- 山と雪
滑り好きは見逃すな! 南魚沼市の雪山の麓で滑って暮らす移住体験をしてみた(体験者募集の案内付き)
2023.01.17 Tue
ふくたきともこ アウトドアライター、編集者
雪山の麓に暮らすのは私の長い間の夢
1年のなかでもっとも好きな季節は冬だ。
アウトドアでの遊びに事欠かない日本に住んでいるわけだから、夏の登山もシーカヤックも大好物だ。が、秋になって気温が下がると気分は上がり、誰かの初滑りの便りを耳にするともういてもたってもいられなくなる。あと何日すればスノーボードを携えて雪山へ出撃できるかを指折り数え始める日々になる。
しかし、実際のところ雪山とは離れたエリアで仕事をしながら暮らしているため、そうそう頻繁に滑りに行けるものではない。子どもが産まれてからはなおさらで、シーズン中の滑走日数は5分の1ほどに減ってしまった。
いま住んでいるところは神奈川の海沿いの街で、知人・友人たちはサーフボードを抱えて早朝から海に通う暮らしをしている。その姿を、雪山のそばで暮らし朝イチで滑りに行くことができる人たちと重ねては、大好きなフィールドが近くにあっていいなぁという気持ちになる。
雪山の麓に暮らすのは私の長い間の夢なのである。
そんななか、新潟県の南魚沼市から「うちの街に滞在しながら移住体験をしてみないか」という誘いがあった。
南魚沼市は過去のAkimamaでも記事になっているとおり、「滑ることに目がない人」に狙いを定めて移住を促進しているという日本でもめずらしい街だ。
え、その取材って単身で行っていいの?(そわそわ)と滑れる前提で問い合わせてみると、「子連れでぜひ」とのこと。子どもが一緒ではなかなか思うように動けないですよ?と問うと、いい秘策があるんです、という。
「お子さんは雪遊びセット、お母さんはバックカントリーの準備をしてとりあえず来てみてください!」
そんな都合のいい話があるのかと思う取材依頼だったが、雪のある場所への誘いを断る理由はひとつもない。かくして1月中旬、スタッドレスに履きかえたばかりの三菱デリカをブイブイ走らせ、湘南から4時間先の南魚沼市を目指したのである。
この記事の1泊2日版を体験できる募集が末部にあります!
六日町インター近くのB&Bにドロップ
住むように滞在してみるということで、まずは前夜に関越道の六日町インターからほど近い宿にドロップした。築30年の物件をリノベーションしたという「六日町ヒュッテ」は、“山遊びを楽しむB&B”というコンセプトで誕生した宿泊施設だ。
子ども用の絵本やおもちゃが並ぶリビングスペースの本棚にはスキーやスノーボード関連の雑誌や写真集も置かれ、まぎれもなく滑り好きのオーナーが手がけた宿だ。
左・右上)オシャレな自宅紹介のような写真になったが、こちらが宿泊先「六日町ヒュッテ」。めちゃくちゃ居心地がいいところでした。右下)回転寿司にテンションがあがりすしざんまいポーズを繰り出す息子。
ひとりだったら繁華街にでも歩いて飲みにいきたいところだが、なるべく普段の生活と同じように……ということで、インター付近の回転寿司で息子とふたりで夕飯を手軽に済ませ(さすが南魚沼、シャリのおいしさが抜群!)、すぐ隣にあるイオンで翌日の買い出しを行なった。
外遊び好きの大人の考えることは海も山も同じなのだ
さて翌朝。市の担当の方と待ち合わせたのは、このエリアを代表するスキー場「六日町八海山スキー場」。そこで一緒に待っておられたのが、蓑宮祥弘さんだ。
蓑宮さんは、普段は周辺のスキースクールでおもにキッズ向けのスキーインストラクターをされている方。なんと今日の午前中は雪遊びをメインに息子に付ききりで遊んでくださるという。わお!
市の方によると、南魚沼市に移住された“滑ることに目がない”お父さんやお母さんたちも、実際に週末などは子どもを地元のスキーチームや自然学校に通わせ、自分たちもサッとひと滑りという方が少なくないのだそう。
「今回はそのパターンをぜひ体験してもらうということで、蓑宮さんにご協力をいただきました」
なるほど、湘南エリアでいう、子どもをサーフィンスクールでレッスンを受けさせている間に親も波乗りに行くというパターンなのだな。外遊び好きの大人の考えることは海も山も同じなのである。
で、こちらが先日5歳になったばかりのうちの息子。昨年スキーデビューさせたが、まだまだ雪玉を投げて転げ回って遊びたいお年ごろ。
人見知りはない幼児であるが、さぁどうなるか。……と思っていたら、心配は無用そう。なんかいきなり蓑宮センセイと仲良しだぞ。さすが!
