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ザ・ノース・フェイス x スパイバー(Spiber)が、新タンパク質素材使用のTシャツを限定発売へ!
2019.06.26 Wed
北村 哲 アウトドアライター、プランナー
ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE) x スパイバー(Spiber)が、世界で初めて開発に成功した人工合成クモ糸素材「QMONOS®︎(クモノス)」を使用したプロトタイプ「ムーンパーカ(MOON PARKA)」を発表したのが、2015年10月。翌年に製品化も発表されていたが、その後、延期されていました。
2015/10/9世界で初めて開発に成功した人工合成クモ糸素材「QMONOS®︎」を使用したプロトタイプ「ムーンパーカー」を発表した際の特設サイト
2019年6月20日、ついに両社が共同研究で開発してきた「タンパク質素材」を使用した製品発売の発表!
そして、この4年間の取り組みと当時めざしていたものから、さらに飛躍したタンパク質素材の開発についての説明がありました!
◾️この4年間、どんな壁に直面していたのか?
関山和秀 Spiber取締役兼代表執行役
最初に説明があったのが「スーパーコントラクション(超収縮)」という問題。2015年の発表の時点では、人工合成クモ糸素材「QMONOS®︎」の開発は順調だった。しかし、天然のクモの糸は、乾いていると強靭なのだが、水に濡れるとゴムのように伸びるという大きな特徴があったのだ! これは、アウトドアのアウターウェアとしては、致命的ともいえる問題点でありました。
さらに、ザ・ノース・フェイスの品質基準の厳格さは、天然素材を模倣した繊維でプロダクトをつくろうとした際に、さまざまな壁に直面したのです。
アニマルフリー(動物素材を使用しない)、マイクロプラスチック排除などの取り組みなど、多くの要求もあり "単純に天然のクモの糸を模倣した繊維を作る" ことから"使用用途にフィットしたタンパク質素材の開発" に方向転換されていったそうです。
◾️新たなタンパク質素材「ブリュード・プロテイン(構造タンパク質)」とは?
タンパク質は、20種類のアミノ酸が直鎖状に繋がった生体高分子であり、生命体を構成するもっとも重要な材料のひとつだそうだ。 酵素や抗体のように生理的な役割を果たすものと、細胞骨格やクモの糸のように構造的な役割を果たすものがあります。
スパイバーでは、後者を「ブリュード・プロテイン(構造タンパク質)」と定義しているそうで、毛や爪などを構成する「ケラチン」や、骨、皮膚などを構成する「コラーゲン」も「ブリュード・プロテイン」のひとつになるといいます。
この「ブリュード・プロテイン」とは、スパイバーが開発した微生物由来の「発酵」からつくり出しているそうです。日本人には馴染みの深い「発酵」によって、石油由来でも、植物由来でもない、アニマルフリーの新素材というわけです。
クモの糸のひとつのブロックの組み合わせパターンでも、天文学的な数字になるほど膨大にあるそうで、生物は、このタンパク質の組み合わせを自分の体内でつくり出すという制限の中で生みだしています。
しかし、このプロジェクトは、人間が持つ知識と技術で生み出すものであり、その制限はありません。生物の体内機能の制限にとらわれず、必要なものをつくり出すという技術開発を続けることにより、必要に応じた新素材「ブリュード・プロテイン」が生み出されるということになります。
生物の制約から解き放たれ、天然では存在しない、または辿り着けない、すばらしい特性をもった持ったタンパク質の素材が、無数に生まれる可能性を秘めているそうです。
「ムーンパーカー」の量産で直面した「超収縮」という問題は、コンピューターで実験的に検証した1400以上の遺伝子を合成し、分子レベルで突き詰めていった結果、90%以上の抑制に成功したとのことでした。
スパイバーは、188件以上の特許(patents)を取得・出願中です。慶應大学を中心に共同研究も行なっており、査読論文を16本学術誌にて発表しています。世界の同分野の他社よりも、タンパク質を使いこなすことは、一歩二歩リードしています。(関山氏)。
「ブリュード・プロテイン」は、もはや天然のクモの糸やウール、カシミヤなどの模倣品ではなく、それぞれの使用目的に合わせて設計・製造される全く新しいタンパク質素材となります。そして、ついに商業ベースの量産化に向けて動き始めました!
