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【A&F ALL STORIES】ハンディライトといえば、誰もが「マグライト」を思い浮かべる。

2018.12.11 Tue


 A&Fの赤津孝夫会長が、おもしろいことを教えてくれた。

マグライト(MAG-LITE)ってね、コーラの瓶と同じように、このカタチで商標を取っているんですよ」

 立体商標として登録されているのは、単3電池を2本使う「ミニマグライト2AA」。ミニマグライト登場以前にはなかったその形状や、ニューヨーク近代美術館やベルリン国立工芸美術館などで永久コレクションになっていること、メディアへの多数の露出や販売実績が認められて、登録された。

 立体商標の登録を申請したのは、模倣品が多かったから。粗悪なコピーだけでなく、大手家電メーカーまでもが同じようなデザインのハンディライトを売り出していた。つまり、ミニマグライトは、それほどまでに圧倒的な存在だった。
アイコンでもある最もスタンダードなモデル。みんなはこれをマグライトと呼び、マグライトと聞けばこれを思い浮かべるが、製品の正しい名前は「ミニマグライト2AA」。単3電池(AA)を2本使用する。立体商標として登録されているのは、上の1984年に登場した電球仕様のモデル。下は2007年に登場した現行のLEDモデル「ミニマグライト2nd LED 2AA」。LEDユニットを搭載するためヘッド部分の形状が変わり、全長がわずかに長くなった。

 A&Fがマグ・インスツルメントの製品を扱い始めたのは、ミニマグライトが登場した直後のこと。赤津会長はハンティング用品を扱うショットショーでその存在を知り、創業者のアンソニー・マグリカを直接訪ねて交渉した。
極限の状況のなかでは「光」がいちばん必要とされるという信念の元、アンソニー・マグリカは、1955年にマグ・インスツルメントを創業した。最初のモデルが完成したのは1979年。それまでのハンディライトとは一線を画すクオリティを実現したマグライトは、警察官や消防士、軍人など、ライトの信頼性が時として命をも左右してしまうことがある職業の人間から絶大な評価を得て、ハンディライトのトップブランドへと成長を遂げた。

「ウチで扱いはじめたのは、1986年から。アメリカ以外での販売は、おそらく日本が最初です。日本に来たときに初めてコレを見たというフランスのディストリビューターが、ウチの製品だと勘違いして“フランスで扱いたい”と打診してきた、なんてこともありました(笑)」

 いわゆる懐中電灯が数百円で買えた当時、ミニマグライト2AAは5,800円もしたが、それでも飛ぶように売れた。そのころ、A&Fは新宿の職安通りに小さな店を構えていたが、1日1ダース以上売れることも珍しくなかったという。アメリカから飛行機で取り寄せてもすぐに売れてしまい、つねに品薄だった。

「日本人って、いいものを見極める目は持っているんだと思います。高くても品質がよければ大枚をはたく。当時の懐中電灯はプレスしてつくったぺらぺらのものばかりでしたけど、そういうものと比べてマグライトのクオリティは群を抜いていました。ものとしての魅力に溢れていたと思います」

 航空機に使われるものと同じ品質のアルミ合金から削り出した本体には、強度を高めるアノダイズド加工が施されていて、耐久性に優れると同時に美しかった。米粒ほどの電球で単3電池2本しか使わないのに驚くほど明るく、焦点調節もできた。ヘッドを外し、それを台座にすればキャンドルのように立てられた。エンドキャップには交換用の電球も入っていた。
ヘッドは台座になり、キャンドルのように立てて使うことができる。
「マグリカさんは、いいものを作れば絶対に売れるという強い信念を持っていました。すごいのは全部自社でやっていること。削り出しを行なう工場の規模は、いまやアメリカでも一番です。本体のアノダイズド加工も自社でやっています。電球もオリジナルなんです。そのぶん、LEDへの切り替えは、少し遅れちゃったんですけどね」

 マグライトは世界各国の軍隊や警察、消防などで使われており、マグ・インスツルメントは今も電球の生産を続けている。交換用電球の取り扱いはA&Fでもやめていない。古くからのユーザーへの対応はもちろんだが、明るすぎず白飛びしない電球は眩しすぎないのが利点で、医者が愛用していたり、ワインの澱を見るためにソムリエが使っていたりと、一部ではいまだに現役で活躍しているそうだ。

 その一方で、主力の製品はすべてLEDへと切り替わった。ミニマグライト2AAもLED仕様になった。LEDのユニットを搭載するためヘッドのカタチがわずかに変わったが、単3電池2本を収める本体は一緒。見た目の印象も変わらない。その登場からいままでがそうであったように、これからも、ハンディライトといえば、アウトドアで遊ぶ人はこのミニマグライトを思い浮かべるだろう。

【文=伊藤俊明 写真=伊藤 郁、A&F】

 
 


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