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「星野道夫 悠久の時を旅する」東京都写真美術館で開催中。アラスカの大自然と人に向けられた優しい眼差し。
2022.12.22 Thu
菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ
星野道夫さんの写真展『悠久の時を旅する』が東京都写真美術館で1月22日まで開催されている。この巡回写真展は、2012年に六本木富士フィルムスクエア、2013年に富士フィルムフォトサロン大阪で行われた同名の写真展に、あらたに代表作を加えて再構築されたものだ。2021年から2022年にかけて、仙台、北九州、岡山、横浜、名古屋、福井でも開催され、2023年以降も日本各地を巡回する予定だという。
春のアラスカ北極圏、群れにはぐれてさまようカリブー。撮影:星野道夫©Naoko Hoshino
大学時代に、神田の古本屋で一冊の洋書に出会ったことから、星野さんのアラスカへの旅は始まった。エスキモーの小さな村の空撮写真に魅せられ、その小さな村に手紙を出し、その村のエスキモーの家で3ヶ月を暮らした。星野さんが出した手紙と村の村長からの返事の手紙も、この展覧会では展示されている。
展覧会はこのプロローグから、「生命の不思議〜極北の動物たちとの出会い」「アラスカに行きる〜人々との出会い」「季節の色〜自然との出会い」「森の声を聴く〜神話との出会い」「新しい旅〜自然と人との関わりを求めて」という5つのパートに構成されていく。掲載された一枚一枚の写真と向き合い、その写真が撮られたバックボーンを妄想し、次の写真へ移っていく。写真を見るという行為でしかないのだけど、旅しているような感覚もある。そして73年のアラスカ初訪問から96年までの20数年間に及ぶ旅から暮らしへと移行していった星野さんの時を、共有していく時間のようにも感じられた。
©Naoko Hoshino
こんな星野さんの言葉が記されていた。
「人のためでも誰のためでもなく、それ自身の存在のために息づく自然の気配に、ぼくたちはいつも心を動かされた」
圧倒的な自然の中にいることで感じ取っていった自分。星野さんは、1996年8月8日に、カムチャツカでヒグマに襲われて亡くなってしまった。カムチャツカへ行ったのは、アラスカの先住民のルーツを求めてのものだった。
星野さんが見て、感じ、写したもの。写真として一瞬を切り取ったものなのだけれど、そこに込められているものは、写真を見た一人一人の心にとこしえに生き続けていく。
星野道夫 悠久の時を旅する
会期:2022年11月19日(土)〜2023年1月22日(日)
会場:東京都写真美術館