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ローバーのタホーが “Looks classical but innovative” をテーマとし、ついに進化した! その名も「TAHOE PRO Ⅱ GT」
2020.03.16 Mon
河津慶祐 アウトドアライター、編集者
発売から30年以上、新素材が開発されるたびに少しづつ改良されてはいるが、基本的な構造は変わらずつくり続けられている登山靴がある。化繊を多用している現代の登山靴とはちがい、ほぼ全面が一枚の良質なヌバックレザー(牛革)でつくられ、クラシックではあるが “山屋の登山靴っぽさ” が愛されているローバー(LOWA)のタホー(TAHOE)だ。
創業者のローレンツ・バーグナー氏(LOrenz WAgner)の名前の頭文字を取って「LOWA」と名付けられた同社は、1923年にドイツ南部のイェッツェンドルフ(Jetzendorf)で創業された。この約100年にもおよぶ伝統的な価値と、“物づくり大国” ドイツの靴職人による先進的な技術と品質へのこだわりで、最高峰のブランドまで上りつめた。
スローガンである「Simply more…」。この意味をローバーに確認すると「単に高級な登山靴やアウトドアシューズをつくるということだけではなく、アウトドアスポーツへの情熱と共に、先端の技術と機能的な素材を結びつけ、可能な限り質の高い靴づくりを純粋に追い求めていくことを表している。」ということだとわかった。これだけで、ローバーの靴に対する強いこだわりが見て取れるだろう。
ドイツ・バイエルン州のイェッツェンドルフにあるローバー本社。大部分の登山靴を製造している工場も併設している。高い品質を維持するため、このドイツ本社工場のほか、一部はイタリアとスロバキアの工場で製造しており、100%メイドインヨーロッパを実現させている。
さて、タホーに話を戻そう。この登山靴は “日本のユーザー” のためだけにつくり続けられている。それはなぜか? 答えは単純。「日本で人気が高いから」だ。タホーは日本でのベストセラーモデルといっても過言ではない。
人気な理由のひとつがラスト(木型)だ。ローバーでは通常3種のラストを使用している。「ノーマル」「ナロー」そして、「WXL」という足の幅が広い人向けのもの。海外製の登山靴は細身で、指の付け根が当たって痛い、という悩みを持つ日本人は少なくなかった。そこで、この悩みに対しての解消をはかるため、タホーには今までこのWXLを採用してきた。
タホーは、長年、モデルチェンジをしていなかった。すでに完成し尽くされたデザインや形であったため、必要がなかったと考えられていたからだ。丁寧にWAXがけを行ない、適切にメンテナンスをすることで、10年以上現役で履き続けているというユーザーが多かったことだろう。
そんなタホーがついにモデルチェンジを果たす。2017年から約3年の開発期間を経て、今年の3月に販売開始されたNewタホー「TAHOE PRO Ⅱ GT」だ。
はじめてリリースされてから細かなアップデートを繰り返し、完成形として位置付けられていた前モデルと比較すると、タホーⅡは、一見すると変更点を見つけられない。が、更なる快適な履き心地を追求し、新たな技術により開発された機能的なパーツを採用し、その中身は進化していた。
もともとのきっかけは、ローバー社前社長のヴェルナー・リートマン氏(Werner Riethmann)が2017年に来日した際に、日本の顧客がタホーに多大なる愛着を寄せていることを目の当たりにしたことだ。「日本の人々が大事にしている “タホー” をもっと進化させてみたい」という気持ちがタホーⅡの製品づくりのスタートとなった。
モデルチェンジにあたって、テーマとなったのが “Looks classical but innovative”。伝統的なデザインを保ちつつ、要所で革新的なパーツや技術を使用していく、ということだろう。
まず改良点のひとつは、ラストの改良だ。前述の通り、甲高幅広であると言われる日本人の足にはWXLラストで対応してきたが、日本のユーザーの世代がかわり、従来通りで果たして正解なのか、ローバーのスタッフは来日のたびに多くの販売店へ足を運び、ヒアリングを通しラストの見直しを決断したようだ。タホーⅡでは、WXLをベースに、さらに甲の抑えがきくような改良がほどこされた「JAPAN FITラスト」を開発し採用された。既存のタホーユーザーもきっと満足できる一足になるだろう。
