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触れることで時を知る「さわる時計Bradley」。便利さとは真逆の選択に、究極の美しさを発見
2019.04.09 Tue
渡辺信吾 アウトドア系野良ライター
雪山でのキャンプや登山の夜。テントの中でふと目がさめる。外はまだ暗い。
「今何時だ?」と思うも、シュラフから身体を出したくないほど寒い。
そんな場面に遭遇したことはないだろうか?
暗闇の中でも、灯りがなくても、時間がわかる時計があれば……。
Eone(イーワン)の「さわる時計Bradley(ブラッドリー)」ならそれが可能だ。
この時計が作られたのは、視覚障碍者の問題を解決するということがきっかけだったという。しかしそこから生まれたのは、障碍の有無を問わず、使う人を選ばない、すべての人のための時計だった。ブランドの名前は「Everyone」の略語としての「Eone」に由来する。
この時計には針がない。風防もない。フェイスには立体的な目盛りが配され、外周部には時を表すボール、フェイスの内周には分を表すボールがはめ込まれている。時刻によって内蔵された磁石が動き、それぞれボールは磁石の位置にとどまる。
実用的かと問われれば、健常者にとっては否と言わざるを得ない。しかしこの洗練された美しさを前に実用性を語る必要があるだろうか?
昨今の時計は、スマートウォッチに代表されるようにあらゆる機能を備え、時計の概念をはるかに超えたウエアラブルデバイスとして進化してきた。その恩恵は計り知れない。実際、身につけてみてそれを実感している。しかし、時を知るという目的を極限までシンプルかつミニマルに突き詰めた結果生まれたこの美しく洗練されたデザインの時計にもまた、心惹かれる自分がいる。それは多分に美的価値観によるものだが、同時に本質的なものに近づくことへの憧憬かもしれない。
文明へのアンチテーゼ?
現代社会へのアイロニー?
ITまみれの生活からのエスケープ?
我々がアウトドアをめざすモチベーションにも通じるものがあるようだ。
実際に、この時計を使ってみた。
目をつぶったまま本体の外周を指でなぞっていく。そして内周も同様に。ボールの位置は特定できたものの最初はそこが何時を示しているかわからない。しかし、しばらく繰り返していくうちに、指先の感覚が研ぎ澄まされていく。何分まで正確にわからないまでも、およそどの目盛の間にボールが止まっているかがわかるようになる。「5時20分を少し過ぎた頃か?」と。何かの感覚が制限されることで、別の感覚がそれを補うように機能する。本能が呼び覚まされるということか。文明に飼いならされた我々には新鮮な体験だ。
この時計をアウトドアで積極的に使うことを推奨しているわけではないが、視覚ではなく触覚で時を知るという体験をこの時計が教えてくれるだろう。
いろいろと語ってしまったが、そんな能書き以前に装飾品としての価値も十分高いなおしゃれ時計だ。基本的な構造は同じだが、フェイスやベルトにもデザインバリエーションがあり、自分の好みのタイプを選べる。
興味のある人は、EoneのWebサイトを訪れてみては。
(画像提供:Eone Japan)