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【開発者インタビュー】道具やウェアなど女性は圧倒的に製品が少ない。だから専用モデルは貴重だ。

2020.04.20 Mon

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

アウトドアの道具やウェアは
圧倒的に女性モデルが少ない

 登山や自転車、シーカヤックといった夏のアクティビティにしても、冬のスキー・スノーボードなどにしても、女性はどうしてもアウトドアではマイノリティな存在だ。
 マイノリティゆえに、フィールドで使う道具やウェアは限られたものからしか選ぶことができず、ショップや各ブランドのWebサイトをのぞいても男性モデルが多くを占めている。新製品のカタログを特集に掲げた雑誌の中には、女性モデルがほぼ掲載されていないといった例もある。

「なんで女性の情報が載ってないの?」「どこを見ればいいわけ?」

 アウトドア雑誌の編集に関わるかたわらで、仕方ないとわかっていながらもイチ読者として雑誌を開くたびに思うようになり、10年ほど前に創刊したのが女性のためのアウトドア誌『ランドネ』であった。

 それはさておき、男性モデルの方が色やデザインが好みだという女性も一定数いるが、純粋にフィールドで使う「道具」としてそれらを見れば、体型や力に合った物を使う方が合理的だし、道具が合えば疲労も減り、フィールドで長時間を楽しく過ごすことができるのは歴然だろう。ユニセックスを選んだとしても、女性には大きい、重い、硬い……といった微妙な使い勝手の悪さがどうしても拭いきれない。

 そういう意味で数少ないながら存在する「女性モデル」は、本当に貴重なのである。

 今年で10周年を迎える「SECCA snowboard(セッカ・スノーボード)」は、女性プロデューサーと女性ライダーたちによって作られるスノーボードの国産ブランドだ。

 プロデューサーは北海道在住の佐々木(旧姓・三宅)陽子さん。
 18歳でスノーボードを始めた佐々木さんは、選手時代はハーフパイプやスノーボードクロスのW杯を転戦し、冬季のソルトレイクオリンピックにも出場した経験を持つ。また今のようにバックカントリーがブームになる随分前からいち早く雪山に分け入り、フリーライディングの世界でも多くを過ごしてきた女性プロライダーだ(ちなみに中~高時代は器械体操で全国大会に出ていた。余談です)。
「国際大会を転戦するライダーの生活を徐々に退いたあと、もともと一番好きだった雪山を自由に滑るフリーライディングの活動ために、自分のスノーボードを作るチャンスに恵まれました。先輩や仲間と一緒にアラスカや南米、ヨーロッパなど、雪のあるところへスノーボードを持ってでかける旅を続けているなか、女性でも扱いやすいスペックで、より大きな斜面やパウダーライディングを楽しめるスノーボードが欲しくなったんです」

 熱意とともに紹介をたどって実現したのが、現在も継続している「エメラルド」というモデルの誕生だ。
「W杯やプロ戦を転戦していたときは、ハイスピードやGに負けない硬さや張りのあるボードに乗っていました。でも、このエメラルドはしなやかさと軽やかな反発力を合わせもち、低速でもパウダーのなかでふわりと浮いてくるという、当時の私にとって味わったことのない乗り味でした。この板を作らせてもらってからますますフリーライディングが楽しくなって、本格的にスノーボードを作ってみたいと思うように。エメラルドの製作を手がけてくれたメーカー『アクトギア』との出会いは本当に大きかった」

 アクトギアはスノーボードの開発・製造・販売を手がける新潟県燕市のメーカーだ。燕市に自社工場を持ち、アルペンスノーボードブランドのほか、SECCAを始めとするバックカントリーに特化したスノーボードも数多くリリースしている。その社長の中山道夫さんの経験と技術が手探りで始めた佐々木さんたちのスノーボード作りを大きく支えたのである。
長野の間伐材で芯材を作る山喜ウッドコアとともに、当時住んでいた庭の木を新月伐採してスノーボードを作ったことも。

「シンプルに見えるスノーボードも、構造はとても複雑。使う木材の種類やファイバーの選択、アーチラインの形状など、組み合わせは数限りありません。その中から新しく作るモデルの乗り心地にフィットしたものを選び出し、何度もテストを繰り返します。作り始めた当初は私たち女性が乗った感覚を中山社長に言葉で伝えきれず、理想のモデルに近づけるのにとても時間がかかることが何度もありました。OKを出してリリースしたモデルも翌年やっぱり納得できなくて作り直したり……。でもこれも工場直営だからこそできる、とても贅沢なモノ作りだと思うんです。製作がスムーズに行くようになったのは、私たちが詳しくなったというよりも、中山社長が私たちの好きな板のニュアンスを逃さずくみ取ってくれるようになったという方が近いと思いますね」

 最近は、中山社長が上げてくるテストボードがどれもよすぎて選べない、といううれしい悩みを抱えているほどなのだとか。

 

女性が作る女性のための
オールラウンドなパウダーボード

 SECCAは現在18モデルをラインナップしているが、すべてのモデルに共通するコンセプトは単なるパウダーボードではなく、「オールラウンドなパウダーボード」ということだ。佐々木さんにとって、本来スノーボードは“雪山を自由に遊び尽くせる最高の道具”という思いが強く、ナショナルチームで世界へ標準を合わせてトレーニングを積んでいるときも、結果を出すことと共に、「山を自由に滑るためのスノーボードスキルを上げるチャンスだ」という思いがつねにあったという。

