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【A&F ALL STORIES】家宝となりうる調理器具。創業122年を誇るダッチオーブン「LODGE」の魅力
2018.01.16 Tue
A&F ALL STORIES
第5弾はキャンプを豊かに華やかに彩る「LODGE」のダッチオーブンについて
赤津孝夫会長が最初にダッチオーブンに巡り合ったのは30年以上前。飛行機の格納庫のように大きなアメリカのホームセンターでのことだった。
「ダッチはオランダの、って意味だし、オーブンは内側が箱型で周囲から熱を加えるものって思ってたから、展示してある鉄鍋を見て、どうしてこれがダッチなオーブンなんだ?って思いましたね」
やがてアメリカの友人たちとキャンプを楽しむうちに、その鍋に何度も出会い、ひとつの鍋が煮る・焼く(ロースト、ベイクともに)・蒸す・燻すなどさまざまなな調理に使えることを知った。
「よく考えてみたら、映画やテレビで見てたカウボーイのキャンプの風景。あの真ん中にあったのがダッチオーブンだったんです」
西部開拓時代、何もない荒野でカウボーイたちの生活を支え、開拓民たちの調理に欠かせなかったダッチオーブン。
「それはぼくらが憧れてた、アメリカのキャンプの象徴とも言える存在でしたよ」
こうしてA&Fでは1990年代中頃、鋳鉄製調理用具メーカー「LODGE(ロッジ)」のダッチオーブンを扱い始めた。
フィールドでのインタビュー時にもタープの下では火が焚かれ、ロッジのダッチオーブンが空腹を誘う素晴らしい香りを立ち上らせる。
じつはA&Fではロッジ以前にもダッチオーブンの販売をしていた。それは軽くて扱いやすいアルミ製だった。
「やっぱり鋳鉄製のダッチオーブンは取り回しが重いんですよ。だったら軽いほうがいいんじゃないかと思ってやりはじめたんです」
たしかに標準的なダッチオーブンは、それ自体で5kgからの重さがある。当時の製品は購入してもすぐに使えるわけではなく、いったん加熱して油をなじませる必要があった。さらに使い終わったらゴシゴシと洗い上げて、水分を飛ばすために再加熱。サビ止めに、しまう前にはもういちど油を塗らなければいけない。すべてにおいて手がかかる面倒な道具だ。
「それ故に最初はお客さんからも敬遠されました。ぼく自身はその手間が魅力だと思ってたけど、売り物としてはなかなか難しい。だからうちも最初は扱いの簡単なアルミ製を輸入したんですよ。だけどある日、ひとりのお客さんが焚き火で鳥の丸焼きを作ってて、ほっぽって遊びにいったら溶けて穴が空いてたって聞いて、なるほどなって。それはアルミ製品の扱い方としては間違ってるんだけど、使い方としては正解なんです。ダッチオーブンなんて、やわな使い方をする料理器具じゃない。焚き火の中に投げておいて、それでうまい料理ができあがる道具のはずじゃないかって」
アメリカではダッチオーブンをしてこういうのだそうだ。
『人が料理するのではない、鉄の鍋がおいしくしてくれるのだ』
ダッチオーブンというのは分厚い鋳鉄でできている。溶けた鉄を砂型に流し込む際、鉄の中には気泡が混じるが、この気泡が蓄熱効果を高め、熱の伝わりをゆっくりにしてくれる。さらに重い蓋がしっかり乗ることで内部の圧力を高め、素材から立ち上った水分は水滴となって蓋と鍋との隙間を適度に塞ぐ。こうしたダッチオーブンならではのメリットは、重い鋳鉄でなければ手にすることができない。
「だからね、鋳鉄製のロッジを扱うことにしたんです。やっぱり受け継がれてきてるものには理由がある」
使い込まれ、黒味を増してきたA&Fの社用ダッチオーブンたち。これらはまだ使用歴20年弱。この先、数十年は使えるというから驚きだ。
