- 道具
イッツ・マイ・ナ~イフ♪ 世界にひとつだけのマイナイフを自分の手で作る。FEDECA It’s My Knife
2021.04.07 Wed
渡辺信吾 アウトドア系野良ライター
少し前から気になっていたFEDECA(フェデカ)というブランドのナイフ。なかでも「It's my knife(イッツ・マイ・ナイフ)」というネーミングで販売されているハンドルを自分で削って作るナイフというのが、メチャメチャ気になっていた。
「やられた!」と思った。
もしも自分がナイフメーカーになるなら(ならないけど)、もしもナイフメーカーさんにコピーを依頼されたら(されないけど)、絶対に使いたいと思っていた自分の中でのとっておきのコピーだ。昭和生まれのあなたならわかっていただけると思うが、ボン・ジョヴィのあの曲、あのタイトルのインスパイヤだ。う~ん、悔しいが、仕方ない。もう、ネーミングだけでキャッチされている人間がここにいるのだから、脱帽するしかない。
FEDECAのウェブサイトを調べてみると、ライフスタイル系? セレクト系? オシャレ雑貨系? のブランドなのかと思いきや、兵庫県三木市にある神沢鉄工という企業がやっているらしい。もともとはプロ用やDIY用の工具を作ってこられた企業のようで、創業年が1895年と書かれているので120年以上の歴史を持つ老舗工具メーカーということになる。しかもかの地は古くから「播州三木」の名で知られる刃物の産地だとか。どういう経緯でライフスタイル寄りFEDECAというブランドを立ち上げられたのかは調べていないが、そこが作るナイフなら信頼できそうだ。それに、ネーミングのセンスもいいし……。
ということで、そそくさと購入しようとしていたが、なんと予約商品になっていて「3月以降順次発送」と書かれているではないか? 人気なんだね。※現在は、6月以降順次発送となっている。
ちなみにこのキット、ハンドル部分の加工状態によって難易度が変わり、組み合わさる刃も炭素鋼の「青紙二号」というタイプとステンレス鋼の「銀紙三号」という2種類ある。炭素鋼は切れ味が良いがメンテナンスが必要、ステンレス鋼は切れ味は少し落ちるがサビにくい。私は「【難易度★★☆】It's my knife Folding Standard (炭素鋼 / 青紙二号)」というモデルを予約でポチ。しばらくオーダーしたことも忘れていたが、先日商品が発送され到着した。
油紙を使ったパッケージもなかなか味がある
私が購入したキットのハンドル部は、ハンドルの形状に切り出された平板の状態。角を落として、自分好みに仕上げるタイプだ。
FEDECAのラインナップには完成品も販売されている。もちろんそちらでも十分かっこいいのだが、自分の手で削り出したハンドルというのにロマンがある。価値がある。
「でも難しいんじゃないの?」「失敗したらどうしよう」などと心配されるのもわかる。しかし思いのほか簡単なのですよ。その辺もお伝えできるように工程を解説してみたい。
まずは内容物。
説明書、外形が切り出されたブナ材のハンドル、サンドペーパー#120、#240各1枚、ネジ類、板ドライバー、ブレード(両刃三層割り込み・芯材:安来鋼青紙二号・外層:ステンレス)
ハンドルのフォルムはすでに切り出してあるので、角を少しずつ落としながら自分好みの丸さに仕上げていけばいいだけだ。まずは、ブレードを装着しない状態で仮止めし、板に削り落とす目安の線を鉛筆で描いていく。
削りの作業に入る。私は子どもの頃から使っている肥後守という小刀を使った。はじめは薄めに刃を入れて様子を見ながら削いでいく。
もちろん頭の中ではあのBGMが流れる。
「イッツマイナーイ♪」
と機嫌よく肥後守を動かしていると
「あっ!やっちまった」
思ったより深く刃が入ってしまった。このまま刃を動かすとベッコリいってしまう。でも大丈夫。まだまだ修復可能な深さだ。
木目の方向によっては思ったより深く刃が入り過ぎてしまうので、その場合は反対側から刃を入れて、それ以上深くならないところで削り取る。こういう作業をつづけていくと、だんだん木目の向きと刃の入り具合の関係性がわかってくる。
とりあえずひと通り角を落として様子を見て、もう少し削りたくなってくるので、さらに深く削っていく。
私は彫刻刀の丸刀を使って、肥後守だけでは削りにくい曲面などをさらに彫り削った。
彫刻刀と肥後守を行き来しながら、徐々に望む形に近づけていく
刃物だけで削った状態だとこのように凸凹している。ここからサンドペーパーで仕上げに入ってもいいのだが、もう少し微妙な深さにしたい。
ここで私は一旦手を止めて、ホームセンターへと走った。ヤスリを購入するためだ。
「あった!これこれ」
ホビーヤスリという木工に使える各種ヤスリがセットになったものがあった。丸ヤスリや平ヤスリ、三角ヤスリなど大小セットになっていて千円もしない。
肥後守と彫刻刀で粗く削ったところを各種ヤスリで仕上げていく。面を均一にしたいところは平ヤスリで、曲面は丸ヤスリで削りながら整えていく。
この段階にくると刃物よりヤスリのほうが安心感がある。
この後、サンドペーパーで表面を滑らかになるように磨いていく
最後にネジを外してから、蜜蝋を塗り込んでいく。内側もね。
今回は無垢の状態に蜜蝋を使用して仕上げたが、着色したい人は蝋塗りする前に着色したほうがいいだろう
ブレードを挟んだ状態でネジ止めして完成!
うん、なかなかキレイに仕上がった。これが、オレのナイフ。イッツ・マイ・ナイフ!
あとは使い勝手も気になる。
もともとこのナイフを購入しようと思ったのは、キャンプでの調理用の包丁として使いたかったからだ。
今や、ナイフ一本で調理から薪割りまでできるといったナイフもあるのだが、私の場合は調理は調理に特化したい派。実際、これまでは折り畳みできない包丁を使っていた。だが、できれば折り畳み式がいい。オピネルという選択肢もあったが、いまいち切れ味に不満。ということで、このナイフに出会ったわけだ。
さぁ、切れ味は? 新品ということもあるがかなりいい。ピーマンもストレスなくスパスパ切れる。
普通の包丁は押し切りと引き切りの両方できるが、一般的なナイフは押し切りがむずかしい。だがこのナイフの場合、押し切りもしやすいような曲線的な刃の形状にはなっているらしい。実際、ネギの小口切りなどは包丁のように押し切り可能。ただ刃渡りは93mmということもあり、ピーマンの千切りをしようとしたら先端が刺さってしまいスムーズにいかなかった。できれば、刃渡り100~105mmぐらいのバージョンがあれば即再購入したいぐらいだ。
とりあえず完成したこのナイフ。しかしこれで終わりではない気がする。もう少し手に馴染むように削りたい部分もあるし、ハンドルの色はもっと濃くしたい。ニス? ステイン? 柿渋? ワックス? それとも焼き入れ? ネジ部も真鍮製のものに差し替えたい。完成した直後から、すでにいろいろとカスタマイズする方法を調べはじめている。
さてと、これからこのナイフ、どのように育てていこうか。