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【短期集中連載 FUTURELIGHT】第3回 無雪期登山で「フューチャーライト」のジャケットをインプレッションしてきたぞ!

2019.10.21 Mon

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

 さて、前回の発売記念イベントで、ますますその機能性に興味をもった新素材「フューチャーライト」。筆者はさっそくイベント終了後、秋の北アルプス山行にあわせてサミットシリーズ「FL L5 LTジャケット」を購入。登山やクライミング向けのハイエンドモデルの実力を探ろうというわけだ。

 結果から言うと、スライドトークショーでザ・ノース・フェイスのアスリートからも感想があったとおり、「非常にしなやかで着心地がよい」「行動中の蒸れ感も少なく、快適に着続けられた」。ただし、この結果には前提がある。その「着用したまま快適に行動するための重要なポイント」を、筆者の感じたインプレッションとともにお伝えしたい。

最初に訪れた大渚山の登山道では、紅葉が始まっていた。樹林帯の中、先頭を山岳ガイドの松本省二さん、後方を筆者が歩く。


「FUTURELIGHT(FL L5 LTジャケット)」の結果まとめ

<スペック>

◾️ザ・ノース・フェイス「FL L5 LTジャケット」
・素材:20D×30D Recycled Breathable Polyester FUTURELIGHT(3層)
(表:ポリエステル100%、中間層:ポリウレタン エレクトロスピニング膜、裏:ポリエステル100%)
・サイズ:USAサイズ/XS、S、M、L
・重量(USA Mサイズ):(レディース)約305g、(メンズ)約330g
・カラー:(レディース)ノックアウトオレンジ、ブラック (メンズ)ファイアリーレッド、メルトグレイ

◾️着用環境

・10月上旬、無雪期の登山。
・台風が近づいており湿度が高く、晴天から小雨や強風に移り変わる天候の中、標高を変えて2ヶ所の山を歩いてみた。

<インプレッション1>
・大渚山(1,566.3m)で実施。登山道入口は、標高 約1,300m。晴天、気温18度くらいの樹林帯で、登山スタート。のち、小雨。
・行動時間は往復 約3時間30分(山頂での休憩含む)。

晴天の大渚山山頂で。

<インプレッション2>
・「白馬岳蓮華温泉ロッジ」をベースにした。白馬岳の北の端、北アルプス新潟側の玄関口。中部山岳国立公園区域内。
・ロッジのある標高1,475mの登山道入口からスタート。登り始めの気温は 約13度、小雨、やや強い風の中を登山した。
・樹林帯から岩のカール地形周辺を往復 1時間ほど行動。

蓮華温泉では、小雨・やや強い風の中を登山した。

◾️インプレッションの感想

・通気性と透湿性は◎
・しなやか生地、肌触りがよい、シャカシャカ音がしない=着心地は抜群によい。
・薄くて軽い、蒸れ感をあまり感じないソフトシェルのようなイメージ。
・ベンチレーション不要の快適さ。
・胸ポケットの位置や大きさ、ファスナーの仕様、裾のストラップの収納など、ちょっとしたギミックが、すばらしい設計。
・小雨の中、約1時間ほどの行動を行ったが、撥水・防水についての問題はなかった。
・ゴアテックスのような保温性(防風によって得られるもの?)は、特に感じられなかった。

その通気性によって、サイドのベンチレーションが不要になるほど。軽量化と同時に、デザインをシンプルにすることにもつながっている。

(上左)片手で上下できるほど、スムーズなファスナーを使用したポケット。(上右)山と高原地図が、そのまま入る大きな左胸のポケット。内側にメッシュのポケットもある二重構造。(下左)右胸は、メッシュの内ポケット。(下右)最下部を調節するドローコードの収納は、このバンドで。事故防止にもつながる、細かいギミックがすばらしい。

◾️素材のパフォーマンスを引き出すために、着用時に注意したいこと

・特に気温や湿度が高い時(もしくは自身の体感温度で、すでに暖かい時)には、自分の温度感覚に合わせたレイヤリングが重要。
・着用時に、少し肌寒いくらいのレイヤリングが、行動時に蒸れ感を感じずらい環境をつくる。
・雨や風の中で行動時間が長くなる場合、その高い通気性によってウェア内に湿り気を感じることがあった。プラスαのレイヤリングとして、防風性防水性を重視したものを重ねる、という柔軟なアイデアも有効。

試しに、フューチャーライトの上からゴアテックスのウェアを重ね着してみた。ゴワゴワはするが、防風とそれによる保温性を感じた。豪雨の時は重ね着することで、防水も確実に強化できるだろう。

< 気になったポイント >

・サイズが、USサイズのみの展開。筆者は175cm、65kgだが、メンズSサイズでも日本人には、ひとまわり大きい印象。袖も少し長く感じた。
・ハーネスを意識したパターンなのか、ウエストのフィット感が少しタイト。背面は少し長めで、お尻にかかる。
・小雨の中で一時間ほど行動した際に、ザックを背負っていた圧力のかかる部分にはベッタリと水が広がっていた。中にしみてくることはなかったが、長時間の激しい雨での撥水性や耐水性については、引き続き注目しておきたい。