◾️「Planetary Equilibrium =地球の均衡」 という名のTシャツ。その意味は?
今回、ザ・ノース・フェイスとスパイバーのコラボレーションプロジェクト「THE NORTH FACE Sp.(エスピードット)」からリリースされる、記念すべき第一弾アイテム「Planetary Equilibrium Tee(プラネタリー・エクイリブリアム ティー)」。
これは地球生命圏におけるバイオマス(生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの)の割合にインスピレーションを得て制作されたものだそうです。
右:渡辺貴生 GOLDWIN副社長
「DO MORE WITH LESS 」とは「最小限のエネルギー・物質・時間で、最大限の機能を引き出す」という、バックミンスター・フラーが、私たちに教えてくれている考え方。自然界の中にある様々な原理を活用しながら、新しい価値や技術を開発していくということにつながる。自然界だけでは無し得ないということを人間としての知識や姿勢で、より有効な方法論を開拓していく。このプロジェクトのベースには(「DO MORE WITH LESS」という考えが)しっかりあり、この4年間、一緒に製品の開発をやってきたんです。(渡辺氏)
2018年、米国科学アカデミー紀要に発表された学術論文「The biomass distribution on Earth」によると、地球全体のバイオマス重量の約82.5% を占めるのは一次生産者である植物であること、細菌、菌類、古細菌、原生生物を含む微生物が植物に次ぐ17%を占める。動物は0.5%と極めて少なく、さらに人間は全体の0.01%程度の存在にもかかわらず、人間と家畜を合わせた重量は、野生動物全体の実際の重量の20倍を超えるそうです。
この新素材でリリースされるTシャツは、植物由来のセルロースである「コットン(綿)」と、スパイバーが生み出した微生物由来のプロテイン「ブリュード・プロテイン(構造タンパク質)」を、地球のバランス(植物 : 動物・人間)を感じられるよう、それぞれの素材を ”82.5 : 17.5” の割合で配合(綿82% : ブリュード・プロテイン18%)して作られています。
これは、一次生産者である植物とエネルギー効率の高い"微生物"から資源を生産するというビジョンを表しているそうです。
ボディに配置された「Nutrition Facts(栄養成分表示)」をモチーフにしたデザインは、再資源化が可能であることを示しています。
Tシャツを実際に触ってみた感想は、厚手の生地で、しっとりとした滑らかさがある質感がありました。着用して直接肌に触れれば、さらにこの新素材の特徴が感じられそうです。
このTシャツ、今回は250着の予約限定販売となります。特設サイトで受付し、後日抽選のうえ当選者へと案内されます。
受付期間:2019年6月20日~7月20日14時まで
申し込み:先行抽選予約受付
購入場所:THE NORTH FACE ALTER(東京都渋谷区神宮前6-10-9原宿董友ビル1F)
◾️今後の展開は?
工場のイメージ:spiber社ホームページより
気になる今後の展開だが、現在タイで量産体制に向けた商業用プラント(工場)の建設が進んでおり、2021年から商業生産開始をめざしています。このプラント製造規模は、現在、⼭形県鶴岡市で稼働している発酵パイロットプラントの約100倍になります。
生産コストについても、タイの工場が稼働すると数百トン規模の量産工場となり 「目標としてきた、工業製品としてマーケットに流通出来る1キロあたりの単価が100ドルの壁を大幅に超えて、40〜50ドルをめざせる」と関山氏は自信を見せていました。
ただし、さまざまな製品に展開できるのは、2024~25年ごろの予定ということで、今後の製品の発表や量産化には、もう少し時間がかかりそうです。
◾️2019年11月に「ムーンパーカー」発売予定!
リリース:2017/11/07「MOON PARKA®」改良試作品のテスト検証をゴールドウインテック・ラボで開始/新世代構造タンパク質素材を用いた世界初のアウトドアアパレル
Tシャツに続き、「ムーンパーカー」が、ついに発売予定という発表もされました! 4年間の開発期間を経て、ザ・ノース・フェイスが定める、厳格な品質基準をクリアする目処がたったそうです。
8月に改めて発表があるとのことで、まずはこの「ムーンパーカー」発売に関する発表を待ちましょう!