- カルチャー
【インタビュー】千葉・九十九里から発信される地球と地域に寄り添ったアイテムたち。玉川髙島屋で「This is the POP UP!」開催。
2022.08.05 Fri
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
広告や雑誌などのグラフィックをメインに、プロダクトなど多彩なアウトプットによってオリジナリティあるデザインを提出していたカワムラヒデオさん。20年以上に渡って都内に事務所を構えていたカワムラさんが、2017年の年末に千葉県九十九里町に移住。東京を離れ、自然の近くで暮らすことで感じたことをプロダクトにさりげなく落とし込む。誰かに依頼されるのではなく、あくまで自分たちの目線でアイテムを発信したい。そんな思いで生まれたブランドが「This is」だ。カワムラさんはブランドではなく、ライフスタイルファクトリーと呼んでいる。捨てるのではなくデザインによって再生されるアイテム。つい忘れがちになってしまうそれぞれのモノに含まれているストーリーを再提出するためのブランドだからこそ、ライフスタイルファクトリーと呼んでいるのだろう。8月10日から玉川高島屋で「This is」のポップアップストアがオープンする。自然の近くで暮らすことによって手にしたものとは何なのか。「This is」に込められた思いをカワムラヒデオさんに聞いた。
–––– 東京でグラフィックをはじめプロダクツなど様々なデザインを手がけていたカワムラさんが、九十九里に引っ越したのはいつ頃だったのですか。
2017年の年末です。だから4年半くらいになりますね。移住って言ってしまうと重いので、ちょっと一年くらい行ってみるか、ぐらいの気持ちでした。
–––– 外房の九十九里にしたという理由を教えてもらえませんか?
サーフィンをやるんですけど、サーフィンもひとつの要素。ただ東京にいなくても仕事ができるっていう状況になってきたことが大きかったですね。コロナ以降、オンラインのミーティングが当たり前になったけど、東京にいた頃から確実に増えてきていましたから。ちょっと空いた時間を使えば海に行けるな、なんて想像したりしていたんですよ。デザインという仕事なら東京じゃなくてもいいやって思って、勇気を振り絞って外房に引っ越したんです。
–––– 移住っていう言葉は重いとおっしゃいましたけど、場所を変えたことでカワムラさん自身のなかで、どんな変化がありましたか。
東京にいるときには夜型の人間で、深夜に飲みに出かけて朝までなんてこともしばしばでした。こっちでは簡単に飲みに行けないし、生活サイクルが12時間変わってしまった(笑)。夏は3時半くらいに海に行くこともありますからね。それと、デザインと環境問題をリンクさせたものを発信できないかなってより思うようになって。それで立ち上げたのが「This is」なんです。
住まいから海まで数百メートル。波が良ければ、毎日のように海に行くという。
–––– 「This is」というブランド?
デザイナーとして何回かTシャツを作る機会があったんですけど、果たしてやる意味があるのかななんて思っていた時期もあったんです。普遍的なものってなんだろう。普遍的なことをコンセプトにしたブランドなら、自分でやる意味もあるのかな。そんなことを考えていたら、「This is」っていう言葉が浮かんできたんですね。「This is the Tee」「This is the PAPER」…。アパレルブランドではなく、これだったら自由な感じでなんでも作っていけるなって。以前、勝手に自給自足のデザインって呼んでたんですけど、クライアントがいるわけではなく、自分でデザインして、自分で作って、自分で販売する。そんな自給自足のデザインも、今の時代なら可能だなって。それで「This is」を引っ越してきた翌年の春に立ち上げたんです。
–––– 作っているものには、それぞれメッセージが込められていると。
ここで暮らして学んでいること。サーフィンを通して感じていること。自分たちが考えていることをアウトプットするメディアとしてのアイテムだったらありにしようと。ちょっとでも地球にいいことってなんだろう。Tシャツにしろなんにしろ、自分たちのアイデンティティを表現する。それはメッセージなのかもしれないし、デザインなのかもしれないし、素材そのものかもしれない。それらすべてを満たすってことではなく、ひとつでもあればいいかなって。
–––– 「This is」のアイテムにはアップサイクルされたものもいろいろあります。
