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【短期集中連載 FUTURELIGHT】第4回 厳冬期の旭岳で「フューチャーライト」が際立つ状況を検証してみた
2019.12.10 Tue
林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者
短い期間ながら「フューチャーライト(FUTURELIGHT)」の魅力をぎゅぎゅっと凝縮してお伝えしようという短期集中連載も、いよいよ最終回。4回目は冬目前というわけで、フューチャーライトを実際に試した雪上インプレッションをお届けします。
参加したのは2019年2月に北海道は旭岳で開催された「SUMMIT/STEEP ディーラーミーティング」。ザ・ノース・フェイスを販売する主要小売店のスタッフが全国から集合し、SUMMITとSTEEP両シリーズの新製品に触れる機会が設けられました。で、その際の目玉となるプロダクトがフューチャーライトを採用した製品だったというわけです。
全国から70名近くのディーラーさんが集結。2019年トップクラスの話題となるであろう「フューチャーライト製品」に袖を通し、その実力を体験した。
このイベントに、Akimamaもメディアとして参加。北海道のドン深パウダーを相手に、新素材「フューチャーライト」の良いところを余すところなく味わってきたというわけです。
何しろフューチャーライトの発表は2019年9月。イベント開催時には製品は何も発売になっていません。というわけで、写真に写っている製品はすべてサンプル。形としては量産品の「ピューリスト(Purist)」ですが、現在売られているものとは、色やデザインの一部が異なります。が、機能的な部分は同一。というわけで今回は見た目のお話ではなく、機能性に焦点をあてた「フューチャーライトの雪上性能」についてレポートすることにしましょう。
1. 本当に着たまま行動できる!
フューチャーライトの着心地の軽さ、生地の柔らかさについては前回までにしっかり語られています。ファスナーの扱いやすさや使いやすいポケット位置など、細かな使い勝手についてはさすがザ・ノース・フェイスと唸るしかありません。
そうした詳細を超えて気になるのは「ホントに、そこまで『ヌケ』が良いの?」ということでしょう。それについては写真を見ていただくのが近道です。
左/歩き初めは全員ファスナーを首元まで上げているし、フードをかぶっている人も多い。このときの気温はマイナス10度。あまりの気温についつい厚着をしたくなるが、このあとは運動量が上がって体温は上昇する。少し寒いのをガマンするくらいでちょうどいいのだ。 右/何度か目の登り返し。フューチャーライトを脱いでいる人は誰もいない。息が切れるほどのハイクアップをして体温は上がり、間違いなく汗ばんでいるはずだが、ジャケットを着たままでも不快感がなく、脱ぐ必要性を感じないのだ。この2枚の写真で着用状態がほぼ変わらないことが、フューチャーライトの特徴だ。
雪山をハイク(=自分の足で歩いて登ること)し、そこから滑り降りてくる。リフトのない自然の山をステージに滑走を楽しむことができるバックカントリーは、滑り手にとって格別の満足感を与えてくれます。
このバックカントリーツアーでは歩くことが前提のため、ハイク中はどうしても体温が上がりがちです。また、慣れないうちは他の人についていこうとしてついついオーバーペースになりがち。こうしたことから汗をかきやすくなってしまいます。
ハイクの前にはシェルは脱ぎましょう、汗をかかないですむ涼しいウエアで歩きましょう、というのは、汗冷えしないために必要な、バックカントリーの定石です。
ところがフューチャーライトを着た全員が、ジッパーを首元まで上げたまま歩いています。SUMMITやSTEEPを扱うディーラーであっても、全員がバックカントリーに慣れているわけでははありません。中には必要以上にもがいて、体力を使ってしまう人もいるはずです。それでも誰一人、ジャケット内がオーバーヒートしてジッパーを下げるようなことはありませんでした。
もちろん運動していますから、多少は息も上がり、汗もかいています。それでもジャケットを脱ぐほどでない。それだけ『ヌケ』が確保されている。これがフューチャーライトの特徴を如実に表していると言ってもいいでしょう。
こうしてフューチャーライトを「着たまま」ハイクアップしたあとは、待望の滑走タイム。旭岳を知り尽くした地元ガイドの案内があれば、たとえ前日に降雪がなくても太ももまで潜ってしまうようなパウダーにありつくことができます。
ザ・ノース・フェイスアスリートの生の滑りを間近で見ることができた点も、このミーティングの大きな収穫。力強いターンで雪を踏んでいくのは河野健児さん。