ふたりともメンズSサイズ(USサイズ)を着用。同じような体格だが、ともにサイズ感が少し気になった。

 いきなり結果から書いてしまったが、ここからは2ヵ所で行ったインプレッションについて、それぞれ詳しくレポートしていこう。

大渚山 標高1,566m。雨飾山に隣接し、山頂にある展望台からは、白馬方面、妙高方面など、まわりの山々がよくみえる。

 今回のインプレッションでいちばん試したかったのは、「本当に、着用したままで行動し続けられるのか?」ということだった。先日のイベントでも登壇者全員が「防水透湿性」と「通気性」については太鼓判を押していたが、彼らはいずれも過酷な環境下での着用だ。私は、湿気の多い日本の山で、ひとりのユーザーとして試してみたかったのだ。

 今回のインプレッションは、友人の山岳ガイド・松本省二さんにも同行してもらった。松本さんは、ザ・ノース・フェイスのサポートガイドだ。普段から同社のさまざまなアイテムを使って登山やクライミングをしているので、インプレッションの交換もしやすい。また白馬エリアにも詳しいので、今回の取材にあたっても的確な意見やアドバイスをもらえると考えたからだ。

 今年の秋は、秋雨前線と台風のおかげで天気が変わりやすく、しかもまだ湿気のある暑さも残っていた。実際、インプレッション当日も天気が崩れ始めており、予定していた白馬岳の稜線あたりは強風。結果的に登るのを断念したほどだ。

 ただ、これもインプレッションにはいいチャンスだと、急遽をプラン変更。風の影響を受けづらいフィールドを求めて、小谷村の大渚山へ。登山道の入口がある湯峠から山頂まで標高1,500m前後の樹林帯をめざした。大渚山のコースタイムは片道1時間10分ほどとコンパクトだが、アップダウンや展望のよいポイントもあり、インプレッションに適した山だった。

(上左)山頂に近づくと展望が開け、あたりが見渡せるエリアに。ただし、崖に注意。(上右)後ろには雨飾山。うっそうとした樹林帯を抜け、山頂まであと少し。(下左)山頂で記念撮影。このときは、まだ視界良好。展望台からは付近の山々もよく見えた。(下右)下山時に小雨が降り出すと、色の濃い虹がくっきりと浮かび上がった。

 出発時、体感的にはTシャツやロングスリーブ1枚で登っても平気な温度だったが、あえてメリノウール100%のTシャツ1枚の上に直接「フューチャーライト」を着てみた。そこで驚いたのが、着心地と肌触りだ。Tシャツの上に直接ハードシェルを着用すればゴワゴワするし、いくら浸透性を備えているとはいえ、肌に直接裏地が当たるのは着心地が悪いものだ。が、それがまったくなかったのだ。

(上)ベースレイヤーとして筆者はメリノウール100%のTシャツを、松本さんは化繊のロングスリーブを着用。その上に直接「FL L5 LTジャケット」を着て行動した。

 肌に直接触れる裏地部分も非常にソフトで、まったく違和感がない。そして、もちろんシャカシャカと生地がこすれる音もしない。

 いちばん検証したかった「通気性」は、快適性として実感できるものだった。脇にベンチレーションがなく、前ポケットも貫通してはいないのだが、歩いている間も何度かフロントファスナーを上げ下げしたぐらい。ベンチレーションがなくても、まったく問題なかった。高い湿気と弱いながらも日差しがある中で、あえて上着を着用したにも関わらず、こんなに快適に歩くことができたのは驚き。山頂に着いた時の快適さに、テンション上がり気味の声を上げてしまったほどだ。

 ただし、勘違いしてはいけないのがジャケットの機能性だけでこの結果が出たわけではないということ。「状況にあったレイヤリング」や「歩くペース」といった「着用条件」が整ってこそ。フューチャーライトのいい点をさらに引き出すレイヤリングを組み合わせてやることで、これまでにない快適さを実感することができるだろう。

 <インプレッション1>が終了。天気は、どんどん崩れてきていたが、ガイドの松本さんに、やはりもっと標高を上げてインプレッションしたいと相談し、当初予定していた「蓮華温泉ロッジ」に移動した。

 <インプレッション2>は、白馬岳「蓮華温泉ロッジ」周辺のエリアで実施した。ここでの目的は1,500mより標高を上げ、さらに気温が低い場所でフューチャーライトを体験してみることだ。どんなレイヤリングが有効か? 本当に着用したままで、過度に蒸れずに行動は続けられるのか? などの疑問を実際に行動して試してみたかった。

蓮華温泉ロッジ」は、白馬岳の最北位に位置し、標高1,475m。新潟県側からの北アルプスへの玄関口の山小屋だ。もともと上杉謙信が鉱山を掘っていた時に、偶然見つけたという天然温泉。4つの野天風呂とロッジ内に内湯がある。

