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4ナンバー化で約8万円を節税!遊び車を「小型貨物」にしてみた
2016.06.01 Wed
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
子供の頃から、野山で車が鉄クズになるのを見てきました。
ある川辺では、カヤッキングの終了点に停められた車が落石でペシャンコになっていました。
また別の河原では、増水した河川敷で半分水に浸かった車が悲しげにハザードランプを明滅させていました。
壊れやすい林道で路肩をくずして脱輪、じわりじわりと鉄クズに向かってカウントダウンする車も見ました。
おごれる新車も久しからず。猛き車もついには滅びぬ。新車だからといって手心を加えてくれないのが自然です。
街乗りと比べて、車をダメにすることが圧倒的に多い野山で使うなら、「10年乗るつもりで新車を買う」よりも「そこそこ程度のよい中古車を乗り継ぐ」ほうが、道具として車を使い倒せる、というのが私の持論です。
(「本当は新車を買う財力がないだけなんだろ?」なんて指摘は聞こえないぜ!)
そんな私に訪れたのが、愛車の3度目の車検。走行距離が14万kmに達したタウンエースノアはあちこちにガタが来て、乗り続けるには大規模なパーツの交換が必要になっていました。
わがやのタウンエースノア。「郊外住まいのオヤジの車」のふりをしてなかなかの実力派。最低地上高はSUV並みの185mmで4駆。そのくせ車幅は狭めなので細い林道や農道もエンヤコラ。左右から草をかぶる悪路や、不整地の河川敷や海岸ものそりのそりと超えていく「家畜の皮を被ったイノシシ」のような名車でした。この時代の車は電子制御が少なく整備しやすい、との理由で、第3の人生は新天地アフリカで送ることになったようです。アフリカ! お似合いだよ、元気でな〜
しかも、このタイミングで始まったのが、高年式な車の自動車税のアップ。タウンエースノアを整備して乗り続けるのか、維持費は安いが車両価格は高く、安全性に難のある軽にするのか、はたまた自家用車の維持をやめてしまうべきか……。
悩みつつ中古車販売業を営む友人に相談してみたところ、提案されたのは「乗用車を構造変更して小型貨物として登録する」ことでした。
乗用の貨物と聞くとプロボックスやADバンなどの「いかにも貨物」なステーションワゴンが思い浮かびますが、5ナンバーの乗用車でも条件を満たせば4ナンバーの貨物として登録が可能なのだそうです。
そして、「ちょうど今、整備をすませたばかりで構造変更もできるホンダ/ストリームがある」と友人。
ストリームを貨物として登録するメリットは、諸々の税金が大幅に安くなること。
対するデメリットは、①サードシートを外して荷室を確保しなくてはいけないことと、②セカンドシートが後ろ側へリクライニングできなくなること、③乗車できる人数が減ってしまうこと、④最大積載量が設定されること、⑤2年に一度の車検が1年ごとになる、などです。
貨物で登録すると車検は年に1度になりますが、車検のタイミングで払う税金も安くなるのでトータルの維持費はだいぶ安くできます。
わがやは3人家族で、仕事でも5人以上が乗車するのは稀。定員の減少はさほど問題ではありません。最大積載量も、規定以上の重量物を積むことはまずありません。リクライニングができなくなると車中泊はやりづらくなりますが、そこは寝台をDIYすることでクリアできそう。
職業柄、4駆でなくなることと最低地上高がさがってしまうのは痛いのですが、安定性と燃費とのトレードオフだと考えれば致し方なし。
また、入っている自動車保険の会社によっては、乗用から貨物への変更が難しいこともあるそうですが、たまたまわがやの保険会社は貨物への移行ができる会社でした。
これは一考の価値ありか、とざっくり計算してみたのが以下の表。タウンエースノアを乗り続けた場合と、ストリームに乗り換えた場合の2年分の維持費を見比べてみるとこのようになりました。
(貨物は車検が1年ごとなので、ストリームのみ1回分の継続検査料金を計上。自動計算サイトを用いたので数百円の誤差がありえます)
タウンエースノア
自賠責保険 27,840
重量税 50400
自動車税 45,000×2
合計 168,240
ストリーム
自賠責保険 17,270×2
重量税 8,200×2
自動車税 16,000×2
車検継続検査 1,700
合計 84,640
なんと、維持費は2年間で約8万4000円もおトク! (ちなみに、乗用のストリームと貨物のストリームを比べた場合も、この数字とそんなに大きな差はありません)
タウンエースノアを乗り続けるためには10万コースの整備が必要なこと、「タウンエースノアを下取りに出してくれたら、ストリームの車両価格はマケる」という友人の言葉で、ものは試しと貨物仕様のストリームを用立ててもらいました。
そしてやってきたのが、善良な市民しか選ばないであろうキングオブ無個性車。お姉ちゃんを隣に乗せて……なんてスケベ心や冒険心を去勢する、全てにおいて無難なスタイリング。着座した瞬間、自分の心の辞書の「ウィルダネス」「バイオレンス」「エクスプローリング」の項が二重線で消され、「家庭」「安定」「服従」の項が太字のゴシックで上書き保存されました。年式相応のヤレは否めませんが、走ってみれば高速では20km弱/Lの燃費をマーク。先代のタウンエースの倍近い燃費性能です
友人曰く、どんな乗用車も貨物へ変更できるわけではなく、また構造的に変更できたとしても使い勝手が悪くなる場合もある、とのこと。
乗用として作られた乗り心地の良さと、貨物での使いやすさを両立でき、貨物として登録できる条件を満たせるのは、
① 3列目のシートが取り払いやすく
② セカンドシートから荷室後端までの距離が長い車で
③荷室の開口部が大きい
車だけのようです。乗用車を構造変更して貨物にするには、いろいろややこしい条件をクリアしなくてはいけないうえ、登録する陸運局や係官によっても車検をパスしたりしなかったり、と揺らぎもあるそうです。
それを知った上で構造変更に挑みたい、というチャレンジャーは、このへんの条件と勘所について記された体験記がネット上にいくつもあるので、そちらを参考にしてください(「4ナンバー化」&「貨物」などで検索!)。
この乗用からの小型貨物化ですが、プロボックスみたいな車が欲しいけど、商用車は中古でも高くて……とか、単身者だから二人も乗れたらOKなんて人には、安価にトランスポーターを維持する方法として使えそうです。
車を道具として使う人には、役立つ裏技かもしれません。
小型貨物への構造変更にあたっては、ハッチの大きさと荷室の広さの規定が障壁となる。そして「運転席からセカンドシートまでの距離」<「セカンドシートから荷室後端までの距離」であることも重要。キャビンが長めの車が、小型貨物へと変更しやすい
遊び道具を積んだ荷室とセカンドシート。荷室のスペースを確保しなくてはいけないため、セカンドシートの足元は狭め。後ろ側へのスライドも止め殺しでリクライニングもできない仕様になっている。ロードバイクはちょびっと前へはみ出すものの、前輪を外すだけで収納可能
まったくの余談ですが、乗り換えたストリームを自宅の車庫に入れたときに、お隣さんにも似た様な車が停まっていることに気付きました。
似ているどころか、よく見れば、いいえ、よく見なくてもまったく同じ。それまで無個性すぎて気にもとめたことがなかったのですが、お隣さんの車は年式も色も同じストリームだったのです!
「……ウチのを見て、乗り換えたわけじゃ、ないんですよね?」
と恥ずかしそうなお隣さんに聞かれて、
「いいえ、まったく違います。なにせこちらは貨物ですから!」
と、私もちょっと恥ずかしげに答えておきました。