい動機で、ゆるくキャンプ場を運営する沖中さんは「小さいキャンプ場だから、旅館運営の昼休みに準備と片付けができて、苦なく続けられる」という。肩肘張らないその姿勢は、地域との関わり方にも反映されているようだ。

「飛騨に帰ってきた当初は、地域の役に立ちたい、とか、地域を変えたい、みたいなことを考えていました。でも、自分でキャンプ場を運営するなかで、そんなこと自分ひとりの力じゃ無理だって気付いたんです。できもしないのにそういうこと言っちゃだめだなって思いましたし、そもそも地域の人は別に困ってもいなかったんですよね」

「地域活性」という言葉をよく耳にするが、それ自体が目的ではないと、沖中さんは話す。

「地域をどうにかしたいっていう動機は、なにかをはじめるキッカケとして、先に来ちゃいけないとすらぼくは思っていて。自分が楽しいからやる、それで地域の人たちも喜んでくれる。僕はそうありたいですね」

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨奥飛騨の風景。奥には北アルプスの山々が高くそびえる。

 生業としてキャンプ場を地域で営むなかで、「自分も楽しく」という考えは、より強固なものになったのだとか。

「はじめること以上に、続けることってすごく大変なんですよね。だから、自分が無理せず働けて、楽しんで続けられることがいちばん大事だと思っています。規模を大きくしたいとは思わないし、毎日誰かが来てくれて、365日休みなし、ということも望んでいないです」

 好きなことを、仕事として楽しみ続けるためにも、お金を稼ぐことが第一の目的にはしたくなかった。

「むしろ物理的には小さくしていきたいと思っていて。キャンプ場だけで食っていこう、なんていうことも思わないですね。小さくはじめて、小さく続ける、そんなキャンプ場でありたいと思っています」

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨思い立って、今年はブランコを自作したという。ときにひとりでのんびり。

 “小さくはじめる” だけでなく “小さく続ける”。手の届く範囲で、なにかトラブルがあっても手直ししながら、楽しく続けていくスタイル。先が見通せないいまの時代に合ったかたちかもしれない。

「今日は、家の近くで山菜を採ってペペロンチーノをつくってみたんです。これがおいしくて。みんなで採りに行って、おいしく食べられたら、すごく楽しいじゃないですか? やってみたいんですよね、そういうの」

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨コロナ禍の最中には、料理の研究にも力を入れたという。

「最近は利酒師(ききざけし)の資格なんかも取ったり、キャンプのときに着れる白シャツをつくったりもしていて。来てくれる人のためっていうよりは、自分として興味あったからやっているだけなんですけどね。これからも自分が楽しいと思えることを続けて、それをおもしろがってくれる人が増えてくれたら、嬉しいですね」

合同会社ヒトハリ 沖中大志 おきなか たいし キャンプ場 奥飛騨自身でデザインしたプルオーバーシャツを着る沖中さん。アウトドアの使用にも耐えられる丈夫さで、袖を通すたびに気分が高まるような一枚を身につけていたいと思ったのが、製作のキッカケだったそう。

 少年のように笑いながら話す沖中さんとのやりとりは、なんとも言えず心地いい時間だった。 “ヒトハリ” でいちど、いっしょに焚き火を囲んだときのように、自由で、なにも強要されず、ポツポツと言葉を交わすだけでいい、緩やかな時間。

 こんなご時世だからこそ、リアルな感覚でしか楽しめない時間を、ぜひ体感してもらいたい。

ヒトハリのホームページ
http://hitohari.jp/

ヒトハリのオンラインショップ
https://hitohari.base.ec/

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