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野外で安全な水を得る。携帯浄水器「ソーヤー スクィーズSP131」を高橋庄太郎がチェック!
2016.07.12 Tue
僕には、毎年訪れているフィールドが日本に数カ所ある。
特に気に入っているのが知床半島を中心とした北海道。もうひとつが沖縄県八重山諸島の西表島だ。
どちらも日本有数の無人地帯が広がるワイルドな場所だが、共通するのは「水」の確保が難しいこと。
正確にいえば、水自体は豊富にあるのだが、北海道では寄生虫のエキノコックスの問題があり、西表島でも上流がイノシシのヌタ場になっていたりして汚染され、そのまま飲めるほどの清水はなかなか得られない。だから、どうしても現地の水を「浄水」しなければならないのだ。
この問題は北海道、沖縄に限らない。水が豊富な本州、四国、九州の山といえども、安全が確保された水場は案外少ないものだ。
一見きれいに見えても、近くに登山道や小屋があれば、汚染されている可能性もある。じつはつい先日、紀伊半島の大峰奥駈道に入ったときも、水場の横2~3mのところに白いティッシュペーパーが数枚まとめて落ちていた(そこは宗教上の理由で「女人禁制」の山域なので、あきらかにアレの跡である。もう勘弁してよ~)。
というわけで、僕は最近、浄水器を持ち歩くことが多くなっている。アウトドア用具の原稿を書くことも多いライターという職業柄、今までにいくつかの種類を試してきたが、専門メーカーのものであれば、フィルターの性能はかなりのものであり、「スペック上は」どれも浄水能力において納得がいくレベルにある。目に見えないほどの泥といった不純物や細菌などが確実に除去されているかどうかは、フィールドでは確認できないことなので、これはもうメーカーの説明を信用するしかない。
しかし、タイプによって意外に異なるのが、「使い勝手」だ。
そこで今回試してみたのが、「ソーヤースクィーズSP131」である。その最大の特徴は、ズバリ「汎用性の高さ」だ。これから、そのフィールドでの応用力を見ていきたい。
右が「ソーヤースクィーズSP131」。左が「ソーヤースクィーズSP129 」。2つの違いは「SP131」には0.5Lパウチひとつと2.0Lパウチ2つが付属し、「SP129 」には1.0Lパウチ2つが付属しているということと、クリーニング カップリングによって、SP31ではパウチやペットボトルがフィルターの吐水口側に直接接続できるようになっていることである。
こちらは「SP131」のすべての内容物。Hollow Fiberを使った0.1ミクロンのフィルターは380万ℓという膨大な水量を浄水できる(もちろん、適切にフィルター洗浄をおこなうか否かで寿命は変わる)。0.5Lパウチはペットボトル感覚の水筒として使え、2つの2.0Lパウチは多くの水を一度に浄水するのに便利。その他、洗浄用の注射や各種アダプターやチューブがセットになっている。
■ソーヤー/ソーヤースクィーズSP131
フィルター重量:約71g
フィルターサイズ:全長14.5㎝、直径5㎝
内容:PointONEフィルター×1、0.5ℓパウチ×1、2.0ℓパウチ×2、メッシュバック×1、グラビティチューブ×1、インラインハイドレーションアダプター×1、クリーニングカップリング×1、洗浄用注射器(針なし)、日本語説明書兼保証書
価格:7,400円+税
浄水器は「ポンプを押す」「ボトルに入れて吸う」「水筒を高い場所に吊るし、重力で水を流す」といった方法でフィルターに水を通し、浄水するタイプが一般的だ。
そのなかで「ポンプ式」はかなり力を使わねばならず、しかも構造上重くなるのでバックパッキングではあまりお勧めできない。反面、「吊り下げ式」は、数人分の飲み水を一度に作ったり、調理用の水を大量に浄水したりと、非常に便利だ。内部にフィルターを収めた「ボトル式」は汲んだ水をその場ですぐに飲めるのがメリット。僕自身、これまでどちらかのタイプの浄水器を使っている。
さて、「SP131」の浄水方法のひとつは、「吊り下げ式」である。
驚いたのは、そのスピード。2.0Lの水が、わずか3~4分で浄水されてしまうのだ。まだ新品でフィルターがまったく目詰まりしていないということを差し引いても、なかなかの実力のようである。
沢などで汲んだ水を入れた2.0Lパウチを、収納袋としても使えるメッシュパックに収めて吊るし、フィルターをチューブでつなぐ。そして、もうひとつの2.0Lパウチを下に位置させる。これだけで水が重力によって流れ、下にきれいな水がたまる。
「SP131」のもうひとつの浄水方法は、いわば「ボトル式」。フィルターに0.5Lパウチや使用後のペットボトルと直結することで、ボトル式浄水器と同じような仕組みできれいな水を得られるのだ。
