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登山、焚き火、沢登り、ブッシュクラフトに。重さも制作費も軽量級の「UL鋸」作ろうぜ

2018.11.21 Wed

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 アウトドアに入門した男児にとって、でっかいナイフや鉈は憧れの道具である。

 ああでもない、こうでもない、と思い悩んだ末に大枚をはたいて業物を手に入れ、喜び勇んで山野に出かける。そしてあるとき気づくのだ。

「俺の実力では、この鉈が活躍する場面なんて永遠にこないぞ」と。

 実は私も、やっちゃったクチである。持ち出す刃物はでっかい鉈からスタートしてだんだん小さくなり、今では安いナイフと小型のプライヤーを携行するようになった。
過去記事→日用ナイフは「コンパニオン」と「スクォートPs4」のコンビがいい感じですよ

 渓流釣りや遊びで山に入る限り、材を割ったり藪を払うといった、鉈が活躍するような作業はほとんど行なわない。

 焚き火なら薪の太さがまちまちでも問題ないし、薪を割らなくても焚きつけにちょうど良い太さの枝はいくらでも落ちている。一度しか通らない藪は、払うよりもすりぬけたほうが疲れない。野外では、自分の都合に自然物を合わせるより、自然物に自分を合わせたほうが効率がいい。

 もちろん、山に入れば鉈や斧がほしい場面はあるのだけれど、そのために1kg近い鉄の塊を持ち歩きたくはない。

 大型の刃物とは、獣を絞めたり山道を維持したり、風呂釜に入れる薪を整えるなど、野山の近くに住む人が自分の生活圏のなかで使うものなのだと思う。

 経験を積むうちに、鉈の代わりに持ち出すようになったのが鋸だ。

 見つけた薪が長すぎたり、土砂に埋もれているとき、ナイフ程度ではどうにもならない。タープの支柱にちょうど良い太さの枝も、ナイフで加工するのは骨が折れる。こんな場面では鋸の作業性が高い。

 そして、飛躍的に高まる作業性に対して、鋸は軽い。ケース込みでも重量は350g前後。鉈と比べて断然軽く、携行時の負荷とキャンプ地での作業効率を天秤にかけても、持っていく価値がある。

しかし、先日思いついたのである。

「これ、ハンドルを自作したらもっと軽くできるんじゃね?」

 ということで、今回はUL鋸の自作のお話です!文字が続いちゃったけど、沢とか鋸のイメージが手元になかったのでヤマメでひと休み。

 いろいろ試してみたところ、野外での雑作業に向く鋸の条件は

1. ある程度の刃長がある
2. 鋸歯がちょっと大きめ
3. 先端へ向かうにつれ下側にゆるく湾曲
4. 安い

といったところ。

 ある程度刃が長くないと、太い材を切るときに前後のストロークの余裕が取れない。刃長は30cm程度はほしい。生木や半腐れを切るときには、鋸歯が大きめのほうが早く切り進める。ブレードはゆるく湾曲していると、軽い力で引くだけでも材に食いついていく。そして、砂を噛んだ材を切っても惜しくない価格であることも重要だ。

 地域のホームセンターをうろつき、夜な夜なネットで鋸の替え刃を検索したところ、「神沢精工」のSAMURAIというブランドを見つけた。低価格でブレードの固定方法もシンプルだ。

 サイトで紹介されている「もっと早く出会いたかった鋸」というキャッチコピーのついた「一番」というモデルの惹句がすごい。

「鋸」の概念をぬり変えたまったく新しい発想ではるかに次元の違う切味と機能性を兼ね備えた究極の「鋸」です。

 具体的な性能はひとつもわからないが、なんだかすごい鋸であることはビシビシ伝わってくる。「一撃」という別のモデルのコピーもいい。

どんな条件下でも野武士のごとく豪快な切れ味です。

「ほほう、それでは究極の鋸と野武士のような切れ味では、どちらがよく切れるんですか?」などと思わせない勢いがある(思ってるけど)。

 これらに限らず、神沢精工では全商品を通じて血湧き肉躍る感じのネーミングとコピーが展開される。

「弁慶」というモデルの鋸がある。そして、高枝伐採用の「牛若丸」というモデルもある。薙刀をイメージしているなら、高枝のほうが弁慶で鋸が牛若丸じゃないのか!? そういうツッコミをいれているうちに、自分が鋸を買いに来たことを忘れてしまう。 もっと早く出会いたかったよ、神沢精工。

 話を戻そう。

 魅惑のラインナップから選び出したのは、「究極の鋸」として紹介されている一番シリーズの替え刃「GCM-301-MH」だ。

 しかし、これに狙いを定めたところでハタと気づいた。「アサリなし」と「アサリあり」なら、野外ではどちらの調子がよいのだろうか?

