- 山と雪
【やってみた】南魚沼市で実感した「ワーケーション」の理想形
2022.02.05 Sat
林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者
「ワーケーション」が「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語であることは知られているとしても、根本的に「仕事しながら休暇なのか、休暇中に仕事なのか、どっちにしたって混ぜちゃったらスッキリしねーなー」というのが正直な印象だった。
休みなら休みを思い切りエンジョイしたいし、仕事しなきゃいけないなら遊びのことはスパッと切り離して仕事に集中したい。並行処理が苦手なシングルタスク人間としては、ワーケーションという言葉に含まれる言いようのない曖昧さにモヤモヤしていたのだ。が、そもそも僕はワーケーションを印象でしか語っていない。
そこで、ワーケーション奨励の大元たる観光庁のサイト
「新たな旅のスタイル ワーケーション&ブレジャー」
をひと通り眺めてみて驚いた。ワーケーションとは休みの日に働くことではなかったのだ。
・旅先でこなせる仕事は旅先でこなす、という体制を作ることで、目的地での滞在期間を伸ばす。
・実質的に通勤時間をゼロにすることで、効率的な時間配分を目指す。
・早朝や夕方以降にまとまった時間をつくることで、余暇時間を増やす。
・休日をフレキシブルにとることで、週末などの混み合う時期を避ける。
などなど。つまり、仕事を効率よくこなして自由時間増やそうぜ。もっと言っちゃえば、リモートでできることはリモートでやって、自分や家族の時間を上手いことつくりだそう、という発想が根本にあったのだ。
もちろんワーケーションはリモートワークが主軸になるだけに、営業や製造といった導入しにくい分野もある。また会社の体制として、ワーケーションを受け入れる準備に時間がかかっている場合もあるだろう。それなら、というわけで、ネットとPCがあれば場所も時間も関係ないリモートワークの権化のようなライターが、会社のシステムとは関係ないフリーランスという立場を生かして、ワーケーションの理想を探る実験的滞在をやってみることにしたのだ。
前置きが長かったが、この前段を理解していただかないと、ただ観光地で遊んでるだけのアホライターになってしまう。というわけで新潟県南魚沼市にステイしながら、スノーボードしてきたぜ!
■外遊びにこそ、長期滞在が生きる
ワーケーション最大のメリットは、目的地に長期滞在できることだ。PCでできる作業を滞在先でやっつけてしまうことができるなら、その分出社扱いにするよ〜。あるいは出張のあとに休日を付け足して、そのままリフレッシュしておいで、みたいなことを実現化しようというのだ。
さて、我々アウトドア好きにとって気になるのは天気ではなく、天気がもたらすフィールドコンディションだ。たとえば今回はスノーボードを目的としたので、雪がないと話にならない。しかし雪は降ればいいというものではない。大事なのは何日前からどのくらいの量の雪が降って、その時の気温や風向きがどうだったのか、だ。なぜなら、深すぎる雪は抵抗が大きすぎて板が走らない。理想は降雪翌日のノートラックだが、そんな絶妙のタイミングを遠く離れた大都会から推し量ったとしても、当たりの日を引き当てるのは難しい。
だからフィールドの近くにステイする意味がある。
そうすれば天気を読み、風を感じ、空気の質感を嗅ぎ取ってフィールドの状況を予想し、行動を決めることができる。もう一日いればよかった、昨日がすごくよかった。今回は東向き斜面がよかった、やっぱり北斜面はハズレがない。そうしたローカルの声を聞くことは少なくない。フィールドの近くに長くいることはそのまま、ローカルならではの好コンディションを引き当てる確率を上げることに繋がるのだ。
言うまでもなくワーケーション最大の魅力は「楽しいことをする時間がある」ことだ。だからナイスなフィールドの近くで、ナイスなコンディションになる瞬間を待ち構える。待ってる間に仕事でもするか〜、というのが、アウトドア好きワーケーションの基本スタンスと言えるだろう。
上手いこと仕事をこなして、時間をやりくりする。そうして少しでも滑る時間を捻出する