右は一般的な0.5Lペットボトル、左は付属の0.5Lパウチを使用。ペットボトルの飲み口の口径は共通なので、1.0Lや1.5Lのペットボトルも組み合わせられる。またパウチタイプの水筒も、口径が共通であれば、他社メーカーのものも使えないことはない。
もちろんフィルターの飲み口から直接吸い出すだけではなく、パウチやペットボトルから絞り出すように水を出せば、別の容器にきれいな水をためられる。それほど多くない水を浄水してキープするだけならば、わざわざ大型のパウチを吊り下げて水を作るより、この方が楽だろう。
パウチにせよ、ペットボトルにせよ、浄水前の水を入れるものと、浄水後のきれいな水を入れるものは分けて使いたい。内部を洗浄すれば使いまわしはできるが、実際のフィールドでは面倒だ。
ところで、浄水した後の水はどんな味になるのか? 正直なところ、何度か異なる場所でさまざまな水で試してみたが、浄水前後の違いはよくわからない。味が劇的に変わるわけではないのだ。
これはフィルターの孔は0.1ミクロンなので、大きな粒子を濾しつつも匂いの成分のような小さな粒子をスルーしてしまうからだろう。
しかし、一部の匂いが強いジュース類やお茶の類を濾してみると、その風味が弱まる感じがする。また、同様に一部の飲み物は色自体もかなり薄くなった。
ちなみに、多くの細菌の大きさは1ミクロン程度で、僕がもっとも気にするエキノコックスの卵(山中の水に含まれる)は30ミクロンである。泥の粒子はもっと大きい。フィルター孔よりも大きい汚泥や細菌は充分に取り除けているはずである(繰り返すが、目には見えない大きさなのでここでは断言できないだけだ)。
フィルターはその性質上、繰り返し使っていると少しずつ目づまりを起こす。水をきれいにする能力が下がるわけではないが、浄水にかかる時間が増え、口で吸う場合は強く吸いこまねばならない。これは意外と厄介な問題だ。
この問題を解決するために、フィルターは頻繁にバックフラッシュという作業を行なったほうがいい。
要するに、強制的に逆向きの水の流れを与え、フィルターで濾したものを流し出すのである。これは他メーカーでも同様だが、大半はフィルターに強い逆向きの圧力をかけにくく、なかなか効果的なバックフラッシュの効果が得られない。
だが、この「SP131」をはじめソーヤープロダクツのフィルターは、内部の構造がしっかりとしているため、付属の注射器などで逆方向から浄水を流すことで、効果的に洗浄することができるのだ。なかなかよく考えられている。
右は専用注射器でバックフラッシュをかけている様子。フィルターの向きが逆になっていることがわかるだろう。左は注射器代わりにペットボトルを使ってバックフラッシュを行なっている様子。どちらも有効だが、注射器のほうがより強い圧力で水を流しこめるため、効果は高い。
最後にひとつ、やってみたかったことがある。それはフィルターを直接川につけ、ダイレクトに水を飲むこと!
ペットボトルに一度汲んでからでも効果は同じだが、このほうが川の水がそのまま体に流れ込んでくるような気分になり、妙にうれしく感じる。「SP131」は汎用性が高い浄水器だが、最悪の場合はフィルターだけでも使えなくはないという証明にもなっているかもしれない(ストローが付属するソーヤーミニ SP128 というモデルもある)。
当然ながら、川から直接飲んでも味が変わるわけではない。だが、こういうのは気分の問題でしょ? 僕はカヤックなどで川を下るのも好きなので、いろいろな場所でこんな感じで川の水を味わってみたい。
吊り下げ式、ボトル式という両方のよさをひとつで兼ね備えた「SP131」は、バックフラッシュの作業も簡単で、よく考えられた製品だと思う。
すべてのパーツを合わせた総重量はメーカーから公表されていないが、実測では259g。たったこれだけの重さで安全な水がいくらでも手に入るのだ。もちろんフィールドや遊び方によって不要のパーツもあるだろうから、実際に必要なものだけならば、もっと軽くなる。
体に害をもたらす汚れを除き、これと水さえあれば、山中や川辺でいつでもきれいな飲み水を作れるのだから、アウトドア好きはひとつ持っていて損はないはずだ。今年予定している夏の北海道、秋の西表島で、もっと使い込んでみたいと思っている。
問い合わせ先
アンプラージュインターナショナル
TEL072(728)2781
高橋庄太郎
テント泊での山歩きやカヤックツーリングを愛する山岳/アウトドアライター。著書に『山道具 選び方、使い方』(エイ出版社)、『テント泊登山の基本』(山と渓谷社)など。7月15日には新著『ソロ山行ステップアップ術』も刊行
FACEBOOK:www.facebook.com/shotaro.takahashi
写真=矢島慎一