- 道具
焚き火で使えて軽量でタフ。ソロストーブのただの鍋「3ポットセット」がいいぞ
2017.02.27 Mon
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
「やっと逢えたね」
その鍋をみつけた瞬間、脳内に再生されたあのセリフに自分でも驚いた。
しかし、本当にそういう気持ちだったのだ。それほどまでに「3ポットセット」には心をわしづかみにされた。
オールステンレス製の大きめの鍋のセットで、ほどほど軽量。そういうクッカーをずっと探し続けてきたからである。
* * *
アウトドア用品が高機能化の一途を辿るなか、多くのアイテムから汎用性が失われつつある。
「焦げつき防止加工済みで、スマートな湯切りつき。ハンドルには滑り止めのシリコンがついていて、もう、最高なんです!」
と、メーカー各社は毎年のように新製品を繰り出してくる。確かに便利だよな、と思いながらも、
「でも、焦げついても加工に遠慮してゴリゴリ洗えないし、飯炊くにも湯切りから圧抜けちゃうし、滑り止めは焚き火に入れたら焦げちゃうんだよな」
とも思ってしまうのである。
ガスストーブと組み合わせて湯沸かしだけに使う小型のクッカーなら、その用途だけに性能を特化したものが便利だ。しかしいつの間にか、高機能・用途限定の波は団体装備サイズのクッカーにまで及び、タフユースのできる大容量のクッカーは駆逐されてしまった。
3〜4人以上の仲間とのキャンプや遠征で使う鍋ともなれば、自分以外のメンバーが使うこともある。
ガスだけでなく焚き火で調理することもある。飯炊きが下手なヤツが焦がすこともある。焚き火端でほっ散らかされて、蓋が火中に投じられることもある。
こんな場面では、現代の高機能なクッカーは一瞬でその性能を損なわれてしまう。持ち主が席を離れている間に高温の炭火で空焚きされ、砂で洗われて汚れとともにコーティングが無くなり、プラスチックやシリコンのパーツはデビュー戦で溶け落ちる。
自分の鍋がそんな目にあったとき、私は自分に言い聞かせるように仲間に言ってきた。
「まあ、よくあることだよ……」と。
焚き火に載せてもパーツが溶けず、鍋底が焦げついたらむしろ炭を入れて焼ききり、痛飲した翌朝に焚き火跡から発掘されてなお性能が失われていないクッカー。そんな鍋を私は求めていた。
「それなら、ビリー缶(とそれに類するクッカー)があるじゃん」という人もいるだろう。
しかしビリー缶の素材はアルミ。空焚きに弱く、アルツハイマーの原因となるかもしれないといわれている金属だ(アルツハイマーのアルミ原因説は今もそれを支持するレポートと否定するレポートが発表され続けているが、君子危うきに近寄らず、である。君子じゃないけど)。
すべてがチタンでできた軽量で堅牢な鍋もある。しかし、チタンは熱伝導性能が低く、水以外のものの過熱にはやっぱり向いていない。
となれば素材はステンレス一択。もちろんこれまでも各社のラインナップにステンレスのクッカーはあったのだが、これらはオートキャンプ向けの肉厚で重たいものばかりだった。
そんなところに、3ポットセットはふわりと舞い降りた。
2ℓ、1.5ℓ、1.25ℓの3つの鍋に蓋が付いて重量は623g(実測。ハンドル別)。複数人で使う前提なら十分許容できる重量だ。価格も6,500円とまあまあ軽め。発売元はウッドガスストーブの雄・ソロストーブ。
「ウチのストーブで薪で煮炊きしたら、ススも噴きこぼれもつく。担いで持っていける重量でラフに扱えるクッカーをめざすと、まあ、こうなるよね」
そんなソロストーブの開発者の声が聞こえてきそうである。
しかし開発者よ、私はソロストーブを持っていないので焚き火で使わせていただこう。さっそく米を洗い、焚き火に載せて炊飯してみる。
焚き火につっこみグツグツ煮立て、蒸気が落ち着いたら焚き火の傍でじわじわと蒸しあげる。蓋をあければ粒立った銀シャリ! テスト用に炙った底もほどよく焦げ付いている(というのはウソ。撮影してたら焦げちゃった)。
飯を食った後は思う存分に洗う。ぐいぐい洗う。なにせ、ステンレスなのだ。ふだん家で使っている鍋とまったく同じ扱いで洗ってやる。細かい磨き傷がついたって性能はまるで劣化しない。だって、ただの鍋だもの。
コイツの本戦への登板は、来月末に仲間と行く南の島への長期遠征。そこでこの鍋は飯を炊き、パスタを茹で、ときに貝や蟹の容れ物になり、そのまま焚き火にかけられ、幕営地を去る時には砂でゴリゴリ洗われるだろう。
3ポットセットは、そんな使い方にこそぴったりの鍋である。
ソロストーブ/3ポットセット
価格:6,500円+税
重量:約660g
収納サイズ:H107×Φ195㎜
問い合わせ先:アンプラージュインターナショナル 072-728-2781