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低温に強く高出力でコスパ抜群! 雪山ガイドにも愛用される「燃料式カイロ」を再評価したい

2019.01.31 Thu

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

今回はハクキンカイロの「ハクキンカイロ」あるいはジッポの「ハンドウォーマー」といった、ベンジンを燃料としたカイロについて語らせていただきたいと思います

商品としては「ハクキンカイロ」が圧倒的に有名ですが、Akimamaの手元にあったのがジッポ製ということで、写真はこちらを。とは言え、不正確な情報ながらジッポのハンドウォーマーはハクキンカイロのOEMという話もまことしやかにささやかれており、それを裏付けるように火口のサイズはピッタリ同じ。詳細は後述します

 

1)使い捨てカイロの否定ではない
 決して「アウトドア好きは自然を大事にするから、使い捨てを否定する」といった近視眼的な論点ではありません。使い捨てカイロには使い捨てカイロにしかないメリットがあります。たとえば傷病者の手当や被災地では、使い捨てカイロはアリアリのアリ。同じように、燃料式カイロには燃料式カイロならではの大きなメリットがあります。ので、その部分を再考することで、この偉大な発明を再評価したい。その結果として余計なゴミが減ったりすれば、環境負荷に対する納得度もアップするのではないかと思っています。
マイナス20℃の中でスノーボードをしていても胸元にこいつが入っていれば大して厚着をしなくても大丈夫。厚着ではないので動きやすく、運動量が上がったときの体温調整もしやすい。ある意味、発熱量の大きな暖房器具を携えることは、レイヤリングをスマートにする手段のひとつといえます

 

2)何よりこいつは楽しいのだ
 まず燃料式カイロの仕組みを知っておきましょう。と言っても、大きなポイントはひとつだけ。
・直接なにかを燃やしているわけではない
ということです。

 燃料式カイロは気化したベンジンがプラチナ(つまり白金ですね)の触媒作用によって発する酸化熱を利用しています。使い始めるときに火口(ほくち)をライターで炙りますが、これは火を点けているのではなく、プラチナを酸化反応が始まる温度まで加熱しているだけ。いわばスターターとしての加熱です。ですから使用中も火気はなく、服や荷物に火がうつる、なんてことは起こりません。

 この燃料式カイロが楽しいのは、使うべき時間を予想して、それに応じた燃料を注いでおくことです。ハクキンカイロやハンドウォーマーにはミニチュアのじょうろのような燃料計がついています。じょうろ一杯で約12時間燃焼し、カイロにはじょうろ2杯、つまり24時間分の燃料を入れておくことができます。

 どのくらいの時間、稼働させるのかをあらかじめ考えて燃料を注ぐ。しかる後に、火口をライターで炙って始動。こうした手順のひとつひとつが、マニュアルトランスミッションの車を運転しているようなワクワク感を与えてくれます。

左上/一日の行動ならじょうご半分の6時間分を入れておけばじゅうぶん。今日は長くなりそうなだな〜〜、という日でもじょうご一杯分を染み込ませればOKです
右上/火口を着けたら、しばらく置いてベンジンが十分に気化するのを待ちましょう。しかるのちに加熱することで酸化反応が始まって発熱し始めます
左下/発熱反応が始まった火口はかなり高温になるので、直接触ったりしないようにしてください。発熱状況は、フタをかざしてみるとわかります。ふわっと曇ってきたら発熱は始まっています
右下/カイロ自体がかなり熱くなることと、酸素の供給量で発熱量をコントロールする、というふたつの面から専用の袋に入れて使用します

 

3)タフで高出力
・極低温を気にしない
 筆者は主に厳冬期の北海道で燃料式カイロを使っていますが、冷え切った指先を温めることはしばしば。その際の気温は−20℃になることもあります。そんな低温下でも発熱が止まることがないという点は、使い捨てカイロにはない絶大なる信頼性です。
吹きっさらしの中でクライミングスキンを着けたりしてると、指先はチンチンに冷えてしまいます。そんなときにもカイロがあれば安心感は段違い。長期の縦走や釣り、星空観察など、燃料式カイロが役立つシーンは数え切れません

