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神の手による“カスタマイズ”でマイブーツを整えてみた結果!

2016.02.26 Fri

 登山やトレイルランニング、クライミング、自転車……などの様々なアウトドアスポーツで、「靴」は運動の基本となるアイテム。

 が、足に合わせて購入しているつもりでも、フィールドで痛みを覚えたり、タコができたり、1日の後半には足がひどく疲れたり……と、理由がなぜだかわからないまま、さまざまなトラブルに悩む人は少なくありません。

 それらの原因は、足の形状が人によって千差万別であるのにも関わらず、市販の同じ靴を履くほかないことも大きな理由と言えるでしょう。生活で使うだけならともかく、変化する地形を歩いたり、駆け降りたり、踏ん張ったり、ときに飛んだり……と、いろんな運動を伴うものであるなら、足に不安やストレスがなく、さらに運動能力を引き出すものであることが理想と言えます。

 今回、東京の下町・墨田区に、靴のあらゆるお悩み(とくにスポーツに特化した)を職人ワザでスパッと解決するブーツフィッターがおられると聞きつけ、取材を口実にお邪魔してみました。

 そのお店はスノーボードとサーフボードを扱う「TOWN PUMP(タウンポンプ)」。

 オーナーの仁平和良さんはスノーボード業界ではよく知られたブーツフィッターであり、「Soleman仁」という名で活動。年間300足以上のカスタマイズを手がけ、国内のプロスノーボーダーはもちろん、テリエ・ハーコンセンやトラビス・ライスといった海外の超ド級のプロスノーボーダーが来日の際にわざわざ日程をとって足を運んできたというほどのスゴ腕なのだそう。


TOWNPUMPのSolman仁さんが行なうシューフィッティングでは、スノーボードやスキーブーツのほか、登山、テニス、サッカー、ラグビー、トライアスロン、さらには日常の女性向けパンプスなどのインソールも手がけている

 今回カスタマイズをお願いするのは、シーズンまっさかりである「スノーボード」のブーツです。“仁さんに調整してもらったスノーボードブーツの履き心地は、筆舌にしがたい、まさに神業” なんてウワサを聞いていたので、念願かなっての来店となりました。


今回使った「DEELUXE(ディーラックス)」は、サーモインナーと呼ばれる熱で成型できるインナーブーツ(写真右)をもちいたオーストリアのスノーボードブーツ専門ブランド。ゲレンデからバックカントリーまで対応する女性ハイエンドモデル「EMPIRE LARA」を購入し、フィッティングしてもらった

「インナーブーツの熱成型に加えて、中に敷くインソール(中敷き)を変えることで履き心地や運動性能が劇的に変わる」。カスタマイズで使われるのは、ウィンタースポーツ向けに作られた「SIDAS」のウインタープラスプロ。つま先が薄めに設計され、細かなボード操作がしやすい。両サイドの緑色のパーツは、ブーツ内での安定性を高めるオプションパーツ

 カスタマイズは、足の細かな計測から始まりました。

「自分の足のサイズを正確に分かっている人はほとんどいません。学生時代の身体測定で計った数値などを今も靴選びで使っていることが多い。実際は左右の足のサイズが違う人もいれば、足幅や甲の厚み、足裏のアーチ形状も千差万別。本当に自分の足に合うブーツを見つけるには、それらの正確な情報が欠かせません。うちではブーツの購入やカスタマイズの前に、まず全員こうして足を事細かに計測します」


この写真では分かりづらいが、鏡の上に立ち足裏を映して形状を確認。アーチの構造や指の付き方などをチェックされる(自分の足を後ろから見ることなんて普段ありません。左右いびつ!)
 結果、Akimamaスタッフの足は左右の足が3mmほど長さが違い、幅は狭めで甲は薄め。足裏のアーチは比較的運動向きの形だが、蹴り出しのパワーが若干外に逃げ気味。1日の後半までしっかりと疲れずボードを踏み込めるよう、インソールでもっとサポートしてあげる方がよりいい、と判明。登山靴なら細身デザインである、スカルパやスポルティバなどのイタリアンメイドのブーツが合う足型、ということもおまけに分かりました。

 いや〜自分の足のことなんて全然分からないから、目からウロコですよね。

 さらに工程はマニアックな世界へと突入していきます。

すべての計測やチェックが終わったら、熱で成型できるインナーブーツを専用のオーブンに入れ、温めておく


その間に、自分の足型に合わせてインソールも成型してもらう。専用マシンで足型を取る


「温めたインソールをさらに部分的にドライヤーで熱を持たせることで、人の足の微妙なカーブにピッタリと合わせて成型ができることがわかった。この微調整がなかなか難しいんだよ」と仁さん。これぞ試行錯誤を経た熟練のワザ


