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【ギアレビュー】中島英摩、サロモンを履いて京都一周トレイルをゆく
2019.05.20 Mon
中島英摩 アウトドアライター
「次はどこに行くんですか?」
そんな風に聞かれることが増えた。すっかり旅の人というイメージになったのか、普段それなりに働いているんだけど、一年中世界のどこかを歩いていると思われがちだ。でも、次なる冒険を期待されているのだとしたら本望だ。
そんなわたしが選んだ次なる目的地は、京都。
何を隠そう、京都はわたしの故郷。京都で生まれ、京都で育った。最近は町が観光客で溢れかえり、飛び交う言語は英語か中国語が多くてまるで異国のようだ。それでもわたしは京都のお寺、神社、町、文化、独特の風情がぜんぶ好きだ。
かつての都、平安京として栄えた京都の中心部は山に囲まれた広大な盆地で、山に囲まれている。それをぐるりと一周できるロングトレイルが「京都一周トレイル」だ。京都に住んでいたのは18歳までで、高校を卒業して家を出た。その頃はアウトドアなど興味なく、遠足程度でしか山登りをしたことがなかった。山をやるようになってからは、いつか歩きたいと思いながら、いつでも行けるからと後回しになっていた。2018年に日本を襲った爆弾低気圧による台風で、京都の山々がかなりのダメージを受けたと聞いて、そういう機会だからこそ「そうだ、今だ。歩きに行こう!」と思い立って故郷へ向かった。
京都一周トレイルは、京都の東南、伏見稲荷から比叡山、大原、鞍馬を経て高雄、嵐山、苔寺に至る全長83.3kmのコースと京北地域をめぐる全長48.7kmのコース。エリアごとにガイドマップが用意されており、時間や距離が細かく記載されている。ロングトレイルの中では初心者でも歩きやすく整備されているほうだと思う。ゆっくり歩くなら、5日間くらいだろうか。わたしは超健脚カメラマンと共に2泊3日の計画を立てた。
京都の町をぐるりと囲む山を辿る京都一周トレイル(今回は伏見稲荷まで)。地図製作=オゾングラフィックス
初日がクライマックス? みんなが知らない静かな京都
1日目:上桂駅〜鞍馬駅(西山・北山東部コース)
「苔寺のあたりは地味だから、嵐山からでもいいと思う」
京都一周トレイルに通い慣れた友人に事前にルートの相談をしていた。一般的には伏見稲荷をスタートして反時計回りで歩くように設定されているが、観光客でごった返す伏見稲荷大社の千本鳥居を終わりにした方がフィニッシュ感を得られていいという勧めで時計回りに歩くことにした。西側の見どころは、嵐山だろう。こちらも観光客に人気のスポットだ。その手前に5.2kmほどのトレイルがある。これを省略してもいいのでは?と言われたものの、やっぱり端から端まで歩きたい願望を抑え切れずに、東京始発の新幹線で上桂駅へ向かった。
上桂駅の駅が京都トレイルの起点(あるいは終点)になっている。
苔寺の脇から入る松尾山は、聞いていた通りの地味な山だ。でも針葉樹林が少なくなんとなく明るい。歩きやすく、たまに見える眺望もいい。大半が針葉樹林に囲まれた京都一周トレイルでは、ここだけ独特な雰囲気だった。
松尾山を降りると道ゆく人はみんな外国人!地元のおっちゃんが「ハロー、バンブーパーク、あっち!ここじゃないよ、あっちあっち!」と地図を片手に困り顔をしている観光客に話しかけている。その人の流れに乗って歩き、渡月橋に着く頃には観光客に埋もれていた。
登山口にテイクフリーのりんごを発見! 近所の方が育てたものらしい(左上)。
「せっかくだから団子でも食べますか」