「世界に通用するほどの滑る力がつけば、それだけ山の急斜面を滑ったり、難しい地形を思う通りに滑ったりできるようになると思っていました。スノーボードは横乗りのスポーツですが、私はスケーターでもサーファーでもなくスノーボーダー。板を作るなら、変化する山の雪のコンディションや斜面を選ばずに遊ぶことができ、なおかつどんなパウダースノーでも浮力を得られるものをという思いがあります。山頂は深いパウダーでも、山から下りてくればゲレンデも通るし、そこにはパークがあったり壁があったりもしますからね」

 女性に合わせた設計としては、どんなこだわりがあるのだろうか。
「まず軽い、という点。軽量で反発力に優れた桐と、粘り強さを持つヒノキをメインに使っています。バックカントリーではボードを背負ったり、手で持つことも多いので、軽さは女性に不可欠。材料はすべて木目の美しい選りすぐりの国産材を使っていて、節が少ないためにどのボードも均一にクオリティを保つことができています。女性が山に持って行く安全性も考え、ロッカー形状にしたものや安定感のないものは避け、どのモデルも踏み込んでエッジに乗ることでしっかりと雪面を捉えるキャンバー構造(※1)を採用しています。フラットな板だと接雪点が1点になってトラバース時に危険を伴い、滑落につながりかねない。女性のためのパウダーボードとして作っていることもあり、キャンバーボードであることは譲れないポイントでした」

※1:スノーボードを平面に置いたとき中央が盛り上がっている形状。荷重による反発を活かして軽快な動きをすることが得意なボード。

 トップライダーとして世界を転戦していたときにはない、今の生活環境もまた女性に広く受け入れられるスノーボードを作る理由になっている、と佐々木さんは続ける。

「SECCAを立ち上げたのが長女が生まれた年でした。ライダーとして毎日山に行っていたときは硬いボードにも平気で乗っていましたが、産後は脚力も随分と弱くなりました。滑り込んでいるわけじゃないから踏み込む力が落ちた一方で、滑ったあと戻って子どもの世話ができないほどに疲れるわけにもいかない。育児の合間にパッと滑りにいって楽しいボードは、たぶん女性が仕事の合間に週末だけ滑りに行って楽しいボードと似ているのかもしれない。私のスノーボードとのつき合い方が、一般のユーザーのみなさんにグッと近づいたんだと思います」
 佐々木さんを含めSECCAに所属するライダーは7名。うち6名は子どもを抱えるママさんライダーであり、佐々木さん自身も3児の母だ。女性は結婚や出産を経て、生活環境がめまぐるしく変わり、スノーボードなど趣味に没頭する時間が取れなくなる。子どもを優先するあまり、自分の趣味に費やす出費だって抑えることにもなる。だからこそ国産材を用いた国内生産のスノーボードが、高額すぎない価格設定であることもユーザーにとってありがたい。

「その点も私のこだわりです。スノーボードやバックカントリーがお金に余裕がある人にしかできないスポーツにしてはいけないと思うんです。パウダーボードも手が届くものであってほしい。消耗品だから滑っていればやがてヘタってキズだってつきますが、スノーボードが好きなら滑らないという選択肢はありません。ちょっと頑張って、また買おう!という気持ちになってほしいんですよ。これはSECCAというブランドが、アクトギアのシリーズのなかでやらせてもらっているから適度な価格設定にできるんです。本当にありがたいです」
新潟県燕市の直営ファクトリーで職人が一枚一枚手張りで作り上げる。アーティストが描くグラフィックは3年継続するため、妥協できないポイント。工場直営だからこそ微妙な色彩調整も可能だ。
 
多くの女性が楽しめる
自信作が来期も揃う

 ラインナップの中には、浮力を重視したパウダーメインのモデルから、メロウな操作性がどんな地形でも抜群に楽しい1本、滑走能力と浮力を同時に追求したオールマウンテンモデルなど、ユーザーの力量に合わせたモデルがさまざま揃う。2本のスプリットボードもリリースしている。

 ともにスノーボードを作る女性ライダーたちは北海道を始め、長野や新潟で活動している。本インタビューの最中にも、長野県大町市のライダー小松由紀子さんから佐々木さんのもとへ、新しく完成したボード「Rhythm(リズム)」の乗り味が最高だった!と興奮の一報が入った。今年は雪不足に悩まされたシーズンだったが、久しぶりに降った2月上旬の上質なパウダーで初ライディングし、うれしさのあまり山から電話してきたのだそうだ。

「Rhythmは小松さんが提案してくれたボード。彼女が昔大好きだったボードをベースにSECCA的なアレンジを加えて調整していきました。北海道にいる私やライダーの川田希美さんだけでなく、好きな板のテイストが違う各地のライダーがアイデアを出してくれることで、いろんな個性を持ったモデルが多数誕生しました。本当にスノーボードに対する視野が広がる思いです。私ひとりで作っていたらこんなにバラエティに富んで、それでいて全モデルが最高に楽しいスノーボードはできなかった。長さ違い、硬さ違い(※2)をテストするだけでも途方もなく時間がかかるし、頭を悩ます作業。誰が欠けてもこのスノーボード作りはできません」

※2:SECCAは標高の高い場所で想定される大斜面や急斜面用に上級者仕様にアップグレードするオプション「HIGHLAND OPTION」がある。

 小さなガレージブランドから何百と製品を扱うビッグブランドまで、世界中にいるアウトドア好きの女性の声を代弁し、物作りを行なう女性たちがいる。7名の女性ライダーが作るオールラウンドなパウダーボード「SECCA snowboard」の最新モデルは、先日完成した10周年の最新カタログでご覧いただける。

 この先に待つウィンターシーズンに向け、今から吟味(&予算確保!)してみてほしい。

SECCA snowboardのカタログで詳しく見る

 

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