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より心地よく自然と付き合うために。アウトドアライター高橋庄太郎のマムートとの山歩き ー後編ー

2019.10.07 Mon

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

 あれほど暑かった夏が過ぎ、日本は本格的な秋を迎えている。平地よりも標高が高い山は季節が進むのも早く、日本アルプスなどの高所は、いまや晩秋の趣だ。

 南アルプス鳳凰三山でマムートの新作バックパックとシューズのテストを行った前編に続き、今回の後編ではインサレーションを取り上げたい。そのモデルは「メロンインフーデッドジャケット」。これもまた今期の最新作である。
「メロンインフーデッドジャケット。サイズはXS~3XLまで用意され、重量は300g(Mサイズ)だ。カラーは4色。
 なんといっても注目したいのは、その軽さとボリューム感だ。なにしろ中綿に使用されているのは、900フィルパワーという超高質のプレミアムホワイトグースダウン。それでいて重量はたった300gに抑えてある。インサレーションの保温力は、「中綿の質」×「中綿の重量」でおおむね計算できるが、現実的には暖気を逃がさない「表地の性質」や「ウェアのデザイン」もそこに関係していく。単純に考えれば、いくら900フィルパワーでも、ダウンが10gのウェアであればあたたかいはずがないのだ。では、表地やファスナー含めて300gに仕立てたメロンインフーデッドジャケットは、どれほどの保温力を持つのか?
ウェアの内側の様子。バッフルといわれるチューブ状の部分に、たっぷりとダウンが封入されていることがわかる。裏地には、誇らしげに「900+」の表記。この「+」というのは、内部のダウンの性質が900フィルパワーどころか、それ以上あることを示している。
 前編ですでに書いたように、僕は初日に登山口から鳳凰小屋まで登り、その日はテント泊を行なった。後編の話はそこから始まっていく……。
夜を迎えた僕のテント。あたたかなダウンジャケットを着こみ、コーヒーを飲みながら、山の地図や資料を眺める時間は、まさに至福だ。
 鳳凰小屋の標高は、2400m弱。山中では標高100mにつき約0.6℃気温が下がるといわれ、平地よりも14℃程度は涼しいという計算が成り立つ。しかし、登山で疲れ、汗で汚れた体は冷えやすく、実際はさらに気温は低く感じる。今回の登山中は半袖でも暑く、ダウンジャケットを着ることなど想像もつかなかったが、やはり高山では温暖な時期でもインサレーションは必携装備だ。とくにテント泊の場合は、あたたかなインサレーションを「着られる寝袋」として着用したまま眠れば、寝袋を薄手のもので間に合わせることができ、荷物の軽量化にもつながる。