一大観光地の嵐山に立ち寄ったのだから、ちょっとだけでも雰囲気を味わいたい。カラアゲ、焼きそば、ソフトクリームなど全く関係ない屋台の呼び込みを避けながら、それっぽいお店で買ったみたらしだんごを頬張る。薄味で甘いタレがいかにも京都っぽかった。
“バンブーパーク”、竹林の小径は大変な混雑だった。テーマパーク顔負けの行列で、ほとんど動く様子もなくゾロゾロ、ほんの数100m通過するのに随分な時間を要してしまった。まいったなぁ、今日の行程長いのになぁ。必死で自撮りする観光客、竹ってそんなにめずらしいのだろうか。だいたい、それ、ほとんど顔しか写ってないよ。
嵐山からトレイルに入って数分のこと。
「えええ!なにこれ!」
渓流にかかる橋とトンネルを抜けた先にあった小さい「展望台」の看板に沿って入った場所に驚いた。荒々しい渓谷に、蒼く輝く大きな川。堂々とした流れは迫力がある。
保津川付近の渓流沿いは岩歩きで楽しい。混雑していない、静かな京都。
「保津川下りか!」
昔ながらの急流下りが行われる保津峡だ。そこから先はその流れの小さな支流、苔むす渓流沿いをしばらく歩く。京都トレイルって低山ばかりで、てっきり針葉樹林の里山ばかりだと思っていた。我ながら京都に失礼だ! これが京都か、京都にこんなところがあったなんて! 透き通る川に見惚れながら歩き応えのある岩場を進む。看板の文字に目をやる。
「米買道―村人がかつて米や生活物資を買いに利用した……」
いやいやこんな道、米俵担いで歩いたら川に落ちるでしょうよ! 昔の人はすごい、修験道や古道を歩くたびに思う。それにしてもここはなかなかだ。京都市内は碁盤の目だっていうのに。今回の旅でここがクライマックスと言っても良いくらい美しい景色に感動しきりの区間だった。
清滝の集落に出て、ちょっと焦り始めた。のんびり歩いていたらお昼ご飯のタイミングが怪しくなってきた。わたし的、初日のメインコンテンツは「山の家 はせがわ」と決めていた。京都一周トレイルコース上にある山奥の洋食屋さんだ。山より団子、団子よりエビフライ!
エビフライのために急ぐ。すでににやけ顔。お腹減った〜!
営業時間に間に合わせるべく早歩きモード発動。台風の倒木や崩落の影響で迂回路を通ったり、下りや平坦な場所はちょっと小走りしてみたりして、3日間の荷物が詰まったバックパックの重さなどお構いなしにいつの間にやらトレランと化す。走れる格好じゃないだろうと思っていたが、バックパックは背中に吸い付くような感覚で、腕振りや腰の動きに連動してほとんど揺れない。ちょっと小走りしてみたことで、このバックパックのバランスのよさに改めて気付く。登山用の30ℓを超えるバックパックは走ろうものならショルダーごと肩から浮いてゆっさゆっさと揺れることが多いが、ストラップをしっかり締めることで揺れがすごく少ないことに驚いた。走ってそれだから、歩いていて快適だったことに納得する。違和感がないものだから気付いていなかったほどだ。そんなことも後押しして、レストランまで一目散に急いだ。
間に合った〜!
食への執念は異様なまでの底力を発揮するから笑える。よく「美味しそうに食べるよね」と言われるわたし。ルポ取材ではだいたい満面の笑みでご飯にがっつく写真が使われるから、すっかり食いしん坊キャラになってしまった。だって疲れた時のご飯って、幸せなんだも〜ん。
はせがわの超ビッグなエビフライ。身が詰まっていてぷりっぷり。エナジーチャージ、必要でしょ。
満腹になったところで再スタート。嵐山から鞍馬まではエスケープルートが少ない。水場もトイレも少ない。いくつかある下山路も、下りたはいいが電車の駅は遠く、バス路線も本数は多くない。この区間をどういう風に歩くかは山行計画の上で大事だと思う。はせがわ以降は、台風の影響でかなり森が荒れていた。鉈を持って数人で整備をする人達に出会った。道標も細やかで歩きやすい京都トレイル、丁寧な整備には頭が下がる。倒木を乗り越えたり潜ったりして迷うことなく二ノ瀬に出た。