■移動時間短縮=仕事以外はすべて余暇
仕事をしてこそのワーケーションである以上、やるべきことはきちんとやる。それ以外の時間が自動的に外遊びの時間になることに、あらためて感動した。
なにしろフィールドまでの移動時間が極端に短くなる。だからこそ、目的地はゲレンデ選び放題の場所をピックアップした。新潟だ。特に越後湯沢周辺ならスノーリゾートには事欠かない。どこにステイしてもゲレンデまで15分以内でアクセスできるし、風向きや天候にあわせて行く先を決めることだってできるのだ。
移動時間が短い。それだけでストレスは1/10。しかも前日から天気を見極めているから外しにくい。これで満足度は倍増。つまり東京からのアクセスと比較すれば、嬉しさは20倍くらいになっている。うん、実際のところ、充実度はそんな感じだった。
六日町にいる間、起床は毎日5時。その日の行く先は、実際に窓の外の様子を見てから決める。夜の間にどのくらい降って、どんな質の雪がどのくらい積もっているか。それらをきちんと自分の目で見てから、目指すべきフィールドを決める
■ステイの質
フィールドの近くで長期ステイができればいいなら、雪国のビジネスホテルで十分、とはいかない。それはワーケーションの中でも "サテライトオフィス" という分類に近い。
平たく言って、無機質なホテルの部屋に長くいたいとは思わない。求めているのは缶詰状態で働きながら、時間を捻出するライフスタイルではないのだ。新しい町に住むようなワクワク感や、いつもとはちょっと違った風景に囲まれた毎日。すぐに滑りに行けるという、時間的にも気持ち的にも余裕のある暮らし。そんなキーワードが似合う、落ち着いた宿を選びたい。そこに温泉なんてあったら理想的だ。
今回ステイした「六日町ヒュッテ」。企業の保養所だった建物をリノベーションしたというだけあって、和の雰囲気も残した快適な宿/一泊一食 2名1室利用時 6000円〜 https://www.muikamachihutte.com
左上/清潔で整った部屋 右上/食事は朝食のみ。お米は地元のものを、土鍋で炊いて提供。米だけで、朝からワシワシいける 左下/源泉かけ流しの温泉付き。心地よい冷気を楽しむことができる外湯も 右下/落ち着いたインテリアのリビングスペース。もちろん高速インターネット回線完備
さらにふらっと歩いた繁華街で、何件か美味い食堂なんかがあると最高だ。
満足感の高い外遊びを最終的に仕上げるのは、美味い飯だ。どこの町でも今日は定食、明日は中華、その次は蕎麦屋、とホッピングしていくのは楽しい。しかし今回の滞在で、長期滞在を楽しませてくれるのは筋の通ったストーリーであることを痛感した。滞在した六日町では町内25件の飲食店が自慢の丼ものを提供している。「本気(マジ)丼」は店舗ごとに名物料理や得意な素材を生かしているが、こうしたシリーズものをコンプリートするのも旅の楽しみのひとつ。いわば食のスタンプラリーには、あちらの和食屋さん、こっちの食堂と、自分の好みだけでは絶対にたどり着けないお店に導いてくれる楽しさがある。上段/にし川の「ビーフシチュー丼」。煮込んでトロトロになった牛肉の旨味を味わい尽くす丼。最後は土鍋をパンで拭いて仕上げ! 下段/あさひ食堂の「中華丼」。六日町の大衆食堂。カツカレーも超オススメ
こうした考えから、僕は新潟県南魚沼市の六日町を目指した。ワーケーションという形態を考えたら、ここが最適解だったのだ。最大の理由は、カルチャーだ。
■同じものを好きだという人たちの、ローカルカルチャー
六日町は、滑ることが好きな人達がそこらじゅうにいる。カフェのスタッフも、宅急便のにいちゃんも、定食屋の厨房に入ってるおばちゃんも、みんなスキーやスノーボードが大好きなのだ。その空気が町中に溢れている。滑り手だらけで、滑ることを良しとしているからこそ、滑りに来た人を自然体で迎えてくれる。
ビジターにとって、このウェルカムムードはたまらなく心地よい。言葉よりも態度よりもダイレクトに伝わってくる、受け入れられているという安心感。実はこれこそ長期滞在とワーケーションの質を上げる最大の要素だと思っている。滞在していることだけで、ほんのりとした喜びがわきあがってくるのだ。
スキーヤーもスノーボーダーも関係なく、話すのはいつも雪と滑走具のことだ。あそこの斜面がどうだった、板のセッティングをこう変えたらよくなった、などなど話題はつきない