温めて柔らかくなったインソールの上に乗り、足裏の形状に合わせて形を記憶させる


さらに、作業初盤で目視したAkimamaスタッフの足型に合わせ、仁さんの手による微調整が入る。何を基準に手を加えているのか?の問いに「言葉では言いづらい! 勘というか、感覚というか」


安定性を高めるオプションパーツを貼り合わせ……


サンダーで不要部分を削り、インナーブーツの底部に合わせてアウトラインに修正を加えていく。「あんまり近寄って撮影しちゃダメ! これは企業ヒミツなんだから」


Before(左)とAfter(右)。裏面を削らずとも使うことはできるが、インナーブーツの中での収まり具合は歴然と違うという

 工程の終盤、作業はインナーブーツの加工へと移っていきます。

お次はインナーブーツの成型。スノーボードは様々な動きに合わせてつま先を開いたり踏ん張ったりするため、つま先にいくらかの“遊び”が必要。そのスペースを確保するため、仁さん手作りのキャップをかぶせておく


インナーブーツ内にインナー用の適度なスペースを確保するため、ダミーのインソールを暖めておいたインナーブーツの中に敷き、丁寧にブーツの中に足を挿入してから、カカトを叩いたり屈伸したりいて成形していく。つま先にはめたキャップのせいでえらく窮屈で痛いくらい。ここはガマン

「スノーボードブーツにしても、登山靴や自転車シューズなどにしても、運動中に痛みや違和感を覚えて足へ意識が行ってしまうのは“いい靴”とは言えません。理想は靴の存在を忘れ、履いていることが頭から完全に消えてしまうこと。ガマンしていればそのうち馴染むとか、使い込めば慣れてくるというのは古い考え方であり、最初からずっと履いてきたかのように快適でストレスのない履き心地を作ってあげることは可能なことなんです」

 靴を足に合わせて整え、脳へのネガティブな刺激をなくすことで、実際に成績が上がったという事例も数多くあるそうです。

「熱成型できるインナーブーツを使うことで全体のフィット感を高め、さらに適正なインソールで足裏のアーチを補助することで、脚力が維持でき、足に疲れの出る運動の後半も効率よく蹴ったり踏んだりできるようになります。外反母趾の女性も、最適なインソールを用いることで縦と横のアーチが自然と持ち上がるため、これまで靴の中で触れて痛かった部分がなくなり、本来の自分の足よりも理想的な足に近づけることができる。硬い登山靴を使うような人こそ、ぜひ試してほしい」

 さて、こちらが購入時(左)と成型後のインナーブーツ。(写真では分かりづらいかもしれませんが……)


DEELUXEのブーツは、同じく熱成型できる他社モデルと比べてもインナーブーツの品質がよく、足型の再現がしやすいそう

 Akimamaスタッフの足型に合わせてカスタマイズしたブーツは、購入時とはまさに「別モノ」でした。

 なぜ履くだけで「気持ちいい」と感じてしまうのか! まるでオーダーメイドで登山靴をラスト(木型)から作ったかのように、インナーブーツの熱成型の高い技術で自分の足と寸分違わない包み込むような履き心地……。

 さらに、仁さんのすごさは経験に基づいたインソールの絶妙な成型技術で、完全にその人の足裏そのものにインソールを作り替えることができること。足を入れた瞬間、自分のためだけに作られたまさに“シンデレラの靴”に出会ったような衝撃が待っていました。

 さらにさらに驚くのは、雪上での履き心地です。通常、スキー場で滑っていても昼時になればヒモを緩め、脱いでしまいたくなるスノーボードブーツでしたが、一度たりともそんなことを考えません。そればかりか足元にブーツが存在していることすら忘れている。これはもうすでにブーツというより、自分の足の一部だと思えるほどなのです。もちろん、しっかり締め上げても足がうっ血する感覚もなく、リフト上でつま先が冷え込むこともない。

 一体いままで履いていたブーツはなんだったんでしょうか!? この履き心地が次のブーツを買い替えるまでの間味わえるのなら、+αで費用が発生してもまったく惜しくありません。

 スノーボードブーツは墨田区のショップでの加工となるそうですが、登山靴やその他のスポーツシューズ、女性のパンプスのトラブルを解決するインソールは東京近郊なら出張も受け付けるそう(人数規定あり)。この神の手によるカスタマイズを、ぜひみなさんにも体験していただきたい!(鼻息)

Soleman仁さんによるスノーボード(スキー)ブーツフィッティング
■TOWNPUMPでブーツ購入の場合 インソールなどの部材費のみ(加工料不要)
■持ち込みの場合 加工費(インナーブーツ熱成型、インソール成型)+部材費

インソールの出張カスタマイズサービス(東京近郊)
■ひとり約1万円(インソール代込み、5名以上から)


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