・ハイパワー!
 ハクキンカイロのホームページによると、その発熱量は使い捨てカイロの13倍だそうです。何と比較しての13倍かはともかくとして、実際に使っている感覚として使い捨てカイロとは問題にならない発熱量を体感しています。どかんと重量感のある暖かさは、燃料式カイロならではのパワー感です。

・長時間稼働
 前述したように、カイロには満タンで24時間分の燃料を入れておくことができます。こんなにも長い時間、ずーっと温め続けるというのは、使い捨てカイロには難しい芸当。丸一日、何らかの形で指先や冷えた身体を温めることができるなんて、真冬のフィールドでは特別な安心感に繋がります。

 

4)ランニングコストが呆れるほど安い
 やはりいちばんのメリットはここにあります。6時間ほど使える使い捨てカイロをまとめ買いしても、1個あたり20〜30円はするでしょう。場合によっては100円近くすることもあります。が、ベンジンなら6時間あたり、つまり6ccの燃料代は10円程度。

 ハクキンカイロやハンドウォーマー本体が2000〜4000円で売られていることを考えると、燃料式カイロは20〜40回使えばある程度元がとれる計算です。それに使い捨てカイロを40回使ったとして、その後に出るゴミの量と、その捨て方が自治体によって異なるので旅先によってはゴミ出しのタイミングをはからなくてはならない、あるいはシンプルに燃えるゴミに出すことができない、という事態を考慮すれば、燃料式カイロはコスト面だけでなく精神的にも穏やかです。

 

5)ま、欠点もある
・使い始めたらアクセルは固定
 途中で発熱量を調整することはもちろん、途中で消すこともできません。気温や運動量によっては暑すぎることもあります。そういった際には内ポケットから出して、外ポケットにしまうなど、収納場所で調整するのが基本です。

・匂いが気になることも
 ベンジンを気化させるという構造上、内ポケットにしまっていると時々胸元にベンジン臭が立ち上ってきます。とは言え、着ているものがベンジン臭くなるようなことはありません。慣れれば問題ではありませんが、ベンジンの匂いが苦手という人には辛いかもしれません。

・消耗品に注意
 ひとつ見逃してはいけないのが、発熱の要となる火口は消耗品だということです。経験的には100日程度の使用で、発熱の効率が下がってしまいます。ので、その際には火口を新品(800円程度)に交換することをオススメします。
燃料式カイロの火口は定期的な交換が必要になります。目安としてはシーズンごとに新品、が理想的。で、ジッポのハンドウォーマーであっても、火口はハクキンのものがビタビタではまります。しかもハクキン製のほうが立ち上がりが早く、ちょっとライターで炙るだけでスッと発熱反応が始まります。火口がハクキン製になると燃料もハクキンのものが相性も良いようで、イヤなベンジン臭が低減されているような気がします

 

結論
 こうした特性と、近年の電子機器のバッテリーが低温に弱いことを重ね合わせて、燃料式カイロは雪山ガイドさんたちがiPhoneに代表されるデバイスを保温する際にも利用されています。特に雪崩ビーコンを使用するシーンでは、ビーコンと電波を発する携帯電話はある程度離しておくのが大原則。そこでガイドさんの中には、iPhoneをバックパックにしまうこともあるそうです。が! バックパックの中は−10℃、なんてこともザラです。そうした際、冷やしたくないデバイスをひとまとめにして燃料式カイロで保温し、性能低下や電源切断を防いでいるというわけです。

 立ち仕事や外での作業など日常にも役立ち、条件の厳しいアウトドアでも高発熱を保って信頼性も高い。それに長期の山行でもゴミが出にくいなど、燃料式カイロならではのメリットは数え切れないほどです。まだまだ寒い日が続きます。どうせならゴミが出なくて低コストな方へと、ここいらで切り替えてみるのもいかがでしょうか?

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

スノーボード、スキー、アウトドアの雑誌を中心に活動するフリーライター&フォトグラファー。滑ることが好きすぎて、2014年には北海道に移住。旭岳の麓で爽やかな夏と、深いパウダーの冬を堪能中。

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