ロッジは1896年、ジョゼフ・ロッジによってアメリカ・テネシー州のサウス・ピッツバーグで創業された。以来、工場はずっとこの町にある。
「サウス・ピッツバーグは南東部の町なんですよ。本来のピッツバーグは北東部のペンシルベニア州にある、スティール・シティって呼ばれる製鉄の町なんです。ここから南に移住して、新しく製鉄の町を作った。だから、南のピッツバーグ」
製鉄を基幹産業としてできあがった地で、ロッジは120年以上に渡って鋳鉄製の調理器具を作り続けている。
「公開でない株式の調理器具メーカーとしては、アメリカ最古の会社です。使い込まれた鋳鉄製の調理器具は黒光りして、何を作ってもおいしい。使えば使うほど良さが際立ってくるし、製品寿命が人間の寿命よりも長いんです。だから家宝として子供から孫へと伝えられるほどですよ」
日本ではこうしたダッチオーブンのすばらしさは知識として共有されてはいたが、なかなか購入には結びつかなかった。
「とにかく、手がかかる道具だからね。当時の日本の遊び方には合ってなかったかもしれない」
しかし2000年ころに起こったRVブームがロッジの人気を後押しした。車で出かけるキャンプは道具の重さや大きさを気にせず、行った先での豊かな時間に焦点を当てることを叶えさせたのだ。
「男の料理なんて言って、お父さんが火をおこして重い鍋を軽々持ち上げて、ちょっとワイルドな見た目の豪華な料理を作る。これは家族の特別なイベントに登場する、ハレの一品ですよ。そういうときには、ダッチオーブンが欠かせないってことになってきたんです」
こうして多くの人がローストチキンやローストビーフ、ライ麦パンやポトフ、トマトスープといった料理を家族や友人とともに楽しむ、華やかなキャンプのスタイルができあがった。
「人ではなく、道具が作る」とされるダッチオーブンだが、腕に覚えのある人が扱えばその魅力はいっそう冴え渡る。疑いなくダッチオーブンは、野外料理という楽しみの中心的存在になりうる。sumi☆photo
「ぼくらが夢のように思っていた、焚き火を囲んで、みんなでおいしいものを食べて、たくさん話してたくさん笑う。そういうキャンプの真ん中にあったのがロッジのダッチーオーブンなんですよ」
この20年を振り返って、赤津会長はそう語る。
そして、こうした日本のキャンプスタイルの変化に合わせて、ふたつのムーブメントが起ったのだ。
ひとつは2000年代初頭、ロッジが煮込み料理の多い日本のマーケットに向けて10インチの鍋を深くした「10インチ ディープ」を日本の別注商品としてリリースしたこと。のちにこの製品はアメリカでも広く支持され、今や定番のアイテムとなっている。
ふたつめはここ数年のスキレットブームだ。もともとダッチオーブン自体、アメリカでは家庭内でもよく使われている。しかし、比較すればスペースも家族の規模も小さい日本では使いこなすことがむずかしい。それならと、より薄く小さなスキレットを提案したところ、一気に人気を呼ぶこととなったのだ。
毎日の生活のなかで使い込まれ、油と酸化鉄の被膜で黒光りするようになった鋳鉄鍋は「ブラック・ポット」と呼ばれ、その長い歴史と美しさから一種の尊敬を持って讃えられる。まさに時間と手間が育て上げる家宝なのだ。
「世の中のだいたいの製品は買ったときがいちばんよく、使っていくうちに劣化していきます。ところがロッジは逆で、買った当初は手間がかかる。しかし、使い込むほどにどんどんなじんで、扱いやすくなっていく。ぼくらもロッジを使う楽しさ、そこから生まれる喜びを知った。だから、こうした本物の道具を長く受け継いでいく豊かさを多くの人に伝えたいと思っています」
(文=林 拓郎 写真=伊藤 郁、sumi☆photo)