 天気予報では明け方から天気は崩れ気味。気温は12度と期待通りの肌寒さだ。ベースレイヤーにはメリノウール100%のロングスリーブを選び、その上に直接「FL L5 LTジャケット」を着て、無理をしない程度に稜線近くまで登ってみることにした。

天気が崩れる気配のなか、ロッジからは五輪岳や雪倉岳が見えた。ときおり猛スピードで吹き流される雲の隙間から光がさし、紅葉が進む山肌を照らす。

 ロッジの裏手にある樹林帯の登山道から、野天温泉のある岩場のカール地形に向かって進む。前日に比べると紅葉も進んでおり、標高が上がっていることを実感する。小雨と強めの風に見舞われたが、これもインプレッションには最適。まさに望んでいた気候だ。前日の日差しを浴びた蒸し暑さとはまるで状況が変わったせいか着心地はいっそうよく、蒸れも感じなかった。

(上左)小雨の中、標高を上げていく。(上右)硫黄の匂いと湯気が、辺り一面に漂う。(下左)地面から、ボコボコと温泉が湧き出してくる。(下右)雨の中でも、快適に行動できた。

 樹林帯をぬけると、一気に風雨が強くなる。カール状の地形の中でも風が強く、稜線に出るのは危険として、登山はここで終了。そこで、カール状地形の中をしばらく歩いて「撥水性、防水性」のテストをしてみることにした。

 雨や風の中で行ったのだが、「浸透性、通気性」と「撥水性、防水性」は、どちらも良好だった。ただし、今回はザックも軽量で、行動時間は1時間程度と短かった。これがもっと重い荷物を背負って、長時間の移動となると同じ結果になるかは気になるところだ。

(上左)フードの調整は後頭部のコードで。片手で行なえる。(上右)フードはパターンもよく、形が調整できるワイヤー入りの大きなツバが好印象。視界を広くとることができ、雨の中でも快適だった。(下左)パンチ穴加工で口元の処理も抜かりなし。(下右)手首のストラップは大きく、グローブをしたままでも使いやすそう。

 インプレッションを実施してわかったことは、「非常にしなやかで、着心地がよい」「行動中の蒸れ感も少なく、快適に着続けられた」ということ。そして、更に実感したのは、「行動に合ったレイヤリング」が必要ということだ。

 どんなウェアにも言えることだが、ウェア選びは行動との相性が大切になる。開発の目的であった「行動中に脱ぎ着をしないで、そのまま気続けられる」ことができるジャケット。それを実現させた最大のポイントは「通気性」だ。であるなら、このジャケットの通気性を理解し、行動中の体温がどう変化するかを予測したレイヤリングを採り入れることで、このジャケットの長所を最大限に活かすことができる。

筆者のレイヤリング。(左)ザ・ノース・フェイス「FL L5 LTジャケット」メンズ:サイズS。(右上)撮影時のレイヤリング例。メリノウール100%のロングTee, ザ・ノース・フェイスのベントリクス(ストレッチ性のある化学繊維にスリットを入れた中綿)を使用した軽量ダウン。(右下)蓮華温泉で、雨の中、稜線をめざしつつ状況を確かめる。

(左)山岳ガイドの松本省二さん。(右上)今回のレイヤリング。防寒用に、ザ・ノース・フェイスの「ベントリクスベスト」をチョイス(右下)全部のインプレ終了に、更に寒くなった時のレイヤリング提案をしてもらっているところ。ここでは、ベースレイヤーにザ・ノース・フェイスの赤のフーディーを提案。

 たとえ素材に目覚ましい進化があったとしても、その機能を最大限に引き出すためには、素材に合った使い方が求められる。フューチャーライトだから、何もしなくても快適、ということではない。

 フューチャーライトの特性を理解した上で、自分の体温や行動、気候を考慮し、レイヤリングを組み立てる。そうすればこの素材は汗冷えを抑え、シェルでありながら一日じゅう着たままで過ごす、という理想のシェルを現実のものにしてくれるのだ。

 今回は、サミットシリーズのジャケットでのインプレッションだったが、スティープシリーズやフライトシリーズにも興味深い製品が用意されている。また、今後発売予定だという「シングルウォールのテント」や、アスリートたちから製作希望に上がっていた「シュラフカバー」など、素材の特徴を生かした製品の登場にも期待してしまう。フューチャーライトは可能性のかたまりだ。その可能性がどういった姿になって現れてくるのか。これからの展開が楽しみだ!

(文=北村哲 写真=古瀬美穂)

「フューチャーライト」の広告ビジュアルで登場している「ヒラリー・ネルソン」が、ドリームラインを滑走した時のドキュメント映像作品。着用しているのは、今回のインプレッションで着用したものと同じ、登山やクライミング向けハイエンドモデル、サミットシリーズ「FL L5 LTジャケット」。行動中のレイヤリングも気になるところだ

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