蓑宮さん自身も滑るのが好きで千葉県から移住してきたクチ。だからスキあらば滑りたいお父さんやお母さんの気持ちが大変よく分かるという。
蓑宮センセイとの雪遊びの道具以外に、保険としておやつやオモチャも準備万端。しばらく眺めていたが、まったく問題なさそうだったので「母さんはお仕事(という名のスノーボード)にいってくるからね」と言い残し、その場をあとにした。
さぁ、お次は母さんの雪山遊びです!
あの人もこの人も滑り好きの移住者だらけ
「六日町八海山スキー場」の八海山ロープウェーに乗り込んだ私は母さんスイッチをいったんOFF! 子どもを残して遊びに行くという少しの罪悪感と、スノーボーダーだという根っこのマインドが脳内でミックスされ、複雑かつ胸膨らむ心境である。
向かうはスキー場外のバックカントリー。今回は南魚沼を拠点にしているガイドカンパニー「TRIFORCE」が全面協力。当日はあいにく気温が高かったが、せっかく来てもらったのだから……とパウダースノーが期待できるスキー場の北斜面へ案内していただけることになった。
八海山ロープウェーで山麓からスキー場トップまでを約5分ほどでつなぐ。
今回の直接案内してくださるガイドは「TRIFORCE」の丸田裕二さん。この丸田さんもまた南魚沼の雪に魅せられて大阪から越してきたという移住組のおひとり。
丸田さんはスノーボードが好きで、いわゆる山籠り(リゾートバイト)を経験し、山に近い生活を求めて南魚沼市に移住。現在は冬はバックカントリーガイド、夏は建設業に従事しながら南魚沼市での人生をたのしむ。家族は妻と娘の3人家族。関西弁がなじむわ〜。 サポートで同行された「TRIFORCE」で今季からガイド見習いになった金子颯太さんも群馬からの移住メンバー。みなさんホントお好きですな! ほぼノーハイクに近い移動距離ですぐさまドロップできるのも六日町八海山スキー場を起点にしたバックカントリーツアーの魅力だ。山で一瞬でも子どもの様子が脳裏をよぎらないといえばやはりウソで、いい雪をコンパクトに滑ってなるべく早く子どもの元に戻ってあげたいという親の心情をかなえるよさがある。
まずは足慣らしのシーズンインにもやさしい疎林を滑る。雪は軽い! 八海山や舞子エリアを滑り尽くす丸田ガイド。 この日は超のつく快晴で、魚沼平野の向こうに広がる日本海までみえた。 北斜面は入口付近こそ急だったものの後半は適度な斜度で楽しくフリーライド。これが市街地とさほど離れていない距離にあるだなんて! スキー場トップから、ほぼハイクすることなく北側にある南魚沼市の荒山地区へ向けて下りていく。
シーズン初めで積雪量も十分でなかったため、地形にうねりがあったり下山ルートにヤブが残っていたり……と、ヘッポコな私は苦戦。が、そこにはシーズン中ずっと夢に見続ける完全ノートラックの斜面があり、ボードにたっぷりと圧を感じる踏み応えのあるいい雪が一面に広がっていた。これですよ、求めていたのは!!
なにより、たとえ限られた時間でも静かな雪山に身を置けることそのものが最高だ。遠方からガソリンを大量に使い車をかっ飛ばしてくるのではなく、思い立ったら吉日、雪山。そんな暮らし、本当にいいなぁと心の底から思う。
シーズン初めの体はギシギシいいまくったが、心のチャージは満タンである。
息子と離れてからちょうど3時間、ランチの時間前にはスキー場のボトムへ戻ってきた。心配していた私の気持ちをよそに息子は蓑宮さんとハッスルして過ごしていたようで、もう帰ってきたの?みたいな顔だ。
怪獣センセイ(蓑宮さんのこと)と雪遊び、次いつできるの?としきりに聞いてきた息子。
「南魚沼で暮らす滑り好きな親御さんとお子さんはこんな感じですね。たとえば、六日町八海山スキー場近くの自然林を利用したTRIFORCEのプライベートツアーでは、午前と午後にわけてお子さん当番を交代しながらご夫婦で滑ったり、みなさんうまくやられていますよ」
今回出会った人たちもそうだが、南魚沼市には滑ることが三度の飯より好きだという人があちこちにいる。スーパーで仲間に会えばどこの斜面がよかったかを立ち話をし、美容院で髪を切ってもらいながら翌日の雪について話をする。滑り好きが集うコミュニティの数だって相当多いだろう。スキーやスノーボード好きなら会話に事欠かない話題をすでに持ち合わせているわけだから、新天地にも大きな段差を超える必要なく入っていきやすいはずだ。移住を考える上で、共通言語のあるナシは本当に重要だと思う。
手を伸ばせばすぐに雪山に届く快適な街がある
スーパーで買い出しを終え、「六日町ヒュッテ」に戻ってきたのは14時ごろ。そこから私は急ぎの仕事を1時間ほどこなした。これが自宅なら夕飯の準備や家の片づけ、洗濯など細々した日々のタスクはあるところだが、うまく圧縮したり適度に手を抜いたりすれば滑りにいく時間は確実に捻出できるように感じた。なんたって海から通うことを考えれば、劇的に移動時間が減るわけだから。