「もういっちょ行っときますか」
鞍馬発の電車の時間に合わせて二ノ瀬からゆっくり歩く。ちょっと肌寒くなった夕暮れ、鞍馬寺に辿り着いて1日目の行程を終えた。
鞍馬駅から電車とバスを乗り継いで市内で宿泊。町と山が近い京都ならでは。
鞍馬から電車を乗り継いで、京都市内の宿へ。ホテルは高騰し、一年中予約が取れない京都。シンプルな山旅ならゲストハウスが便利だ。オープンしたばかりだという「PBP Hostel Kyoto」。フロントが英語だったりしてね!なんて冗談のつもりで話していたら、スタッフが外国人だった。海外旅行者が喜びそうな和風モダンな内装に畳の半個室。荷物整理をして、翌日に備えて早々に眠りについた。
2日目:京都一周トレイルの“山場”と京都イチの夜景スポットへ
鞍馬駅〜貴船神社〜銀閣寺、銀閣寺〜蹴上(北山東部・東山コース)
京都一周トレイルのガイドブックには縦断面図(標高の高低図)が掲載されている。今回入手した4冊のうち、明らかに大きなアップダウンが一目でわかるのが、大原を経由する鞍馬〜比叡の区間だ。初日から30km以上歩いてそれなりに脚は疲れていた。その足で核心部を越える。ただし比叡山まで行けば、その後はエスケープしやすいため、どこまでいくかの選択肢は自由だ。ひとまず銀閣寺を目標に2日目をスタートした。
貴船神社は不思議なパワーが満ちている、そんな噂を聞いて、鞍馬の駅からコース外の貴船神社に立ち寄ることにした。延々と続く石段が朝イチの重い体に響く。鞍馬寺から入り、奥の院魔王殿を経て貴船神社に出たところで力尽きて思考停止。鞍馬寺の奥の院と貴船神社の奥の院を間違えたまま、参拝して満足して貴船口までロードを駆け下りた(貴船神社からさらに先に貴船神社奥宮と貴船神社のカツラがあることは、帰って地図を見返してから気付いた)。
鞍馬駅すぐそばの鞍馬寺や貴船神社は参拝するには、なかなかの急階段を登らなければならない。
さて、いよいよ核心部。取り付きのダートもなかなかの傾斜で、簡単には登らせてくれない。今日はカメラマンの上田さんが調子良く、どんどん前を進んで引っ張ってくれる。
「カメラマン、誰がいいかな?」
そう言われて指名したのが上田さん。トレイルランニングの連載で2年近く一緒に仕事をしていて、カメラを抱えながら、選手と一緒に全コース完走しちゃうくらいの健脚だ。
「京都一周トレイルを歩くんですけど、荷物全持ちで早歩きすれば3日で踏破できるんですけどどうですかね?」
というだいぶ乱暴な発注にも「行きたい!」という前向きすぎるLINEが秒速で返ってくる、いわゆる変態の類に入る人だ。念の為言っておくと、変態は最上級の褒め言葉だ。初日はややお疲れだった上田さん、今日は妙に速いもんだからなぜだろうと思っていた。
「このラムネめっちゃ美味しいねん!」
そういって、個包装されたパステルカラーの可愛らしいラムネを高速でいくつも口に放り込んでいる。お気に入りのラムネを食べたら、みるみる元気になったらしい。なんじゃそりゃ、と拍子抜け。たぶん数百円のラムネだと思う。コスパがいい人だ。明日まで残しておいてほしいな、と思いながら上田さんに引っ張られて歩いた。
水井山までの登りはハードだった。とにかく急な尾根を息つく暇なく登り続ける。京都一周トレイルを甘くみてはいけない、険しい山道に内心ウハウハしながら登りに登った。
「かっこよく登ってる感、出しておいてもらってもいいですか」
数日前に降った雪がうっすら残る山頂付近。大原から先はかなり登りごたえがある。
団子とかエビフライとかで喜んでいる写真ばかりだと山行ルポにならない。登っている時も一応考えているんですよ、見栄えをね。ヤラセじゃないですよ、本当にキツかったんだから!