 テント内でメロンインフーデッドジャケットを着ていたとき、僕はマットを座椅子のように使って腰かけていた。こういう姿勢の場合、ジャケットによってはフロントのファスナーが腹部でもたれ、着心地が悪くなることがある。僕はジャケットを含むアウターを選ぶ際、できるだけ「Wファスナー」仕様で、ファスナーの開き具合を調整しやすいタイプを選ぶようにしているが、それは裾を開くことにより腹部のもたれを防いだり、状況に応じてベンチレーターのように使うこともできるからだ。その点、メロンインフーデッドジャケットは、僕好みのWファスナー。かがんでいてもファスナーが邪魔にならず、暑く感じるときは換気しやすいのがいい。
ファスナーの引き手が2つついたWファスナー仕様。それぞれ上下に動くので、首元を閉めたままで裾だけ開く、なんてこともできる。わかりやすさを考えて、テント外で撮影したカット。裾が開くために、ジャケットの下部が持たれることがなく、座わっている際も非常に着心地がよい。フロントのファスナーに比べ、ポケットのファスナーは極細。そのためにウェアをしっかりと押さえていないと開け閉めがスムーズにいかないこともある。だが、その分だけウェアの柔軟を損ねず、着心地のよさをつねにキープしていた。
 寒い時期にテント内で眠る場合、寝袋のフードに加え、インサレーションのフードも併せて被ると保温力は増す。メロンインフーデッドジャケットのフードは、頭部が狭苦しく感じないほどのサイズ感があり、冬季はヘルメットをしたままでも被ることができるほどだ。むしろちょっと大きすぎるのではないかと思うくらいだが、顔の周辺をコードで簡単に絞ることができ、少々大きくても頭部の暖気はあまり流出しないで済む。
頭部だけではなく、首元もあたたかくしつらえたフード。かなりのボリューム感で、コード類は内側につけられている。コードは片手で引っ張るだけで調整可能。顔の周りが円形に絞れ、暖気が逃げる隙間がとても少ない。
 朝になると、テントのフライシートは雨が降ったかのように結露で濡れていた。出入りの際にジャケットの表面もかなり濡れてしまったが、表地の撥水力は充分で、大きな支障はない。ただ、縫い目が防水処理されているわけではないため、過度な濡れには用心し、水滴がついたままで長時間放置することは避けたほうがよいだろう。
表面に思い切って水をかけてみた状態。この後に軽く叩いただけで表面の水滴はすべて弾き飛んだ。
 僕は夜明け前にテントを撤収し、鳳凰三山のひとつ、地蔵岳をめざして稜線へと登って行った。周囲は次第に明るくなってくるものの、太陽はいつまでも雲の下だ。だが、いずれは雲の上へ出る。できれば山頂付近でご来光を眺めたい。
歩き始めこそ肌寒さを感じるが、稜線までは300m以上登らねばならず、荷物が重いこともあって、だんだん汗が流れ始める。太陽が昇ってくるのは東側。僕はほのかな光のなかにそびえる富士山の美しいシルエットに期待していた。
 地蔵岳の山頂にはオベリスクと呼ばれる巨大な岩が屹立している。その先にはクライミングの用意がなければ登ることができないため、今回は山頂直下の稜線で太陽が顔を出すのを待つことにした。登り坂でかいた汗は冷えはじめ、僕はバックパックにしまい込んでいたメロンインフーデッドジャケットを再び身に着ける。
重量300gはやはり相当な軽さ。稜線上には風もあり、手から離すと簡単に吹き飛ばされてしまいそうだった。7デニールという極薄の表地にはあまり伸縮性はないが、余裕をもったつくりなので、体を締め付ける感覚はない。脱ぎ着する際もほとんど引き攣れる感じはなかった。
 風が吹く山頂直下は想像以上に涼しく、インサレーションがなければ長時間留まろうとは思わなかっただろう。だが、メロンインフーデッドジャケットの保温力は充分。より寒い時期は、この上にハードシェルやレインウェアを着込めばさらにあたたかいと思われた。
地蔵岳の山頂直下には、小さな地蔵が並んでいる。その前に座り込み、僕は雲の下から太陽が出てくるのを待った。雲は思いのほか高い場所で雲海をつくり、太陽はなかなか出てこなかった。もっと風が強かったら、ダウンジャケットの上にレインウェアなどを着込んだかもしれない。このジャケットの袖は、ゴムで絞ってあるだけの非常にシンプルな形状。これならば外側にアウターを着ても手首部分がごろつかず、着心地を損ねない。
 待つこと数十分。光の中にかすんでいた富士山のシルエットはだんだん明確になり、見事に青い富士となった。下に広がる雲海もいい。こういう景色が見られるのは、南アルプスのひとつのよさなのだ。僕は待った甲斐があったと、満足感に浸った。
雲海の中に浮かぶ巨大な島のような富士山。自分の脚でここまで歩いてきたからこそ見られる風景だ。
 鳳凰三山は、地蔵岳に加え、観音岳、薬師岳という3つの主要な山頂から形成されている。まだ先は長いと、僕はここから縦走を開始することにした。脱いだジャケットはバックパックへ。このときは次の山頂でもすぐに羽織れるようにと、ただ押し込んだだけだったが、メロンインフーデッドジャケットはパッカブル仕様でもある。小さくまとめて持ち運びたい人にはうれしい工夫だろう。
思わずジャケットを着たままで歩き始めようとしてしまった僕。後ろには甲斐駒ヶ岳がどんとそびえていた。バックパックにジャケットを押し込む。さすが900フィルパワーのダウンだけに、非常に小さく圧縮して収納できる。メロンインフーデッドジャケットには表側の腰元以外に、内側にもポケットがつけられている。かなり大型で、湿ったグローブなども収納可能だ。裏返した内ポケットのなかにジャケット本体を押し込んでいく。最後にファスナーを閉めると、コンパクトな長方形に。
このテストは夏でも寒冷な南アルプスの高山で行なったが、寒さを増していくこれからの季節、メロンインフーデッドジャケットは低山でも活躍することだろう。アウターとしてレイヤードのいちばん上に着てもよいが、真冬や高山ではアウターを上に重ねれば、さらに保温力は増す。柔らかな表地やシンプルな袖のつくり、そして多少圧縮されてもボリューム感を保つ900フィルパワーのダウンは、インナーダウンとしての用途も想定したものなのである。このジャケットは汎用性が高い。一枚あれば、シーズンを問わずに活躍してくれるにちがいない。
地蔵岳から観音岳に向かうと、八ヶ岳が美しく見えるスポットを見つけた。これだから稜線を長く歩く縦走は楽しい。
前編のバックパック、シューズに引き続き、後編ではインサレーションのテストを行なった。マムートの今期新作には、ほかにも実力派が控えている。一度、ショップやウェブサイトをチェックしてみるとよいのではないだろうか?

(写真=飯坂 大)





より心地よく自然と付き合うために。アウトドアライター高橋庄太郎のマムートとの山歩き ー前編ー

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