いざ滑る段になっても、今までのように脱いでいたジャケットを着て、という手間がありません。みなさん、ササッと手早く滑走モードに切り替えて、腕を組んで自分の番を待ちます。そうして雪の斜面に飛び込めば、そこはまさにパラダイス! そもそも滑走用に作られたウエアは窮屈なところもなく、素直に滑りの動作に追従してくれます。
見た目に斜度感のあるスロープも、柔らかい雪のおかげでスピードコントロールは簡単。ここぞというラインが見えたら、スプリットボードのノーズをフォールラインに向けて一気に加速。ボトムギリギリで特大のターンを切れば、ここに来これて良かった!という充足感が全身に染み渡ります。
そのあとは再びハイクアップで、次のポイントへ。丸一日、歩いて滑って、歩いて滑って。それをずっと繰り返していても、結局一回もジャケットを脱ぐことはありませんでした。
2. ローカルが検証する、旭岳でのフューチャーライト
いくら通気性があって『ヌケ』が良い、と言われても、比較対象がなければわかりません。
実は筆者は旭岳の麓の町に住んでおり、冬の間はしょっちゅう旭岳のバックカントリーで滑っています。基本的にはハイクアップの時間が長いため、保温着は『ヌケ』の良い「動的保温着」と呼ばれるものをチョイス。ハイクアップだけでなく滑っている時も運動によって体温が上がるので、基本的には薄着です。具体的には、
ベースレイヤー1/ポリプロピレンの疎水性肌着(ファイントラック アクテイブスキン)
ベースレイヤー2/メリノウール混紡の吸汗速乾肌着(ファイントラック メリノスピンサーモ)
ミッドレイヤー/動的保温着(アウトドアリサーチ アセンダントフーディー、ポーラテック アルファダイレクト使用)
シェル/防水透湿ジャケット(ティートンブロス ツルギ、ポーラテック ネオシェル使用)
といったレイヤリングがスタンダード。それでも寒さを感じるときにはシェルの上から着るタイプの保温着を使いますし、風の強い森林限界以上で行動するときは、シェルはゴアテックス プロを使った アウトドアリサーチのホワイトルーム ジャケットに切り替えています。
今回はいつものレイヤリングのまま、シェルだけをフューチャーライトに変更して、その使用感を試してみました。
左/薄日がさす絶好のコンディション。それでも着たまま、黙々と歩を進めることができる。この頃になると、登りではジャケットを脱ぐ、という常識が前時代的であったことを痛感している。 右/ジャケットもパンツもカッティングがライディング向き。スノーボードならではの動きをしても窮屈さや突っ張り感はなく、滑っている間もシルエットが崩れない。
まず一番に感じるのは、ゴアテックス プロを使ったホワイトルーム ジャケットに比べるとムレ感はゼロといってもいいレベルだということです。ホワイトルーム ジャケットでは歩き始めて10分もすれば、ウエアの中が汗ばんできます。そのまま急登に入れば、汗を避けることはできません。そのため、どうしてもハイクの際には何度かベンチレーターを開けて体温調整をしなくてはいけませんし、場合によっては立ち止まり、バックパックをおろして、ジャケットを脱がなくてはなりません。
この手間が嫌で、稜線に出ない日はツルギを導入しています。経験的にフューチャーライトはツルギと同じくらい「着たままいけるなぁ〜」と思わせてくれます。また稜線上で風に吹かれると、風上側にひんやりと「通風性」を感じることがあるほど。このわずかな通風性が、シェルの中の湿度が上る前にムレをジャケットの外へと染み出させているといった印象です。
しかしジャケットの性能はムレ感だけで決まるものではありません。厳冬期の気温マイナス25度でハイクアップ中に、稜線上の風に叩かれたときには、風を通さないゴアテックスの性能や、風に押し潰されることのないハリのある生地が役に立ちます。ムレ感や着心地の軽さだけを見て、製品の優劣を語ることはできません。
大切なのはそれぞれの製品がどういった使用状況を踏まえて、どういった性能を特化させ、それによってユーザーにどういったメリットをもたらそうとしているかです。ウエアは道具であり、道具は用途に合わせて使い分けるものです。Akimamaとしてはひとつの道具にオールマイティであることを求めるのではなく、その製品が生かされるコンディションをていねいに探ることこそ、メディアの仕事だと思っています。
その意味でフューチャーライトが生きてくるのは、バックカントリーではないかと思っています。高負荷なハイクアップから、運動量そのものが減りながらも強烈な風にさらされる滑走まで。体温も、ウエアの中の温度も激しく上下する行動様式の中で、一着のシェルをずっと着たままでいられる。この驚くべき守備範囲の広さ&驚異的な包容力こそ、フューチャーライトのメリットです。