おかげさまで真剣に登る姿を披露できたところで、かすかに雪が残る水井山、横高山に到達。よしよし、山場は越えた。下りは何本もの大木がなぎ倒されるように横たわり、道ごとひっぺがされたような状態だった。もう元のトレイルがどこだかわからない。それを避けるようにして、新しい木段が杭打ちされていた。崩落でやや際どいところが多少あったものの、難なく歩くことができた。どれだけ骨の折れる作業だっただろう。観光地だけじゃない、京都の自然を守ってくれているのは地元の人々だ。
奥比叡ドライブウェイというドライブにぴったりな気持ちのいい道路に沿ったトレイルを経て、なんだか人が増えてきたなと思ったらいつの間にか比叡山の境内に入っていた。比叡山延暦寺は京都が誇る世界文化遺産だ。そこを通ることができるトレイルというだけでも十分に価値が高く、貴重だ。京都の文化溢れるトレイルを、もっと外国人にも歩いてほしいものだ。
まだ2018年の台風の壮絶な爪痕はあるものの、迂回路も含めて急速に整備が進んでいて驚いた。
見晴台からは前日に歩いた山々が見えた。標高約800m、京都一周トレイルの最高地点。町は遥か下だ。お腹ペコペコで比叡山から銀閣寺までの長い下りを歩いて、久しぶりの町中に出た。ご褒美発見! 桜餅! 関西と関東で桜餅の形が違うらしい。桜色に染まる哲学の道の木の下で、わたしの知っている桜餅に舌鼓を打った。
関西の桜餅。甘さが優しくて繊細。久しぶりに食べる故郷の和菓子の味は最高。
「朝焼けにするか、夜景にするか、どうしましょうかね」
わたしたちの話題は、大文字山の景色をどのタイミングで見るかということだった。大文字山は京都の伝統行事「五山送り火」が行われる山のひとつ。お盆に御先祖様を送る宗教行事で、京の夏の風物詩でもある。大文字山の山頂付近には五山送り火の火床があり、そこからの景色は市内を一望できる眺望で、京都イチだと思う。
「ナイトトレイル、行っちゃいますか」
宿に重い荷物を置いて、再び銀閣寺へ向かった。夕方には土産物屋も閉まり、続々と町へ帰っていく人々。観光客の流れに逆らって、銀閣寺の裏手からトレイルに入った。影を背負って登ること1時間弱、火床へ着いた。
やわらかく淡い光に包まれる京の町並み。2日間かけて歩いてきた山々へゆっくりと沈んでいく夕日。澄んだ空気が清々しく、眺めているだけで連日の疲れがするする身体から抜けていく感じがした。マジックアワー、魔法のようだ。
大文字山の山頂から少し下がったところにある火床は絶景スポット。
夕日が山の向こうへ姿を消して、満足いくまで夜景を堪能した後はナイトトレイルへ。ヘッドライトを点けて、現在地とルートを確認しながら夜の森をいく。トレイルランニングのレースでは夜を越えることが多いけれど、さすがのわたしでもナイトハイクはほとんどしない。道を間違えないように、そろりそろりと。蹴上を終点に2日目を終えた。
3日目:神社仏閣は山にあり、有名観光地の裏側を歩く
蹴上〜伏見稲荷(東山コース)
3日目になり、だんだんわかってきたことがある。これまで通ってきた山々の多くは神社仏閣の一部であることが多いようだ。例えば比叡山延暦寺は山の中にあり、境内を全部歩くだけでもなかなかの登山だ。京都は山そのものに宗教的な歴史があるところが多い。お寺や神社の裏から山に入り、また次のお寺や神社から町に出る。
蹴上からもまたお寺を繋ぐようなルートだ。世界文化遺産「清水寺」の真裏にあるトレイルも通る。清水寺の裏に登山道があることをどれだけの観光客が知っているのだろう。
とくに景色はない清水山。でも町の喧騒を離れてちょっとハイキングするにはちょうどいい。
2日間でずいぶんと距離を稼いだことで、3日目はウィニングロードも同然、ゆっくりゆっくり歩いてもすぐに着いてしまそうなほど易しいコースだった。アップダウンも少なく、次々と目印の道標をクリアしていく。気付いた時にはすでに清水寺の裏を通り越していた。あまりにもあっけない清水山の山頂に戸惑いを隠せなかったが、なんにせよ、混雑した観光地の裏でこんなにまったりと静かな京都を過ごせるのは優越感があった。
今熊野のあたりは閑静な住宅街で、これまで見た桜のなかでも一番立派な枝垂れ桜に出会った。どこに行っても桜の周りには人だかりで、落ち着いて風情を感じられるようなところなどないと思っていたけれど、これもまた初めて見るわたしの知らない京都の景色だった。
突如現れた立派な枝垂れ桜。誰もいなくてしばし独り占め。
持て余した時間で、今熊野観音寺に立ち寄った。今熊野観音寺は弘法大師空海による開基とされているそうで、弘法大師が祀られていた。書の名人、弘法大師。お参りしておかねば。そして、流行りにのって御朱印帳を始めたものの、持ち歩く癖がないもんだからなかなか集まらない。紙に書いてくれることを知ってこの旅で初めてゲットした。散々神社仏閣を通ってきたのにね(笑)
山歩きや旅の時は、ご朱印帳を持ち歩かずに紙に書いてもらうのがいいかも!