「アサリ」とは、ブレード本体の幅より、鋸歯が若干外へ向けて開いていること。アサリがあると切り進む溝がブレードの厚みより広くなるので、材や切り屑からブレードが締めつけられづらい。反面、切りしろが多くなるので引くときの抵抗も大きくなる。

 頭で考えても答えはでなかったので、「GCM-301-MH」というアサリなし替え刃に加えて、ほぼ同寸の「C271-LH」というアサリあり替え刃も購入して試してみた。

 「GCM-301-MH」(写真上、刃長30cm、¥1,717)と「C271-LH」(写真下、刃長27cm、¥1,654)。長さは3cmしか違わないが、アサリがある「C271-LH」はアサリがない「GCM-301-MH」より倍ちかい厚みがある。

 写真上がアサリのない「GCM-301-MH」、写真下がアサリのある「C271-LH」……と書いたところでどっちがどっちかわからなくなってきたぞ。以降、便宜的にアサリのある「C271-LH」を「アサリちゃん」、アサリのない「GCM-301-MH」を「タタミちゃん」とする。

 ハンドル用に用意したのは、6mm厚の合板と1mm厚の突き板。ブレードの厚みとほぼ同じ厚さの突き板を合板でサンドすることで、ブレードの収まり部分を作りだす。アサリちゃんの厚みが、タタミちゃんの厚みの2倍あることに気づかぬうちに、タタミちゃんの厚みに合わせて突き板を用意してしまったが、作ってみたらアサリちゃんも収まったので結果オーライ。

 適当な紙にガングリップ型の鋸のハンドルをトレースして型紙を作る。型に使うハンドルは、引く時に小指がかかるフック型になっており、なおかつ押す時に人さし指側も引っかかる形状になっているものがいい。引く時に指がかかると楽なのはもちろん、押す時にも指がかかるとケガをしづらい。鋸を押すときは力がいらないので握力をゆるめるが、その結果手が前方に滑って、人さし指を切る人は多い。

 型紙から切り取り線を写したら、ジグソーで合板を切り出す。突き板はハサミでカットしたほうが簡単だ。

 合板に突き板とブレードを重ね、ブレードの収まり部分を突き板にトレースしてカットする。収まり部分はなるべくきっちり写したい。合板製のハンドルは軽いが弱いので、遊びがあると破損しやすくなる。突き板の余分を切り捨てたら、合板の1枚に突き板を重ねて、ネジ穴の位置をマーキングする。

 マーキングした合板だけにドリルで穴をあけてから、合板2枚に接着剤を塗って突き板を挟む。クランプでこれでもかと圧着してひと晩放置し……

 先にあけた穴にあわせて、もう1枚の合板にも穴をあける。この順番で穴をあけると2枚の合板のネジ穴の位置が確実にそろう。先に2枚ともネジ穴をあける場合は、ボルトを通した状態で接着しないと穴がずれてしまう。穴をあけたら、ヤスリで形を整える。

 最後にブレードを挿入し、穴の径とハンドルの幅に合ったボルトとナットで固定して完成!

 完成重量はタタミちゃんが112g。

 そしてアサリちゃんが134g。

 ケースは軽さを優先してクリアファイルで製作。輪ゴムでハンドルに引っ掛ける。

  それではいざテスト! 対象は乾燥したカイヅカイブキ。目の詰まったかなり硬い針葉樹だ。直径がほとんど同じ部分を切り進めてみる。

 挽き比べて感じるのは、アサリちゃんの安定感。刃が厚いぶんだけ、ラフに扱ってもガッシュガッシュ切り進む。切ったあとの溝も広いので、切り屑と材に刃を押さえられない。反面、切りしろが大きいぶん力が必要だ。

 タタミちゃんは薄いぶん、押すときの扱いが繊細だ。力をかける方向を少しでも間違えば、「ペニョン、パキン!」と折ってしまいそうだ。また、切ったあとの溝が狭いので、切り進む面が捻れると刃を押さえる力が大きく働く。しかし、慣れた人が使えば、アサリちゃんよりかなり軽快に切り進める。

 結論としては、どちらを選ぶかは使い方次第。鋸を使い慣れた人は重量も使用感も軽いタタミちゃん、不得手な人が使うならアサリちゃんがおすすめだ。なお、どちらのハンドルにも問題はおきなかったが、合板よりも丈夫な木材を使ったほうが長く使えるだろう。

 ここまで読んで、山に鋸を持っていくことを勧めるだなんて、けしからん! と思っている読者の方もいるかもしれない。しかし、シビアな救助を行なっている山岳警備隊には、登山者に鋸の携行を勧める人もいる。

 ヘリで要救助者を吊り上げるときに、周囲の枝を落としてもらえると救助作業がしやすいというのだ。

 詳しくは登山ガイド・山田淳さんの『山田淳の山登り日記』の「長野県警山岳救助隊に聞いた、事故対策に登山者に持っていってもらいたいもの3つ」を参照されたい。

 ハンドルを自作すれば、UL鋸の制作費は2000円以下で重量は100gちょっと。沢登りや野遊びで活躍するのはもちろん、グループ登山でも1本あれば心強い。

 切れ味には太鼓判を押すけれど、自然は改変しないにこしたことはない。よく切れたって、使用は最小限で!

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