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製作時間30分、材料費300円の「ストロップ」で刃物を驚きの切れ味に!
2018.01.09 Tue
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
入門者にとって敷居が高い「刃物の研ぎ」。 身につけようと試みて、揃えるべき道具や技術の多さに尻込みした人もいるのでは?
確かにナイフは切れたほうがよいけれど、誰もが高い砥石を揃えて、ナイフを研ぎ減らしながら技術を身につける必要はないよな、とも思う。
最近は、簡易な構造でも十分な刃がつく研ぎ器も登場してきた。研ぐのが苦手な人は、こんな道具を活用して刃先を自分の作業に必要な鋭さに調えればいい。
そして、研ぎ器で調えた刃先には、ぜひ「ストロップ」(革砥)をかけてほしい。ストロップとは革のスエードの面にコンパウンド(磨き剤)を付けたもの。このストロップで刃先を擦るだけで、驚くほど切れ味が鋭くなる。
仕上げ砥石で研いだあとも、刃先には微細な凹凸がある。これをコンパウンドで平滑にすると、砥石で研いだだけの刃先よりも鋭くなるのだ。
ストロップを包丁にかければ、「ズッ、コン!」と力任せに切っていたカボチャやニンジンが「ストン」と切れるようになる。ナイフにかければ、繊維を折り割くように削っていた木片が、カンナをかけたようにスルスルと帯状に削れる。それぐらい、ストロップは効果がある。
そしてこのストロップ、市販されている棒状のものは1本3000円前後だが、自分で作れば材料費は300円ほど。製作時間も30分程度だ。かけたコストと手間に対して、素晴らしい効果が得られるので1本作っておいて損はない。
ということで、以下がストロップの作り方です!
用意した材料一式。全長30cm程度の木の棒、本革の端切れ、接着剤、ステンレス用半練りコンパウンド。どれもホームセンターで購入できる。本革はスエード面の毛足が長すぎず(短すぎもよくない)、密で揃っているものがおすすめ(写真の革はちょっと粗悪)。コンパウンドが売り場になければ、金属磨き剤の「ピカール」でも代用できる。今回は見た目重視でちょっといい木を使ったが、面がフラットなら値も付かないような棒でも十分に用をなす。
まずは木の棒の片側を握りやすい形に切り出してやすりがけ。「使えりゃいいよ」という実用重視派は、この作業は省いてもOK。
続けて、木の棒の幅広の面に合わせて、革を短冊状に切り出す。
接着剤で棒と革を接着して、クランプで挟み込んで固まるまで圧着。「接着剤が固まるのも待てないよ!」という気が短めの人は、接着剤ではなく両面テープで固定してもいい。
テーッテ テーッテ テテテー♪ 「ストロップ〜!」。今回ハンドルに使用した材はナラ。木部にオイルを塗ると自作とは思えない色気が出る。棒を整形せず、接着剤のかわりに両面テープで革を貼った場合は、着手から完成まで5分もかからない。
さて、ストロップの威力の検証に協力してくれたのは友人宅の出刃包丁。きちんと研がれているように見えるものの……。
研いだまま放置されていたので、刃先をクローズアップすると錆による虫食い状の腐食が見える(100倍)。
半練りのコンパウンドをすくったら、スエード面に塗り込め、刃先でなで付けるようにして革へとすり込む。水分が飛んでコンパウンドが革になじむと、削れた鉄で少しずつ色が黒くなり、スエードの面に光沢が出てくる。
コンパウンドがなじんだら、刃先を寝かせて弱い圧をかけつつ峰側を先行させて滑らせる(逆向きだと革が削れてしまう)。研磨が進むと、「ザリザリ」としていた感触が「サリサリ」になり、刃先から曇りがとれてくる。
再び刃先をクローズアップ! 組織の欠けは磨かれて滑らかに。刃先もきちんとそろっている(画面上側が刃)。
ストロップをかけると刃先の曇りが取れて、鏡面仕上げのような質感になる。それでは、手近な紙を切ってみよう! (友人宅の包丁で撮り忘れちゃったから家にあった種子包丁に選手交代。もちろんこれにもストロップをかけた)
「シィッパァーーーーーッ!」包丁がカッターへの転職を考えてしまいそうな切れ味に。魚をさばいても、刺身の切り口のシャープさが全く別物になる。包丁にストロップをかけたら、ぜひ玉ネギを切ってみてほしい。玉ネギをみじん切りにしても涙が出ないことに気がつくはずだ。玉ネギの組織を潰さずに断つので、目にしみる成分が外に出ないのだ。
アウトドア界の好事家たちは、粒度の異なるコンパウンドを何種類も使うことで切れ味を追求しているが、普通に使うぶんには、ステンレス用のコンパウンド一種でも十分。
入門者の場合、一生懸命仕上げ砥石で研ぐよりも、研ぎ器で研いでストロップを刃先にかけたほうがよく切れる刃が簡単につく。もちろん、砥石で上手に研げる人なら、軽くストロップをかければさらに刃先が鋭くなる。
簡単に作れて効果の高いストロップ。1本作ったら家中の刃物をギランギランに研ぎ上げてしまうこと請け合いだ。