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軽量、低容積でお値打ち!素潜り用のマスクは「台湾の謎マスク」がいいぞ

2018.07.31 Tue

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者


 謎マスクと出会ったのは、台湾の街角だった。

 場所は「海人興海 潜水訓練中心」。台北のはずれにあるダイビングショップである。フリーダイビングや魚突き向けの道具を幅広く扱っており、日本では流通していないメーカーのものもあって楽しい店だ。

 台湾に出かけるたびにのぞいていたが、あるとき、見かけないブランドのマスクを棚にみつけた。名前は「TOPIS」。まるで知らない名前だが、モノはよくできている。

 フレームレス(レンズを支えるフレームとスカートが一体となった構造)で内容積はごく小さい。レンズ面が目に近いため、2眼だが1眼なみの視界がある。スカート(顔に接するシリコン部分)は柔らかく、軽く吸っただけで顔にぴたりと張り付く。鼻の下のゆとりも十分だ。

 素潜り用のマスクは、レンズにまつ毛が擦れるほど、レンズが目に近いものがいい。たとえレンズが小さくても、レンズ面が目に近ければ視界は広くなり、マスク内部の内容積も小さくできるからだ。

 マスクの内容積は、浅瀬で遊ぶときには問題にならないが、深く潜るときに影響してくる。

 2〜3mも潜れば、鼓膜は水圧によって内側へと押し込まれる。これを解消するには、肺から鼓膜の内側へと空気を送り込んで鼓膜の内外の圧力差を調整しなくてはいけない。これがいわゆる「耳抜き」だ。

 鼓膜が内側に押し込まれるのと同じように、潜るほどにマスクも水圧で顔面へ押し付けられる。これも耳抜きのように鼻からマスクへ息を吹き込んで水圧とバランスをとるのだが、内容積が大きいマスクは内部に入れる空気の量も多くなる。

 内容積が大きいマスクでは、20mも潜ると肺の空気のほとんどをマスクに取られてしまい息が続かない。その点、内容積が小さいマスクは肺から送り込む空気の量を抑えられる。

 こんな理由から、素潜りには内容積の小さいマスクが向いている。内容積の小さいモデルはボディも全体に小さくなるので、水流の影響も受けず軽快だ。それほど深く潜らない人でも、マスクはコンパクトなものがいい。

 しかし、小さい内容積のために「鼻の下ゆとり」をケチってはいけない。早い段階でマスクの中に送り込んだ空気には酸素がたくさん残っている。突きたい魚がなかなか射程に入らない場合など、水中でもうひとふんばりしたいときには、鼻からマスクのなかの空気をングング吸ってはングング戻し、酸素を回収する。マスクのなかの空気で呼吸をするのである。

 このときに、鼻の下のスカートが鼻の穴に近すぎると、マスクのなかの海水(レンズの曇りをとったときにどうしても残る)も一緒に鼻から吸ってしまう。海水を鼻に入れたせいで集中力が削がれたり、水深20mでくしゃみをすることになるのはいただけない。鼻の下にはある程度の空間が必要なのだ。

「広視界で内容積が小さく、鼻の下に微妙な空間があり、しかも自分の顔に合う」。これが最上のマスクの条件なのだが、TOPISはすべてが絶妙だった。即購入して海で使ってみたが、使い心地は想像以上。これまでに使ったどのマスクよりも素晴らしかった。

 ところが私は、ほどなくしてTOPISを海で無くしてしまった。もう一度手に入れようと検索しても、世界のどこにもTOPISの情報がない。謎マスクは、謎だけを残して海の藻屑になってしまったのである。

 相棒を無くした私は、都内の店舗をまわってTOPISなみのフィット感をもつマスクを探した。しかし、どこにも彼女(※注TOPISのことだ)のようにぴたりと合うマスクはなかった。

 新しい伴侶を探し続けること半年。思いもよらない場所で私はTOPISと再会した。場所は渋谷の器材量販店。その片隅にTOPISは佇んでいた。しかし、再び出会った彼女は家柄も名前も全く違うものに変わっていた。

 彼女の新しい名前は「マカリィ」。今度の家は「ヘレイワホ」なるメーカーだという。刻印されたロゴは全く別物だが、それ以外は私が愛した姿のままだった。紳士的なやりとりの末、我が家へと連れ帰った(つまり、ふつうに買った)。

 ウッキウキの私は歯磨き粉でレンズの内面をゴッシゴッシ磨き上げた。購入直後のマスクには内部の曇りの原因となる油膜が付いており、ちょっと洗った程度では取れない。快適な素潜りを楽しむには、研磨剤でこの膜を徹底的に除去する必要がある(油膜除去に使う歯磨き粉はOra2がおすすめだ)。

 湯船にお湯を張り、磨き上げたマスクを付け、仰向けになって上半身を湯船につける。家と名前は変わったが、TOPIS改めマカリィの装着感は最高だった。いつまでも一緒に沈んでいたい。

 しかし私は、湯船の底で彼女の過去に疑念を抱いてしまった。どうにもおかしい。いくら考えてもこの作り込み加減は、コスパ優先のアジアのメーカーがめざす方向ではない。

 風呂から上がった私は、世界中のスピアフィッシング器材メーカーのサイトを巡り、マスクをさらえてみた。そして、ポルトガルの名門「Picasso」で彼女をみつけた。名家での彼女の名前は「Mikron」。魚突き用の低容積モデルという位置付けだった。

 TOPIS、ヘレイワホ、Picasso。どこがオリジナルで、どんな道筋を経て彼女が別々のメーカーから違う名前で世に出ることになったのかは私にはわからない。ざっくり調べた感じでは、私が最初に出会った台湾に秘密がありそうだ。

 とはいえ、どの家から出ていたって謎マスクの使用感は最高だ。元来私は、ブランドに頓着しないほうである。素晴らしいフィット感のマスクをみつけたことを喜び、ときには仲間に貸し出して自慢した。

 そのうちにわかったことがある。謎マスクはたいていの日本人にぴたりと合うようなのだ。私だけにぴったりな彼女ではなかったのである。

 正直なところ、大顔の私にはどんなマスクもちと小さい。謎マスクがどんぴしゃりに合うのはもっと顔が細い人だろう。

 謎マスクの価格は、どのブランドでも2500〜3500円。素潜り用マスクとしてはお値打ち価格である。入手については上記のキーワードで検索すればすぐに見つけられるはずだ(なお、Picassoの本国サイトでは「New Mikron」にマイナーチェンジした模様)。

 3つの名前をもつ謎マスク。ビギナーからエキスパート、小顔から大顔まで満足させる名品だと思う。

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