さらに先へ進んで赤い鳥居が並んで見えたら、伏見稲荷大社の合図。山の中の急階段と鳥居の回廊は、伏見稲荷大社のシンボルだ。稲荷山山頂(一の峰)まで登って、旅の最後のピークとなった。
桜舞い散る春の京都、どれほど混んでいるかと思いきや案外渋滞せずに伏見稲荷大社を巡ることができた。総距離80km以上、自分の脚で歩いたあとのわが故郷の町はいつもとちょっと違ってみえた。やっぱり京都はいい町だ。
まるでフィニッシュゲートをくぐるかのような千本鳥居が旅の終わりにふさわしい。
京都一周トレイルをともにしたギアたち
今回の京都一周トレイルでは、バックパックはアウトウィーク、シューズはアウトライン、パンツはウェイファーラーパンツで挑んだ。パック、シューズ、パンツはフットワークに直結する3アイテムだと言える。そして、着用していて目立つアイテムでもある。いずれのアイテムも色味のトーンが統一されているのは嬉しいことで、しかも派手すぎないシックなカラーはわたし好み。ウィメンズアイテムの多くはピンクとかイエローとか、やわらかくて可愛らしいカラー展開が多いがキャラ的に全くもって似合わないのが常々悩み。だからこういうガチすぎないけどキラキラしてないデザインって案外貴重。
登山用のギアやウエアというと、屈強でどんなシーンにも対応できるものが多い。それはそれで素晴らしい。今回の3つのアイテムの特筆すべき点を挙げるとすれば、トレイルランニングなどのアイテムに精通したサロモンだからこその“ゆるっとハイキングよりもちょっとアクティブな動きを伴うシーン”で使い易い軽さとギミックが盛り込まれている部分じゃないかと思う。実際にバックパックやパンツにはトレイルランニングギアのノウハウが活用されている部分が多い。ちょっと小走りくらいできるものなら、歩きならそれ以上に十分快適という印象だ。
《バックパック/OUT WEEK》
背中に吸い付くような感じは、このバタフライのような背面構造の仕組みにあった。また、大容量のフロントポケットは、このあと紹介するパンツに使われているのと同じ素材で、4WAYストレッチを使用している。
3日間の行程で、どのサイズにするかかなり悩んだ。決め手は、フロントを一周するファスナー。アウトウィークのようにガバッと開くタイプはめずらしい。もちろん閉めたままで上から詰めて一気室のバックパックのように使ってもいい。
山旅の時はたいていドミトリーに泊まるわたしは、限られたスペースで荷物を開けなければならなくて結構難儀していた。バケツ型だと、下の方の荷物を取り出すには、全部放り出さなければならない。荷物が散乱すると物が見つからず無くし物も増える。ボストンキャリーのように全開になればいいのになぁと思っていた。
このバックパックの一番の特徴は背面の構造にある。蝶々のように背面パッドが開く! という斬新さ。その形状があまりに不思議で「これ、どうなの?」という第一印象。背負ってみるとザック本体と背面パッドがやや離れていて、これで安定するだろうかという心配もあった。この構造の利点を実感したのはフィールドに出てから。
気持ちのいい下りではついつい小走りするシーンもあった。そんな時に一緒に行動していた上田カメラマンから「それ、全然揺れてないね」と言われて気付く(笑)。走るために考えられたバックパック以外は、いくら重心が高くてもフィット感が良くても、これまでワッサワッサと揺れて肩や腰が擦れるのが気になっていた。のんびり歩きなら問題ないが、体が上下する下りや走らないまでもテンポよく進むファストパッキングでは、揺れに敏感になる。
腕を振ったり腰回りが動いたりすることでザックが遅れてついてくる感じで、動きと揺れとギャップが気になるのだ。それが、この背面構造は、ショルダーと背面パッド、ウエストとパック本体を繋ぐ”腱”のようなストレッチ性のあるスタビライザーが付いているので、常に体にフィットし、動きを追随してつつ、サスペンションのように衝撃を吸収してくれる。ショルダーが肩から浮いて揺れる感覚がなく、快適な3日間だった。
OUT WEEK 38+6
