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【OutdoorResearch①】アウトドアでの実践をもとに、ロジカルな思考で問題を解決していく“OR”
2020.11.16 Mon
林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者
“OutdoorResearch”(以下 OR)はロン・グレッグという科学者によって設立されました。
1981年、冒険家でもあったロンはパートナーとともにデナリの氷河をスキーで旅していました。何ヶ月もかけて準備をした冒険の旅はすばらしいものでしたが、160kmほど歩いたところでパートナーのゲイターが破損。雪がブーツの中に入るようになってしまったことから、パートナーは足に凍傷を負ってしまいます。物理学者でもあったロンはすべてに理論的な説得力を求めていました。愛用の登山靴を最後のひとかけらまでバラバラにして構造を確かめた他、さまざまな食料が凍った状態でどんな食感になるかを知るため、ピーナッツバターやソーセージなどあらゆるものを凍らせる実験をしたこともあります。本文にある旅で彼がヘリに乗ることを拒んだのは旅を続けたい気持ちはもちろんですが、何よりも帰り道のためにデポしてきた食料や装備を回収するためでした。
凍傷は酷さを増し、ついにパートナーは歩くこともままならなくなります。最終的にはヘリによる救助を要請し、氷の平原から運び出されることになりました。
このとき、ロンもヘリに乗るよう促されましたが、彼はそれを拒否。2週間をかけてもと来た道を下山します。この時、ロンはひとつの考えを強く心に刻みます。
「冒険には最高のギアが必要だ。結果的にそのギアは安全性を高め、人生を充実感に満ちたものにしてくれるだろう」
科学者でもあったロンは計画が頓挫した原因を冷静に見極め、街に降りてくるとすぐに対応策を取ることにしたのです。
「問題はゲイターの品質にあった。それならば丈夫で機能的なゲイターをつくろう」
そう考えたロンはORを立ち上げ、厳しい自然のなかでもへこたれない丈夫なゲイター「エックスゲイター」を生み出しました。
アウトドアでの実践をもとに、科学者としてのロジカルな思考で問題を解決していく。ロンの姿勢は、そのままOutdoorResearch(=野外考証。ニュアンスとしては、アウトドアにおける道具の研究)という社名になりました。
こうした背景を持っていることもあって、ゲイターはORの顔です。事実、北米全体でのゲイターの売上のうち、なんと70%以上がORの製品というデータもあります。北米の人にとってゲイターと言えばORなのです。【M's Crocodile Gaiters】雪や雨水の侵入を阻み、泥汚れを防止して快適なシューズ環境をつくり出す。ゲイターはハードな環境のなかでこそ活かされる装備です。クロコダイルゲイターは裾部に、ワニに噛まれても大丈夫なんじゃない? というくらいに丈夫なコーデュラナイロンを使用。スネを覆う部分にはゴアテックス®を使うことで余計なムレを防ぎます。その快適さ、使いやすさ、そして堅牢な信頼性から、北米では「ゲイター=OutdoorResearch」が常識になっています。価格:11,000円(税込)【Tundra Aerogel Booties】ロンの旅にこれがあれば、パートナーは凍傷にかからずにすんだかもしれません。Primaloft®Aerogelを使ったテントシューズは保温性抜群。しかも濡れても保温力を失わず、ムレを放出して風を通さないという特性まで備えました。スノーキャンプやバックカントリーの小屋泊など、さまざまな場所を快適なリラックス空間にすることができるテントシューズは、小さくパッキングしてどこにでもしまうことができます。男女各サイズあり。価格:13,200円(税込)【Tundra Aerogel Socks】Primaloft®Aerogelの心地よい温かさを自宅でも。タフな保温性をそのままに、足元をあたたかくキープするルームシューズとしてのデザインを与えました。もちろん、男女各サイズをラインナップ。価格:9,680円(税込)
驚くべきことにORのゲイターはBluesign®認証を取得しています。Bluesign®とは繊維業において労働、環境、消費の観点から持続可能性を確立させた製品に与えられる認証のこと。環境やリサイクルに配慮しているだけでなく、原材料調達の段階まで立ち戻って、児童労働などの不当な労働搾取が行われていないことを確認しています。
こういった製品のバックグラウンドを証明するのは簡単ではないだけに、Bluesign®の取得には手間がかかります。それに、これまでは消耗品として捉えられがちなゲイターがBluesign®認証を受けようとすること自体が常識から外れています。
それでも認証を受けたのは「それが役に立つ人がいるかもしれない」という理由からです。Bluesign®のタグが商品選択の助けになるのなら、それはそれで嬉しいと考えたのです。しかしORはそれを、わざわざ声高にうたうことまではしません。
というのもBluesign®の取得は大して身構えるようなことではない、というのが彼らのポジションなのです。野外での実践をベースに、本当に機能的な製品を、まっとうな正直さでつくり上げる。OutdoorResearchという社名の通りのことを、ごく当たり前に心がけているにすぎない。彼らにとって認証取得は大きなことを成し遂げたわけではなく、日常的な作業の延長上にあったからです。
