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アルコールストーブで楽しむ山のひととき。 エスビット クックセット985mlを使ってみた。

2017.04.12 Wed

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

 登山やハイキングに使っている軽量の少人数用のクッカーセットだけでも、数えてみたら意外とあるもので、キャンプで使うナベやカマを入れたら、いったいいくつあるのか………。それぞれ使うシチュエーションや機能、姿、形、ブランドなどが微妙に違うので、これまでせっせと買い求めてきたのだが、あらためてみてみると案外と自分はクッカー好きなことに気がついた。
 これまで、さまざまなクッカーセットを使ってきたなかでも、オールマイティでとくに好きなのが800mlから1Lサイズのクッカー。カップラーメンなら2人分のお湯が沸かせるこのサイズのクッカーは、最初に買うべきクッカーとしてもおすすめしたい。このサイズのクッカーは、ストーブや燃料といっしょにパッキングできるものが多く、そこにカトラリーやカップなどを組み合わせ、自分なりのクックセットをカスタマイズして保管しておくことが多い。ザックの中はもちろん、部屋の中や車の中など、あらかじめワンセットにしておいておけば、さっと山に行けるだけでなく、いざというときにも安心だ。
 今回ギアレビューで使ったエスビットのクックセットは、そんな絶妙なサイズに加え、アルコールストーブと風防をも兼ねるゴトクがセットになったクッカーで、固形燃料やアルコール燃料といっしょに、美しくパッキングすることができるのがとても気に入った。
 よく晴れた週末のある日、子どもたちを連れてハイキングに行ってきた。向かった先は丹沢の前衛峰でもある高松山。高松山は、頂上が広い芝地となっており、ベンチもあってピクニックには最適の山。持参したクックセットには、付属のアルコールストーブのほか、エスビットの固形燃料を使うための台座もセットに含まれている。今回は燃料として、リンデンの「除菌もできる燃料用アルコール」と、エスビットの代名詞ともなっているタブレット型の固形燃料を持参した。エスビットといえば、固形燃料の入った金属製のケースを開くとそのままゴトクになるという商品が有名で、創業当時からほとんど変わらぬ姿で今も販売されている。燃料アルコールを携帯するリンデンのパウチ容器のキャップには、ペットボトルなどに付いている改ざん防止のダンパーが付いていて、使い始めにキャップをねじ込むとロックされ、初回開封時にダンパーが切り離されるという仕組みになっている。また底部がマチになっているので自立する。
エスビットの代名詞ともなっている固形燃料を使って着火する。風が強い場合などは、固形燃料にアルコールを数滴垂らして着火するとつきやすい。箱の中を見てみると、タブレットが入ったブリスターパックのツメを折るようにして、互い違いに重ねて封入されている。タブレットを台座に乗せて、5gで約6分燃焼する。

 今回持参したアルコールは、バイオエタノールと呼ばれるアルコールだ。さとうきびを原料としたリンデンのバイオエタノールはアルコールストーブの燃料としては、もちろんのこと、手指の除菌や消臭などもできる(残念ながら飲むことはできない)万能燃料で、地球温暖化の抑制にも一役買っているエコな燃料だ。またタブレット型の固形燃料を使ってみようとパッケージを開けてみると、おどろくべき緻密さで、ブリスターパックが紙箱に封入されていてこれにも感動!!ドイツ人の生真面目さを垣間見た思いだ。1950年代から60年代にかけてのエスビットのポスター。この当時は屋外でお茶を入れたり、スープを温めたりする日常使いのストーブとしてアルコールストーブは一般的だった。

 どんな地域でも燃料の入手が容易で安全というアルコールストーブは、構造が単純なので故障もなく、野外で使うストーブとしては最もプリミティブであり、いつまでも安心して使える。近年では、ウルトラライトハイキング、ファストパッキングなどと軽量化の世界で脚光を浴びているアルコールストーブではあるが、1936年にドイツで創業され、当時とほぼ変わらない愚直なものづくりを続けているエスビットにとっては、最近の流行やULなどといった思想やスタイルは、いまさらどこ吹く風のようなものにちがいない。消火や火力調整にはアルコールストーブに付属するフタをかぶせるのだが、フタについている取っ手がとても便利で、ゴトクの開口部から取っ手を持ってかぶせることができる。あまりに静かなので子どもも火が付いているのか心配になってくるほど。

 さて、このクックセット、子どもとハイキングに行って使ってみて初めて気がついたのだが、静かすぎてアブないのだ。ガスストーブやガソリンストーブであれば、ゴーッという自然界にはない異音で子どもも火が付いているというのがわかるのだが、あまりにも静かで自然な音なので、まさか沸騰中とは気付かずクッカーに顔を近づけてしまうのだ。タブレットを使っているときなどは無音に加え、無煙、無臭なので、なおさら火が付いている実感がわかないに違いない。
 それでも火が勢いを増してくると、静かながらも頼もしい音が聞こえてくる。ハイテクで効率の良い燃焼器具とは違い、アルコールストーブでお湯を沸かすひとときは、そよぐ風と同期する自然燃焼の心地よい音に耳を傾ける貴重な時間であり、シンプルや自由といった気分がなんとなく実感できる瞬間なのだ。はじめてストーブを買って、山にハイキングに行ってみたい、山メシを作ってみたいと思っている人は、アルコールストーブを使ってみるのもいいだろう。やわらかな炎とのんびりとした時間が過ごせるにちがいない。


 

 

 

 

エスビットは1936年に設立されたドイツのブランドで、固形燃料の代名詞ともなっている。タブレット型の固形燃料とそれがすっぽりと入るケース兼ゴトクは発売当時からほとんど変わることのなくロングセラーを続けている。

・985mlクックセット・アルコールバーナー付
●本体価格¥6,800+税
●サイズ:収納時H147×W128mm
●重量:430g
●メッシュバッグ付属

・LINDEN除菌もできる燃料用アルコール
●本体価格¥1,100+税
●500ml

・エスビット固形燃料
●本体価格¥600+税
●5g×16

【ギアレビュー取材協力:飯塚カンパニー】

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

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