16,000円+税 背面サイズ:S/M、M/L サイズ:70×27×27cm 容量:44ℓ 重さ:815g(M/L)
《シューズ/OUTline》
スタイリッシュなデザインとカラーは山にも街にも使える。今回のような山と街を繋ぐ旅に最適。
1年を通して山歩きをするわたしは、だいたい無雪期はトレランシューズで、積雪期になると大きくて重い厳冬期用登山靴に履き替える。岩綾が多いルートではソールがしなり過ぎないように、ソールが硬めの軽トレッキングシューズを選ぶこともあるものの、あまりハードな登山靴は履き慣れていない。
その点このアウトラインは、そんなわたしでも違和感なく履くことができる。日本のロングトレイルというのは、山と町を繋ぐ時に林道や舗装路を歩くシーンが多い。トレイルじゃないじゃん! なんて言わず、もしかすると少しは退屈なところもあるかもしれないけれど、生活が垣間見える集落や住宅街を歩くのもまたロングトレイルの醍醐味だと思う。
堅い路面を歩きながら「これを登山靴で歩くのは辛いよなぁ」といつも思う。何日も連続で歩くことに慣れていなかったり、長距離長時間歩き慣れていなかったりすると、とにかく足が楽であることは大事なポイント。アウトラインの重量は、片足約290g(24.0cmの場合)で見た目に反してすごく軽く、スニーカーのようでありながらも安定性は十分。ゴアテックス(GORE-TEX)の防水性能は小さな渡渉や水たまり、マッドな路面でも気にせず歩くことができた。
1日目の嵐山以降の渓流沿いのトレイルは岩と苔でちょっと気を遣う場面もあったけれど、ソールのグリップがしっかり岩を捉えてくれた。もうひとつ絶対に外せないわたし的なシューズ選びのポイントとして、下山後の町歩きでも履き変えなくて良いかどうかだ。京都は山から町が近く、トレイルヘッドを出た途端に観光客であふれている。そんな時に“浮かない格好”ってのはやっぱり重要! なにせみんなキラキラしているから。とくに観光都市京都はね。
アースカラー系のシックな色使いで街着と合わせても違和感がなく、防水だからさっと表面の泥を落とせば街履きと変わりない。お洒落なゲストハウスでも恥ずかしくなかった。わたしのポリシーは、山でも街でも身なりはちゃんとこだわって好きなスタイルでいること。見た目、大事でしょ。
OUTline GORE-TEX
13,000円+税
MEN サイズ:25.0-28.5cm 重さ:350g(27.0)
WOMEN サイズ:22.0-25.0cm 重さ:290g(24.0)
《パンツ/ウェイファーラーテーパードパンツ》
4WAYストレッチ素材を使っているので、登りも下りもまったくストレスなく行動できた。またシンプルなフォームのおかげで、京都の街歩きでも違和感もなし!
じつは最初に手に取ったとき、一瞬「これ……わたしに履けるかな」と怯んだ。見た目があまりにスリムだったから!ドキドキしながら足を入れてみるとストレッチ性に優れていて、膝下はスマートな印象だけどお尻や腰まわりはキツすぎずフィットする。
サイド、ヒップなどに配置されたポケットはシームレスなのでスタイルの邪魔をしない。軽くて薄い生地で、ロングパンツでも暑さやもたつく感じもしない。初日にパンツの裾を泥で汚してしまい、翌日も同じものを履くのかぁ、と気がかりだったけれど、さっと水洗いすればすぐに乾いた。撥水加工がされているので、軽い雨ならレインパンツを履くことなく行動もできるはず。
主張するロゴやゴツイパーツもないいたってシンプルなデザインで、アウトドアウェアっぽさがなく、街着としても違和感がなく「山から下りてきました感」がなくて京都の町にうまく溶け込めたんじゃないかと思う。
ウェイファーラーテーパードパンツ
9,800円+税
素材:ライニング/ポリエステル100%、ボディインサート/ポリアミド86%+エラストーン14%、ボディ/エラストーン14%+ポリアミド86%
重量:255g
(文=中島英摩、写真=上田 崇)
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