もしもORのゲイターが消耗品的な位置づけだったとすればBluesign®の取得はむずかしかったでしょう。言えることがあるとすればORのゲイターは驚くほど長寿命であり、結果的にそのことが環境負荷を小さくすることに繋がっているということです。
ゲイターが足元の快適さと機能性を確保するなら、頭部を担当するのはハットです。ORの定番商品「シアトルソンブレロ」は、OR本社のあるシアトルで生み出された、ソンブレロスタイルのつば広帽子です。
この全天候型ハットは雨の日には雨だれを防ぎ、晴れた日には首元に日陰をもたらし、風のない日にはうちわとしても役立ちます。機能的なソンブレロは20年以上に渡ってORのもうひとつの顔として知られています。【Frostline Hat】あらゆる状況に対応してアウトドアでのアクティビティをサポート。シアトルソンブレロに見られる全天候型思考を、そのまま冬用の帽子に持ち込んだのが「フロストラインハット」です。かわいらしいコサックスタイルのウィンターキャップは、軽さと暖かさを追求。雪の中での活動を想定して、表地には透湿性と防水性を備えたPertex® Enduranceを使用しています。内側には肌触りのよいフリースを設け、耳からあごまでをカバーするイヤーフラップ内には、収納式のフェイスマスクを収納。極寒時には目だけを残してあとはすべて覆うことができるというタフな特性を備えました。価格:8,030円(税込)
また「トランセンダントダウン」シリーズは、ORならではのダウンの使い方を見せつける銘品揃い。注目は、その基盤となるダウンの使い方です。
通常、このような「軽さとあたたかさ」をめざす商品では、800FPあたりのロフトの大きなダウンを使います。手にしたときのふわふわ加減やあたたかさは最高ですが、800FPとなると濡れや経年劣化によるロフトの低下も著しくなり、厳しい状況では狙った通りの性能を発揮することがむずかしくなります。そこでORではあえて650FPのダウンを使用。オーバースペックなあたたかさは狙わず、ラフでタフで使いやすいダウンをめざしました。つまり快適性よりも、頑丈であることに重きをおいているのです。こうすることで、かなり使い込んでも基本性能を失いにくい製品寿命の長さも備えています。【Transcendent Down Beanie】クシュッと小さく収納できる、冬に嬉しいダウンビーニー。スノーキャンプのナイトキャップだけでなく、隙間を埋める能力の高さから、ヘルメットの下にかぶるという使い方も人気です。価格:6,600円(税込)【Juneau Beanie】釣りやマウンテニアリングスノーボード、ヘリスキーといったアクティビティを堪能できる、人里離れたアラスカのパラダイス「ジュノー」の名を冠したクラシックなビーニーです。さまざまなウィンタースポーツのフィールドはもちろん、街なかでもファッションアイテムとして役立ちます。価格:2,750円(税込)【Alpine Onset Ubertube】あたたかくムレにくい。しかもイヤな匂いがつきにくい。保温力抜群のメリノウール製ネックウォーマーは、人の多い場所では簡易マスクとしても機能します。価格:4,400円(税込)
機能性を大切にする。その姿勢がもっとも色濃く現れているのは手袋かもしれません。
ORの手袋の多くは繊細な動きを妨げることなく自然に握ることができるよう、少し指を曲げたプレカーブ形状でつくられています。これはレスキューや消防士など、タクティカルな状況で活動する人たちからの声を活かしたものです。
もちろんこの種の縫製には手間がかかります。しかし手間を「いとわない」ことこそORらしさにつながっています。【Aksel Work Gloves】牛革を使ったクラシックなワークグローブは、冬場の作業からスノーボードなどのウィンタースポーツにまで愛用されています。野外活動には欠かせないレザーグローブは、プレカーブ与えることで使いやすさが大きく向上します。価格:8,580円(税込)【Transcendent Mitts】650FPのタフなダウンは、グローブにもいかされています。見た目の通り、指先まで快適さを保ってくれるダウンジャケットのようなグローブ。これ以上はない、最高レベルの保温性が自慢です。価格:8,580円(税込)
そうした細やかな対応ができるのも、本社社屋内に縫製工場を持っているから。この工場はGORE-TEX®の認定をうけており、繊細なシームシール処理などをこなすことができます。アウトソーシングではなく、可能な限り自社の管理下で製造を進める。その姿勢が経営と製造・開発をダイレクトに結び、OutdoorResearchの名に恥じない圧倒的な信頼感を生み出しています。
そして製造部門が本社内にあるという体勢が、コロナ禍の中においても迅速な開発と製造を叶えました。フィールドで必要なものを高いレベルでつくり出す。創業以来受け継がれている一貫した姿勢こそが、先日発売されたエッセンシャルフェイスマスクのような製品を生み出すことにも繋がったのです。
(構成・文=林 拓郎 写真=岡野朋之)
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