旭岳の麓に住み、この山を知り尽くしているローカルガイドの中川伸也さん。ザ・ノース・フェイスアスリートでもあり、最前線でフューチャーライトを愛用している。
自分で着てみて、歩いて、登って、滑ってみて。その快適さには驚かされました。そして何よりも、お借りしたサンプルながら、2日間に渡って使用した中で、一度も違和感がなかったことにも感心させられました。最初からしっくりなじむ。ウエアとしての機能性と共に、そうした「服」としての心地よさが蔑ろにされていない点に、ザ・ノース・フェイスの品質が表れていました。
3. フューチャーライトを正しく使う
通気性とともに気になっていたのは、フューチャーライトの耐水性です。つまり、強い圧力がかかった際の湿気もどりや浸水も確かめてみたい点の1つでした。
旭岳の2月下旬は厳冬期の終盤ですが、2019年は春が早く、ザ・ノース・フェイスがおこなうディーラーミーティングが開催された頃の気温は明け方でマイナス12度前後、日中はマイナス5度前後まで上がりました。気温の上昇にともなって日照面の雪は湿り気を帯び始め、空気には春特有の湿度を感じるようになっていました。
本当ならみぞれの中で一日ハイクアップをして、どのくらい濡れないか、どのくらいムレないかを確かめたいところでしたが、天候的にそれは叶いません。そこで意識的に、雪の上にお尻をつけたまま30分ほど座ってみました。さらにシールの脱着時には雪の上にひざをついて圧力をかけてみます。
左/本格的なバックカントリーだけでなく、スノーシューや歩くスキーといったスノーアクティビティも行われた。運動量は大きく、それなりに不可の大きな遊びのはずだが、誰一人としてジャケットを脱いでいない。 右/汗や暑さで不快な思いをしない。雪の遊びは、それだけでも楽しさは段違いだ。しかもファスナー類をしっかり閉めていられるので、思い切って雪の中に飛び込んでいくことができる。
結果として浸水はまったくありませんでした。が、ひざは軽めの、お尻にはやや強めの湿気感を感じました。感覚的には水が染みているのではなく、通風性に乗って周囲の湿気を取り入れることで、肌着が湿気を含んでしまったのではないか、という感触も持っています。このあたりは個人の感覚によるものなので、まだまだ結論には至っていません。が、実験室でのデータよりも、実際のフィールドで使ってみたインプレッションを積み重ねていきたいところです。
というのも、もしもこの湿気感が的外れでないなら。フューチャーライトは水分が液体でない環境、つまり極低温下での高負荷な運動状況に適しているということになります。それはつまり、厳冬期の旭岳なんて最適!なのかもしれません。
はたしてフューチャーライトの長所が最も生かされるのはどんなシーンなのか。今後もそうした視点で、この新しい素材が切り開いてくれる未来像をお届けしたいと思います。
(文=林 拓郎 写真=大塚友記憲 )
■FL Purist Jacket & Bib2019年2月に取材で着用したピューリストの製品版がこちら。新雪を求めて自然の山に入るバックカントリースキーとスノーボードのためにデザインされた「STEEP SERIERS(スティープシリーズ)」のスノーウェア。抜群の『ヌケ』の良さでハイクアップなどのハイインパクトな運動に対応しながら、滑走中の激しい動きにも対応できる柔軟さを併せ持っている。
■FL Purist Jacket
サイズ:Men's/XS, S, M Women's/XS, S, M(いずれもUSサイズ) カラー:Men's/BW(ブルーウィングティール×ウィース) 他 全2色 Women's/OK(ラディナントオレンジ×ブリティッシュカーキ)他 全2色 素材:70D Recycled Breathable Stretch Nylon FUTURELIGHT™(3層 [表側:ナイロン91%、ポリウレタン9%/中間層:ポリウレタン、エレクトロスピニング膜/裏側:ナイロン100%] 価格:72,000円+税■FL Purist Bib
サイズ:Men's/XS, S, M Women's/XS, S, M(いずれもUSサイズ) カラー:Men's/BT(ブルーウィングティール) 全1色 Women's/RT(ラディナントオレンジ)他 全2色 素材:70D Recycled Breathable Stretch Nylon FUTURELIGHT™(3層 [表側:ナイロン91%、ポリウレタン9%/中間層:ポリウレタン、エレクトロスピニング膜/裏側:ナイロン100%] 価格:66,000円+税
フューチャーライトについての詳細は、特設ページでも
FUTURELIGHT
https://www.goldwin.co.jp/tnf/special/FUTURELIGHT/
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