今、自分が知っている限りのことはアウトプットするけれど、もしそれが間違いだったとわかったら間違いだったと伝えること。言いわけではなくてね。地球から、自然から、地域から、いろいろ勉強させてもらっているので、学びながらアウトプットしていければいいなって思っています。
「海は誰のもの?」。自然を受け入れるさりげないメッセージが、様々なアイテムに刻まれている。
–––– 8月に玉川髙島屋でポップアップストアが展開されます。
「This is」は、ほとんどが自分のところのEC展開だから、店舗でアイテムを手にとってもらうことって少ないんです。「This is」の世界観が出せればいいなって思っていますし、アイテムを見て何かを持ち帰ってもらえればいいなって思っています。
–––– 持ち帰りということでは、ポスターをみなさんにプレゼントするとか。
ECで買ってくれた方に対しても、これをオーダーしてくれたんだったら、こっちも入れて送りたいって思っちゃうんです(笑)。例えばショップがステッカーだったりポストカードだったりをプレゼントすることってあると思います。形あるものを持って帰ってもらうこともうれしいし、何かを感じてもらって、その思いを持ち帰ってもらえることもうれしい。もっと言えば、常設の店舗ではないのだから参加している意味もあると思っているんです。参加するとはポップアップショップを見つけて立ち寄ってくれるっていうこと。だからこそ、欲しいって言ってくれた方にはポスター一枚でも持って帰ってもらって、喜んでもらえたらうれしいなって。
プレゼント用のポスターは、そもそも包装紙として作られたものだという。
–––– ポップアップストアでは、どんな特徴のあるアイテムを考えていますか。
今の家の近くに老舗の織物屋さんがあって、その織物屋さんが昭和時代に作ったデッドストックの上総木綿をアップサイクルしてサコッシュを作ろうと思っています。ビニロン製の大きめのトートバッグも今回のポップアップでは特徴的なアイテムです。このビニロンも織物屋さんのデッドストックです。
–––– 織物屋さんというのは?
江戸時代から続いている織物屋さんで、90歳近くのおじいちゃんがいるんですけど、残念なことにそのおじいちゃんの代で終わっちゃうんです。この地域は綿花も育てて、農家の副業として木綿の生産も盛んで、木綿を海外に輸出していたほど織物が定着していたそうです。けれど戦後の混乱のなかで織物が斜陽になり、織ったものが大量に在庫として眠ることになった。70年前に作られたぐるぐる巻きの上総木綿やビニロンなどの生地が、倉庫に行くとまだいっぱいある。捨てられるのではなく、再生することでまた繋がっていくコトやモノがあるんじゃないかなって。
–––– ビニロンというのはどんな素材なのですか。
丈夫で耐久性があり、廃棄時に有害物質を出さない素材。化繊素材ではあるんですけど木綿っぽい。かつては肥料袋として使われていたそうです。
デッドストックの上総木綿をアップサイクルして作られたサコッシュ。
–––– ポップアップ期間中、プリントワークショップも予定されています。
藍のシルクスクリーン用のインクを使います。99パーセント天然由来で藍のインクを作っているのは南房総のサーファーの方。ワークショップは「藍の福笑」っていうタイトルです。目と鼻と口のパーツが4種類ずつあって、トートバッグやTシャツに、自分でパーツを選んで、自分で位置を決めて、プリントしてもらいます。それぞれの人がデザインするわけだから、同じものがふたつとないアイテム。
–––– 藍のシルクスクリーン、これも一種のアップサイクルかもしれないですね。
地球に寄り添うってどういうことなのか。それを「This is」のアイテムから、ポップアップストアから、少しでも感じてもらえたらいいなって思っています。ゴミとして捨てられようとしていたものが、デザインの力で新しい命が吹き込まれる。新しい命って言ってしまうと大げさだけど、次に生かしてもらうってことがデザインなのかなって思っています。
自分の好きなパーツを選んで自分でデザインし、プリントするワークショップ。いろんな顔が生まれる。
This is the POP UP!
開催期間:2022年8月10日(水)~8月16日(火)10時〜20時
アクセス:玉川髙島屋 本館1階 T-ステージ1
※来場特典として、会期中に立ち寄った方にオリジナルポスターをプレゼント。
●ワークショップ藍の福笑(あいのふくわらい)
天然由来成分99%の藍インクを使用したTシャツやトートバッグにプリント体験ができるシルクスクリーン・ワークショップ。
開催日時:8月14日(日)11時/13時/15時/17時/18時
定員:3名〜5名(各回2組程度)
所要時間:15分〜30分