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チャコは直しながら使う。リソール&ウェビング交換サービス「Rechaco」で愛用のチャコを復活!
2021.08.17 Tue
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
もう20年近く、チャコのZ2を履き続けている。5月に靴箱から引っ張り出したら、10月末までほとんどの外出にチャコを使う。1年のおよそ半分をチャコで過ごしているので、私の足の甲はくっきり「Z」の模様に日焼けして、冬もZ付きのままだ。つまり、私の足はかれこれ20年Z状態なのである。
頻繁に水に出入りする人にとって、Z2ほど便利なものはない。シューズ並みのグリップ力と踏破性があり、全力疾走もできる。泳ぐ時には水をよくつかみ、水から上がればさっと水が切れる。デザインが洗練されているのでギョサンやビーサンのようにカジュアルすぎない。街で履いていても違和感がないのに、そのまま海や川にザブザブ入れる(そして、上がったあとには知らん顔で街へ戻れる)。
チャコのZ2がどれほど水辺で活躍するかは、以前こんな記事を書いた。興味がある人は(ない人も)ぜひ読んでほしい。チャコにはお洒落な高級サンダルのイメージがあるが、このサンダルは本来、水辺を自由に遊ぶための実用品である。
チャコからZの烙印を押された私である。チャコの輸入代理を行なうA&Fの赤津社長に会ったとき、思い余ってどれほど自分がチャコを愛用しているかを熱弁してしまった。そうしたら、赤津社長が言うのである。
「へー! そんなに使ってるなら、もちろんリチャコしてるんですよね?」
これにはドキリとした。チャコには「Rechaco」というリソール(靴底の張り替え)とウェビングなどのパーツを交換するサービスがある。その存在を知りながら、私はリチャコを利用したことがなかったのだ。
「えっ、あっ、へへえ。リチャコ、いいサービスですよね〜」
などとその場をやり過ごし、改めて反省した。ヘビーユーザーを自認しながら、これまでリソールをせずに履き潰し続けてきたことがずっと引っかかっていたのだ。
修理しながら長く使えることは、チャコを形づくる重要な要素のひとつだ。ここはいっちょリチャコを体験せねばなるまい。晩春のある日、家にあるチャコをまとめてお店へと持ち込んだ。
対応してくれたのは本店勤務の山田さん。「こんな感じなんですけど……」と持参した3足のチャコを並べた瞬間、山田さんの目の奥が光った。
「ちょっと、これは……難しいですね」
「むむっ?」
「リチャコで交換できるのは、アウトソールとウェビングなのですが、藤原さんのは本体であるミッドソール部分まで削れちゃってます。こうなると新しいアウトソールを貼り直すことができないんです」
「もうひとつのほうはミッドソールそのものが壊れてますね。普通は壊れないところなのですが……」
「あのー、藤原さん、リチャコのサイトはご覧頂いていますか? そこにパーツの交換が可能かどうかの目安を示してあるのですが……」
(ギクッ!!)「えっ、あっ、ひっ、ひと通りは……」
「申し訳ありませんが、藤原さんのものはこちらでは受付できません。……が、一緒にお持ち込みされた奥様のZ1はリチャコできるかもしれません。より詳しい者に聞いてみましょう」
新宿本店の上階にはA&Fのオフィスがある。そこから馳せ参じてくれたのはチャコの担当している河野さん。ラフティングをはじめとするパドルスポーツに親しむうちにチャコに出会い、いつの間にかチャコを売る側になってしまった筋金入りのチャコ使いである。確認できなかったが、きっと河野さんの足にもZの烙印が押されているはずだ。
「この程度の損耗ならリソールできると思います。というのも、リソールの作業では古いアウトソールを剥がして、新しいアウトソールを特殊な接着剤で貼り合わせます。このときにミッドソールまで削れていると、新しいアウトソールが貼り付くはずの部分が消失しているので貼れないんです」
修理の可不可は「新しいアウトソールがくっつく場所があるかどうか」という物理的な問題が左右している。チャコも新しいサンダルを買わせるために修理を断っているわけではないのだ。妻のZ1程度の損耗なら、新しいソールをぐいっと曲げて貼り合わせられるかもしれない、とのこと。