六日町ヒュッテの書架。滑ることが好きでどうしようもない、という気持ちが溢れている
だから朝イチパウダーを狙いに行くと言うと、宿の人は喜んで朝食の時間を早めてくれる。たまたまワーケーションで滞在していることを話したスタンドのにいちゃんは、今年は雪が多くて大変だけど嬉しいと笑った。ゲレンデで会った人たちはみんな、お互いが素晴らしい日を引き当てたことを喜びあった。
そうして知り合いが増え、話しの中身がよりローカルな斜面のことに移り、さらにディープな楽しみが掘り起こされていく。自分がローカルなカルチャーに近寄り、同好の士に囲まれているという実感が生まれてくる。単に滑る時間を増やすというだけでなく、ここに長く居ることで新しいものに触れ、猛烈に刺激を受け、まったく新しい世界観を身体に染み込ませる。それが滞在の充実感となっていく。
自分の時間を自分らしく過ごしたい。そう考えた時、仕事終わりから(あるいは仕事前に)フィールドまでの移動時間を最小にする手法として、ワーケーションというスタイルがある。リモートワークの壁が低くなってきている今なら、うまく使うことでより自由な時間を演出することができるだろう。
そしてワーケーションは、新しいライフスタイルを試行する機会だ。今までにない生活様式で、自分の好きなことに時間を費やす。それは場合によっては将来的な「移住」という次のステップを見据える予行演習にもなりうる。その意味でもワーケーションを活用することは、仕事と楽しみの比率を見直す、絶好のチャンスになりうると感じたのだった。
南魚沼市では2019年に「雪ふるまち」と題して、滑りたいがゆえにここに住む人達を取り上げ、移住促進をアピールした経緯がある。町の人も行政も、滑り手フレンドリーなのだ
■オンラインセミナーのお知らせ
南魚沼市では下記の要領でテレワークとワーケーションについてのオンラインセミナーを予定している。
日時:2022年2月14日(月) 19:00〜20:30
申し込みフォームはこちら
テレワークの機会が増え、仕事と余暇の考え方も変わりつつあります。そこで首都圏から2時間半の南魚沼市で、テレワークで仕事を進めながら、スキー/スノーボードなど雪国南魚沼ならではの楽しみ方を知る移住経験者3名の方の話を交えながら「雪・食・住」をテーマに、南魚沼市でのテレワークについてご紹介します。
主催:一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構
運営:自然体験村
問い合わせ:自然体験村/武宮(kigurumi41244124@gmail.com)
■無料バックカントリーツアーを含んだ現地交流会
またオンラインセミナー参加者優先で、現地交流会にも参加可能。なんと無料でバックカントリーツアーに参加することができ、南魚沼市内のテレワーク環境や現地での余暇と仕事の時間配分などを実際に体験することができる。
日程:1回目 2022年2月26日(土) 8:00~16:00
2回目 2022年2月27日(日) 8:00~16:00
タイムスケジュール:
8:00 スキー場集合
8:30 バックカントリーツアー開始
11:30 バックカントリーツアー終了
12:00 昼食
13:00 意見交換会
14:00 市内テレワーク施設体験等
16:00 解散(塩沢エリア)※新型コロナの影響によって予定が変更となる場合があります。
定員:各回12名(オンラインセミナー参加者優先・応募人数が多い場合は抽選となります)
参加費:無料(バックカントリーツアー代、リフト代含む)※現地までの往復交通費、昼食等飲食代、現地駐車場代については各自ご負担ください。
※現地までの往復交通費は半額補助の制度(上限10,000円、自家用車、新幹線可)があります。
集合:8:00 南魚沼市内スキー場
解散 :16:00 南魚沼市塩沢
申込方法:オンラインセミナー時にお知らせ致します。
主催:一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構
運営:自然体験村
問い合わせ:自然体験村/武宮(kigurumi41244124@gmail.com)