「六日町ヒュッテ」は企業の保養所だった建物を東京のデザインチームがリノベージョン。清潔でスタイリッシュな館内は本当に居心地がよく、しかも源泉掛け流しの温泉付き! 土鍋で炊いた南魚沼産のごはんがおいしい朝食がつくB&Bスタイル。Wi-Fiも完備。これを最高と言わずなんと言うのか。https://www.muikamachihutte.com
じつは今回に限らず好きで何度も通ってきた南魚沼。街の暮らしとスノースポーツがとても近いことはほかになかなかない魅力だと思っている。
20代のころ、北は北海道から南は白馬周辺まで国内のスノーリゾートにこもって長期滞在したことが何度もあるが、実感するのはこの南魚沼のようにスーパーからドラッグストア、温泉施設、全国展開のチェーン店、気の利いたカフェやおいしいラーメン屋などまで、何でも便利に揃う街の中心地と、スキー場やバックカントリーのフィールドがここまで近い場所もそうそうないということ。聞けば、なんと10のスキー場が中心市街地から30分の位置にあるというからおどろきだ。
そして知人・友人が遊びに来れば、名所や酒蔵、産直など案内したくなるような施設が点在する。
南魚沼市は魚沼コシヒカリ発祥の米どころ。スキー場は六日町八海山スキー場をはじめ、舞子スノーリゾートや石打丸山スキー場、上越国際スキー場など、どこを滑るか迷いに迷う10ヶ所を有する。
その上、保育園や認定こども園は待機児童が現在ゼロであり、学童保育の受け入れも多くが叶うんだそうだ。苦戦して息子を保育園に入れ、就学後の学童についても心配が拭えない街に暮らす身としては、さまざまな角度から見てもここの環境は魅力的にしか映らない。
コロナ禍で首都圏に住んでいてもオンライン会議が当たり前になり、リモートで仕事をすることが圧倒的に増えた。フリーの編集者として自宅をスタジオにし、カメラマンと撮影することも日常になった。もちろん地方に住むことで収入減もあるかもしれない。だが、残りの人生あと何日滑ることができるかを考えとき、果たしていまの住まいは自分が求めているものなのだろうかとさえ思う。
望んでも雪のない国に暮らす人々とは違い、手を伸ばせばすぐに雪山に届く快適な街が私たちの日本にはある。5分の1に減ってしまった自分のスノーボードライフをこれからどうみていくか。今回の南魚沼滞在はそんなことを考えるきっかけになった。
なお、南魚沼市は親子で移住する体験として、この冬の間にイベント「移住体験現地交流会」を行なうそう! 滑るのが好きで南魚沼市に少なからず興味を持つ人が、現地での生活をイメージできるよう、今回は移住者であるガイドを交えて雪にまつわる無料のアクティビティ体験を行ないながらの交流会となるそうだ。
詳しくは下記をごらんの上、興味がある人はまずは19日のオンラインセミナーにご参加を!
南魚沼市 移住体験現地交流会
■日程:
①2023年1/21-22(滞在型)
②2023年2/18-19(滞在型)
■参加条件:
・親子での参加(日程➀または②のいずれかの宿泊を伴う連続滞在をすること。宿泊施設は南魚沼市内に限る)
・2023年1/19 19:00〜のオンラインセミナーへの参加
■参加可能なアクティビティ:
・バックカントリースキー/スノーボード(八海山/舞子を予定)
・子供スキー/スノーボード体験
・子供雪遊び体験
■現地交流会への参加方法:
1、オンラインセミナーの申込
↓
2、1/19(木)19:00〜オンラインセミナー参加
↓
3、現地交流会申込
※・オンラインセミナー参加者が優先となります。
・親子での参加ができる方(日程➀または②のいずれかの宿泊を伴う連続滞在をすること。宿泊施設は南魚沼市内に限る)
↓
4、現地交流会参加
➀1/21-22、②2/18-19(1泊2日)
■申し込みフォーム
https://form.run/@ijyu-teijyu-1673506330
※現地までの交通費、宿泊費、飲食費、スキー場リフト券等、上記アクティビティ以外にかかる費用は自己負担となります。
※バックカントリー体験では、専用のギアが必要となりますので随時ご相談ください。また、各体験でのスキー、スノーボードなどの滑走用具も各自ご用意いただくか、スキー場のレンタルをご利用ください(レンタル料は実費にてご負担いただきます)。
主催:一般社団法人南魚沼市まちづくり推進機構
運営:自然体験村
問い合わせ:武宮(kigurumi41244124@gmail.com)
南魚沼市公式サイト: http://www.city.minamiuonuma.niigata.jp/
(写真=星野隼人、文=福瀧智子)