もう一点、シューレースフックも変更されている。実はこれが今回のモデルチェンジでいちばん大きな変更ではないだろうか。最新のものに変更されたフックは甲の部分にある二種のパーツだ。まずは内部に小さなボールを内蔵しいているフック(ローラー・アイレット)で、これはシューレースの動きを滑らかにする。ベアリングや滑車を想像するとお分かりだろうが、少ない力でシューレースを締め付けることができるようになる。もうひとつは前後に稼働する矢尻状のフック(I・ロック)だ。シューレースを締め、このフックを倒すと、これ以上ゆるんでいかないようロックがかかる。逆にこのフックを立てると、簡単にゆるむようになっている。細かな点だが「ゆるみにくい」というのは、登山ではかなり重要なポイントとなるだろう。
完成までには、3つの試作品がつくられ、4つ目が製品版となった。ローバー本社の製造責任者と輸入販売元イワタニ・プリムスの担当者の間では、シューレースフックの位置やタンの長さなどを、3㎜や5㎜といった細かい修正のやり取りが行なわれたという。これらの位置や長さの変更のほか、使用するレザーパーツのカラーにも日本人の好む配色パターンを提案するなどし、3年もの月日をかけ完成に漕ぎつけた。
他製品との統一感を出すために、革への縫込みにしたロゴ。歩いている時のストレスを少しでも軽減させるために、角が立っている部分の縫製を、肌あたりがいい袋縫いへ。といった細かな点も変更している。
改良点ではないが、ほぼ全面が一枚の皮でつくられているというのは、じつはかなりの利点だ。まず、皮のつなぎ目から水分が侵入してしまう、ということが少なくなる。ゴアテックスが使われているとはいっても、水分の侵入は極力避けたほうがいいだろう。それと、擦れに強いという点だ。皮のパーツが多く、縫い目が増えてくると、どうしても何かにぶつかった時に糸が擦り切れてきてしまう。糸が切れて皮がめくれてしまっているシューズを持っている人は多いのではないか。
もちろん、ローバーでおなじみの「X・レーシング」は健在である。タンの中央部にある突起へシューレースをX字にかけることによって、タンがずれず、快適に歩行することができる。
タホーⅡの開発に携わったイワタニ・プリムス商品部の山本大貴氏と話す、現社長のアレクサンダー・ニコライ氏(Alexander Nicolai)。ニコライ氏は、CEOに就任前、開発と設計の責任者であった。既存のタホーユーザーにも満足してもらえるよう、ユーザーと近い位置にいる販売店スタッフと共に改良点を洗い出し、それを本国へ持っていき開発を進めた。
さて今回、タホーⅡの開発に携わった山本氏に、テクニカルで一番こだわったポイントをインタビューすることができた。
「いちばんこだわったポイントは、足首周りのフィッティング。ラストの変更に加え、フックの位置などを㎜単位で修正を行なっていきました。もっとも驚きなのは、こういった日本的な細かい要望に耳を傾けてくれるローバーの姿勢です。細かい注文を付ける私たちに対して、ローバーはきちんと耳を傾けてくれ、妥協せずに、リクエストごとにサンプルを仕上げてくれました。販売店様のタホーへの愛着と、このユーザーの声を大事にするローバー姿勢が今回のタホーⅡへとつながっていったのだと思います。」
タホーは、昨今のギアの進化からすると “ひと昔前の登山靴” のレッテルを貼られてしまいがちかもしれない。しかし、ローバーの靴づくりに対する強い思い、そして日本の、タホーを売り続けている販売店、履き続けているユーザーの愛が、いまだにタホーを現役の第一線で活躍させているのだろう。
TAHOE PRO Ⅱ GT
重量:870g(サイズUK5片足)
サイズ:UK6〜10.5(24.7〜28.5㎝相当)
素材:アッパー/ヌバックレザー
ソール/ビブラムMasai
価格:46,200円(税込)
TAHOE PRO Ⅱ GT Ws
重量:720g(サイズUK5片足)
サイズ:UK3.5〜6.5(22.6〜25.2㎝相当)
素材:アッパー/ヌバックレザー
ソール/ビブラムMasai
価格:46,200円(税込)
※共に記事掲載時の情報
(画像提供=イワタニ・プリムス 文=河津慶祐)