「今回はウェビングの交換はどうされますか? 本国の工場には、過去に使われたウェビングのストックがあるので、希望のパターンに変更が可能です。パターンとカラーについてはリチャコのサイトからお選びいただけますが、まれに本国とのタイムラグで希望の色が欠品することも。3種類ほど候補をいただければ、第一希望から順番に在庫をあたります」
急遽妻に希望のパターンとカラーを問い合わせる。「赤っぽい色ならオッケー!」なるアバウトな返事に沿って3つのパターンをチョイスした。
「ソールはどのモデルにしましょう? 現在はビブラム社の耐摩耗性に優れるテレノソールと濡れた路面でよりグリップ力に優れるコロラドソールの2種、そしてチャコが独自開発したチャコグリップソールからお選びいただけます」
こちらは迷うことなくチャコグリップソールを選定。以前のソールはビブラム社の硬めのモデルで減りが遅いことが魅力だったが、水辺で使うなら滑りにくさに全振りしたほうがいい。万事アバウトな妻だが、その違いを感じ取れるだろうか。
「A&Fでは4月と9月の2回、リチャコをするサンダルを本国に送っています。1年で修理されるのは400足程度でしょうか。リチャコは世界的に行われているサービスですが、日本からは古いモデルが修理に出されることが多いとチャコの本社から聞いています。なかには本社にサンプルが残っていないモデルもあるようで、日本から修理希望品が届くのを楽しみにしているそうです」
なるほど、日本人の「もったいない」精神はリチャコの傾向にも表れていた。古いモデルが修理に出されるため、10年以上前のミッドソールに現行品にはないウェビングと最新のアウトソールが組み合わせられ、世界でひとつだけの仕様になることもあるという。
「リチャコを担当していると、長く使えることや修理しながら使えることに価値を見出していただいているのを感じます。年々、その傾向は強まっていますね。チャコの本体価格と修理費用を合算すれば、それなりの金額になります。他のサンダルなら買い替えができるかもしれない。ところがみなさんは修理しながら愛用のチャコを使い続けて下さる。嬉しいですよね」
長く使いたい、というユーザーの気持ちに応えてリチャコのサービスは必要経費だけもらっているという。つまり、リチャコを受ければ受けるほど、儲からないのに手が取られるぶん会社としては損をする。「でも、これでいいと思っています。修理できることはチャコの機能のひとつですから」とは河野さん。
リペアに対するA&Fの姿勢は、チャコ以外の製品にも通じている。新宿本店のカウンターの裏にはガラス張りのバックヤードがあるが、実はここは倉庫ではなくてリペアルームだ。全国の直営店を通じて集められた修理希望品はここで直され、ユーザーの元へと帰っていく。
多くの会社がリペアのサービスを外注したり、地価の安い郊外に工場を設けるのに対し、A&Fは新宿本店のなかにリペアルームを設けている。これは迅速に修理に対応し、取り扱うアイテムにウィークポイントがあった場合、それを洗い出してメーカーと共有する、という考えの表れなのだろう。多くの名門メーカーを取り扱うA&Fだが、その関係性はユーザーやメーカーとともに道具をより良いものにしていく、という社風が支えている(のだと思う)。
閑話休題。こうしてリチャコへと送りだされた妻のZ1は3ヶ月後に手元に帰ってきた。今回は特別に本国でパーツを交換してくれた陽気な担当者の写真付き。お名前は存じ上げませぬが、ありがとうございました!
お礼を心のなかで唱えつつも、さっそく接着部分を小姑目線でチェック! はてさて、新品とリペア品では接着部分に違いはあるのだろうか?
こうして蘇ったZ1。「チャコの故障中にほかのサンダルも履いてみたけど、これがやっぱり足に合う」とは妻。愛用品の復活が嬉しいのはもちろんのこと、使い捨てにせずに済んだのも喜ばしいそう。
考えてみれば、自然界は循環を前提とするシステムである。そんな場所に出かけるのに、天然資源からつくった道具を使い捨てにしていては筋が通らない。野で遊ぶ人は道具を長く使って当然だろう。
私も今シーズンの遊びに備えて、Z2を一足新調した。今回こそ、履き潰す前にリチャコを行なって、できるだけ長く使ってみようと思う。
☆リチャコの詳細ページへはこちらの画像からGO! リペア可能なモデルや換装できるウェビングやアウトソール、修理に出すまでのフローと修理代などが紹介されている。次回のリチャコの受付は9月中旬から開始予定。藤原みたいにフットベッドを傷める前に修理しよう!