- カルチャー
権力に屈しない精神 パタゴニアが今季の製品に込めたメッセージ
2020.10.02 Fri
Taishi Takahashi フォトグラファー
自分が正しいと思ったことをストレートに人に伝えるのは難しい。そこには、さまざまな思惑や人間関係、権力構造などがあって、思っていても言えないことの方が多い。だからこそ、自分の信念を貫くという姿勢は共感を呼ぶ。
今季のパタゴニア製品にロード・トゥ・リジェネラティブ・スタンドアップ・ショーツがある。このショーツのタグ裏をヒョイとめくると出てくる、あるメッセージが話題になっている。SNS上でもさかんにやりとりされていたので、目にした人も多いのではないだろうか。このメッセージの真意や背景にあるストーリーについて書いてみたい。
“VOTE ASSHOLES OUT(投票してクソッタレを叩き出せ)”
タグ裏にはそう掲げられている。SNS全盛のご時世にこういう写真を見ると、フェイクニュースの可能性や企業の策動を探りたくなるのが心情だが、そこにあるのは、パタゴニアの環境危機の緊急性やアクティビズムに対する真摯な姿勢だ。
コロナ禍の状況で迎えた今年の4月22日のアースデイ、パタゴニア社の創設者、イヴォン・シュイナード自身が共同創設者を務める1% for the Planet(地球環境保護の必要性に賛同する企業団体)のコミュニティ宛に送ったレターにも、同じワードが登場する。
そのレターの冒頭にはこうある。
「1% for the Planetのコミュニティの皆様へ」
“私はアースデーを祝ったことがありません。私はいつも感じていました。そのたった一日への注目のすべては、日々地球のために行動する必要性から私たちの気をそらすと。
それにしてもいまは異常な時間です。この世界的な大流行ははっきりと示しているのは、私たちがやらなくてはならないことをはぐらかしていると結局は私たちが痛い目に合う、ということです。私たちは世界的大流行が起こるのは以前から知っていました。そして何もしませんでした。私たちは地球温暖化について何十年も知っていました。そして何もしませんでした。私たちが選択しなければならないのは、行動することです。”
Dear 1% for the Planet community,
“I’ve never celebrated Earth Day. I’ve always felt that all of that attention on just one day distracts us from the need to be taking action for the planet every day.
But these are extraordinary times. This pandemic is showing us clearly that if we put off what needs to be done, it ends up coming back to bite us. We’ve known for a long time that there would be a global pandemic, and we’ve done nothing. We’ve known for decades about global warming, and we’ve done nothing. We’ve got to choose to act.“
そして、最後に行動することを呼びかける。
追伸:ろくでなしどもを投票で辞職させるのを忘れないでください。気候変動について何もすべきではない、と信じているすべての政治家たちです。地球のために投票し、何もしない人たちに反対してください。私たちには力があります。いまこそそれを使うときです。
P.S. Remember, vote the assholes out—all of those politicians who don't believe we should do anything about climate change. Vote for the planet and against those who would do nothing. We have the power and now is the time to use it.
出典引用:
シュイナード氏やパタゴニア社の言葉には常に行動が伴う。同社はトランプ政権が、ユタ州にあるベアーズ・イヤーズ(Bears Ears National Monument)ほか、合計2ヶ所のナショナル・モニュメント(国定記念物)指定保護地域を大幅に縮小するとの決定をめぐり、“The President Stole Your Land (大統領があなたの土地を盗んだ)“と厳しく批判し、自社サイトにメッセージを掲載したほか、テレビ、ラジオ広告を流し、大統領相手に裁判まで起こした。テレビ広告をパタゴニアが出すのは、45年間にわたるビジネスにおいて、はじめてのこと。内容が製品のプロモーションではなく、自然環境保護へのアクションというのが、いかにもパタゴニアらしい。今年の11月3日にはアメリカ大統領選挙が行なわれる。選挙に対してどこまで意図的なのかはわからないが、同社のアクティビズムや環境に対する意識が反映されたユニークでオリジナリティにあふれるメッセージだ。
「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」
同社のミッション・ステートメントにあるように、パタゴニアは自分たちが何をしたいのかが明確だ。スタンドアップ・ショーツのタグ裏にあるような強烈なメッセージに話題がいきがちだが、今季はコットンが違う(スタンドアップ・ショーツをはじめ一部の製品)。
1996年に100%オーガニックコットンのみを使用しはじめた同社は、新しくリジェネラティブ・オーガニック認証パイロットコットンを加えた。リジェネラティブとは再生をあらわす。RO(リジェネラティブ・オーガニック)認証は、オーガニック・輪作・間作・省耕起/不耕起などをベースとした土壌の健康や、動物福祉、社会的公平性の3つの柱で構成され、すべてに高い基準が設定されている。認証には時間も必要なため、いまは名称にパイロット(試験的な)とつく。ロード・トゥ・リジェネラティブと製品名に入るのは、その名の通り、リジェネラティブへの道というわけだ。
従来の農業は温室効果ガス排出の最大25%を占めるが、RO農法は健全な土壌を取り戻し、大気中の炭素を隔離する。おどろくことにRO農法を世界の農地の約半分弱で実践すれば、年間の二酸化炭素排出量のすべてを隔離できるという。パタゴニア プロビジョンズを立ち上げたことからも、農業や食の変革は環境問題の具体的な解決策になり得るという、同社の本気度が伺える。
ほかにも今季のパタゴニア製品を彩るパープルには意味がある。アメリカの共和党のレッドと民主党のブルーをかけ合わせると紫(パープル)色になる。罵り合っている時間はない、今こそ地球のために力を合わせようという意味が込められているのだ。そして、ウルトラライト・ブラックホール・ミニ・ヒップ・パックのパープルカラーのみ、ロゴに” come together for the planet (地球のために力を合わせよう)“というメッセージが掲げられている。
問題提起のメッセージをSNSなどで発信する企業はいくらでもある。パタゴニア社は言葉に行動が伴っている。そして、相手が権力者であろうと、その信念が変わることはない。もし、この記事を読んで少しでも何か感じたなら、パタゴニアの製品を買わなくてもいいから、地球のために今すぐ行動してほしい。おそらくそれがパタゴニアの狙いでもあり、私たちの未来につながる。そして、時期が来たら投票に行こう。投票は私たちができる、インパクトのあるアクションのひとつだ。今度は私たちが“スタンドアップ”するときかもしれない。
最後にアンセル・アダムスの言葉を添える。
“It is horrifying that we have to fight our own government to save the environment.”
Ansel Adams
地球を救うため、自分の国の政府に抗議しなければならないなんて情けないことだ
アンセル・アダムスはアメリカの写真家(1902−1984)。ヨセミテやカリフォルニアの風景など、ドラマチックな自然現象をモノクロームの写真によって表現。生涯を通して自然環境保護に積極的に取り組む。
出典参考文献:
・土壌に一線を画す「リジェネラティブ・オーガニック(RO)」
https://www.patagonia.jp/blog/2020/06/regenerative-organics-drawing-a-line-in-the-soil/
・オーガニックコットン
https://www.patagonia.jp/our-footprint/organic-cotton.html
・パタゴニア初のテレビ広告:私たちの「公有地のために」
https://www.patagonia.jp/blog/2017/08/public-lands-and-patagonias-first-ever-television-ad/
・なぜリジェネラティブ・オーガニックなのか?
https://www.patagoniaprovisions.jp/pages/why-regenerative-organic